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最近JK課やアイドルの起用などで、たびたびメディアで聞くことも多い「鯖江」という街。福井駅から電車で15分ほどの場所に位置しており、改札を出ると目線の先にはメガネの看板が見える。
実は福井県鯖江市は、日本製のメガネフレームの9割以上が作られている「メガネ王国」。
流行に合わせたデザインのメガネが、手軽に買える時代。中にはレンズがついていない伊達メガネをかける人や、300円ショップなどで消耗品などとして買う人もいるが、今なお鯖江のメガネを愛するファンは多いのだという。
長谷川正行さん(写真右)は、鯖江の地でメガネ作りに携わって45年。今でも毎日、日本が誇るメガネを作り続けている。企画営業をされている米谷成司さん(写真左)にも同席していただき、編集部の長沼が話を聞いた。
21歳から始めたメガネ作り
長沼:長谷川さん、米谷さん、本日はよろしくお願いいたします。早速なのですが、長谷川さんはおいくつの時からメガネを作っていらっしゃるんでしょうか?
長谷川:21歳の時からだね。もう45年くらいになる。毎日メガネに触ってきたよ(笑)。
長沼:毎日メガネに触って(笑)。
長谷川:そうだね、毎日(笑)。
長沼:最初はどんな仕事からスタートしたんでしょうか?
長谷川:最初は1箇所だけを習うんだよ。「磨き」なら、もうそれだけ繰り返し。磨く作業だけを続けていたね。その頃の僕らは、「教えてもらう」ってことがなかったからね。
長沼:見て覚える、といった感じでしょうか。
長谷川:そうそう、ちゃんと習った記憶はないんだよ。これをああしろとか、ああやれとか教えてもらう感覚はなかった。自分で見て、あとは我流で覚えていったね。
長谷川:メガネってね、1枚1枚違うんだよね。その人の感覚が違うから。いろんな考え方の人がいるしね。もちろん基本はあるよ。角度とか、鼻幅でどのくらいとか。でもその人の感覚で、1枚1枚おそらくメガネは違うと思う。その人の感覚でメガネが仕上がるんだよね。
(蝶番をフレームに埋め込む作業。これで耳にかけるパーツとフレームが合わさる)
長谷川:磨きも裏のここだけ、みたいに細かく指定されてそこだけ。でも同じところだけやるなんて、僕も嫌なん(笑)。それで、違うところやったりすると「まだ早い!」って怒られたりして(笑)。
(フレームの素となるセルロイドやアセテートの板。ここから型をとる)
長谷川:でも今の若い子は、泥磨きもできない。年寄りしかやってない。誰も教えてないし教えられる人ももういないから。
長沼:……すみません、泥磨きって何でしょうか?
長谷川:粒子の細かいので、表面を綺麗にする研磨だね。ペーパーだと粗さは直せるけど、ツヤは出ないからね。
長沼:なるほど!ありがとうございます。その作業を、もう今の若者はしないと。
長谷川:そう。現実問題、いない。親がやっていれば、子どもに教えているかもしれないけど、会社の中で社員として働いている子に「磨け」とは言わないね。基本的に。
長沼:そういうのあるんですね、時代の流れというか。そもそも、メガネ作りに携わる若者って増えているんですか?
(メタルフレームの上部のみ)
長谷川:いや、携わる若者自体が減っているね。どんどん廃業していくしさ。そこそこの人数の会社なら、後継がいるかもしれないけど……。あと若い子は独立する子がいないね。会社に入る人はいるけど、自分で腕を持って独立する人はいない。
(何十年にも渡ってメガネを作ってきた長谷川さんの両手。長年の思いは次の世代へ引き継がれるのか…)
長沼:そこも昔と比べて変化しているんですね。
長谷川:そう、でも営業はいっぱいいるよ。若い子の発想はユニークだし、固定観念がないから良いと思ってる。僕らは基本が頭に入ってしまっているから、それに囚われがちだけど。
米谷:僕みたいな、図面書く人は増えてるんですよ。パソコン関係のね。
(これから出来上がるメガネのレンズをはめ込むリムの部分)
長沼:形とか、新しいものが増えてますもんね。メガネをかける若い人自体も、前と比べて増えてる気はしますし。ちなみに、長谷川さんはメガネされないんですね?(笑)
長谷川:僕は老眼だから(笑)。かけなきゃ仕事できないほどではないよ(笑)。
長沼:僕、0.1もないんで、ずっとメガネにお世話になっています…(笑)。
安さかフィット感、どちらを求めるか
(リムと鼻当てが一体型のフレーム。サイドの出っ張り部分に上で説明したように、耳にかける部分を埋め込む)
長沼:さっきも少し触れたんですが、メガネをかける若者自体は増えていると思うんですよね。安いブランドもたくさん出ていますし。
長谷川:そうだね。最近だと3,000円や5,000円なんかで、レンズ込みで売られているけど僕からしたら信じられないね(笑)。僕らは国内で作るとしたら、フレームだけでそのくらいするのに。
長沼:僕が中高生くらいの時から、安いメガネが出始めた気がします。
長谷川:そのくらいかねぇ。でも、そういうメガネは昔からあったよ。
長沼:あ、ここ10年くらいの話ではないんですね。
長谷川:そう、安いものは海外から入ってきてるやつ。国内ではないね。安さは魅力かもしれないけど、でも結局お客さんの顔には合わないんだよね。お客さんのフィット感を大切にしてるんかなぁ、とは思うね。
長沼:僕も昔メガネ屋さんでバイトしてたんですけど。
長谷川:あ、そうなんだ?
(後ろには看板娘のモコちゃん)
長沼:はい、実は。研修とかで「ここまでがボーダーライン」みたいのを習うんですよね。ここまで合ってればOK、じゃないですけど。
長谷川:それと比べると専門店は親切だよね、対応が。でも価格と品質、需要がどっちのラインが多いかっていうとね……。
長沼:僕たちの世代だとフレームだけでレンズない子もいますからね。なんでも良いって感覚なんですよね。
時にはパーツを一から作り直してもらうことも
長沼:一番難しい工程ってどこなんでしょう?磨きだけでも大変そうですけど…。
長谷川:何十年もやってきたからねぇ……なんだろう。
米谷:困ることはあるんじゃないですか?頼んでたパーツと違うものがくるとか。
(フレームを研磨して綺麗に磨きあげる)
長谷川:そういうミステイクはあるね。僕と外注側と、思いが違うんだよね。向こうは図面通りだって言うけど、これがメガネになるんかって言ったら、僕としてはちょっと違うんじゃない?ってなる。でも向こうは図面通りだと主張するし。この前もそういうことがあって…。
長沼:それはどうしたんですか?
長谷川:パーツを一から作り直してもらったこともある。材料費とか余計にかかるけど、これはどうしてもメガネにならないと…。若い子はメガネを作る工程をわかってないんだよね。こうなったらメガネになった時に困るでしょ?っていうのが、わからない。
長沼:後のことを考えられてないんですね。
(フレームを研磨して細かな部分まで丁寧に仕上げていく)
長谷川:順番がめちゃくちゃとかね。だけど問屋は無駄にしたくないから、なんとかせえって言われるんだよね。メガネ作りに20くらいの業者が関わる中で、製造が一番分が悪い(笑)。一番主流なのは二次加工。
長沼:二次加工っていうのは?
長谷川:セルのテンプルだけ作るところとか、部分的なところだね。機械で作れるものだから。でも製造だと、傷一つあるだけでダメになっちゃうからね。
メガネ職人を続けてきて
長沼:若い人が減ってるというお話もあったんですが、これから鯖江のメガネが盛り上げるために、何か考えていらっしゃることはありますか?
長谷川:職人は直接前に出て行かないから、これからの発展は正直、問屋次第だね。僕らはそれに応えるだけだから。
長沼:僕なんかは、技術を見てすごいなぁって感動したんですけど。
長谷川:前は他所のところより良いものをって対抗意識持ってたけど、今は世代交代してるから。今は売上追求だけをしてると思うんだよね、商品追求じゃなくて。
長沼:他所との差異化があまり無いと。
長谷川:今は「価格」ばっかり追求してくるから。ユーザーが価格帯を望んでるから、まぁしょうがないけども。ポリシーの問題になるね。
長沼:いやぁ〜難しい…。
(別々のパーツ(リムとフロント)を合わせると一気にメガネらしくなる)
米谷:どうしたらいいですかね?若い子はメガネの職につかないし。
長谷川:今はピーク時より3分の1くらい。メガネに携わってる人にしても、鯖江の生産量にしても3分の1くらいだね。
長沼:人だけでなく、生産量も減っているんですね。
米谷:他所から入ってくるメガネは多いんですけどね。小売屋さんが強すぎるんですよね、普通逆なのに。どんどん抑えられて、ここでしわ寄せが来るんですよ。
長沼:テレビでよく聞く話だ…!
米谷:昔と比べて良くなったのは、海外との取引がしやすくなったことですね。
長沼:どこと取引することが多いですか?
米谷:うちはアジアが多いですね。ヨーロッパだとみんな鼻高いんで(笑)。
長沼:確かに(笑)。でも海外の人で鯖江のメガネを好きな人も多いですよね?
米谷:いますね!実際に鯖江に来たりしますから、通訳つけずに(笑)。
長沼:通訳なしは辛い(笑)。でも国際的に広がっているのは良いですね。
米谷:ただいかんせん、製造の人が間に合ってないですから。
長谷川:でも、僕んところも後継とか…。
あ。(全員の視線が長沼に)
長谷川:お、後を継ぐかい?最初は楽しいだろうけどね(笑)。
ーー鯖江で生まれ育ち、メガネを作り続けている長谷川さん。職人は直接お客さんと話をするわけでもなく、お客さんにとっては一番遠い存在である。しかし大量生産ではなく、1つ1つ丁寧にメガネを作る長谷川さんだからこそ、お客さんの顔を思い浮かべたメガネ作りができるのではないか。
「鯖江のメガネ」はブランドとして認知されており、華やかな面が注目されがち。しかしその商品が世に出る前に多くの人を経ており、今回その根底となる技術者の思いを聞くことができた。
今あなたが身につけているメガネには、そんな作り手の思いを感じられるだろうか。
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