小学生の頃から、何度か社会科の教科書で見かけた「JICA海外協力隊」という言葉。しかし、彼らの活動内容を理解している人は、どのくらいいるのでしょうか。

実際に、TABIPPO代表の“しみなお”こと清水直哉と、ケニア在住で(現在出産のために一時帰国中)の河野リエさんに、JICA海外協力隊の印象を聞いてみると…

しみなお

志が高い人が集まっていそうだよね。寝る間も惜しんで、国際貢献をしているイメージがあって、大変そうというか…

河野リエ

JICA海外協力隊って、実際にどんな場所でどんな仕事をしているのか、ちゃんと理解できていないかも。

と、国際活動への関心が高い2人でも、そこまで詳しくは知らないよう。

そこで、「JICA海外協力隊が何をしているかを知りたい」と調べてみたところ、現在は新型コロナウイルスの影響で、JICA海外協力隊は全員一時帰国しているとのこと…

ですが、聞くところによると、このような状況下だからこそ「今、自分たちにできることは」と考え、JICA海外協力隊として国内でも様々な活動に取り組んでいるらしい。

そこで今回は、清水沙悠梨さん・白石直樹さん、2人の隊員にJICA海外協力隊の気になる現地での活動や現在、日本国内で取り組んでいる活動について取材させてもらうことに!

しみなお・河野リエさんをインタビュアーとして座談会形式でお話を聞いてみました。

しみなお

今日はよろしくお願いします!

清水隊員

こちらこそよろしくお願いします。

白石隊員

遠慮なく、なんでも聞いてくださいね。


宮崎にいる白石隊員、群馬にいる清水隊員とオンラインで座談会を実施しました

身近な人たちがきっかけでJICA海外協力隊員に

しみなお

2人はなぜJICA海外協力隊員になろうと思ったのですか?

清水隊員

もともと特別支援学校で教員をしていた頃から、ひとり旅が趣味だったのですが、ある旅行中にダウン症の男の子に出会ったことが、ずっと自分の心に引っかかっていました。


ベトナムに「障害児・者支援」隊員として派遣されていた清水沙悠梨さん

清水沙悠梨
日本で特別支援学校に勤めたのち、JICA海外協力隊に参加。派遣先のベトナムの特別支援学校にて、障害児・者支援隊員として、現地教員に対して障がい児に対する支援法を助言、研修会の実施などを担当していた。現在は一時帰国し、地元群馬県で日越交流やベトナムの人の生活支援を行っている。

清水隊員

職業柄、その子の外見や言動などを見てダウン症だということに気がつきましたが、彼の母親はそのことに気がついていない様子でした。だから、他の兄弟と比較して「どうしてこの子は私の言うことを聞かないのか、お姉ちゃんよりも成長が遅い」と頻繁に不満をこぼしたり、悩んでいる様子でした。

でも、旅行者である私が「この子にはダウン症という障がいがあります」と教えるのは、ちょっと違うな、と口をつぐんでしまいました。

しみなお

なるほど…。

清水隊員

後々知ったのですが、海外だと障がいがあると認識されないまま生活をしている子ってたくさんいて。あのとき、私はどんな行動を取るのが正しかったのか、帰国後もずっと引っかかっていました。

それで「旅行者」ではどうしても現地の人の生活までは踏み込めない。だから、「JICA海外協力隊員」として現地の人とより近い関係の中で関わっていきたいと思い、応募しました。

しみなお

でも、それを日本ではなく、海外でやろうと考えたのはなぜですか?

清水隊員

興味本位というか、好奇心ですかね。

5年間、特別支援学校で先生をしていると、自分がこの先どういう役職やポジションに就くのかなど、ある程度の予測がついてしまったんです。海外って未知の世界だらけじゃないですか。「なんで?」が連続の世界に身を置くのって、楽しそうだなと思って。

河野リエ

その気持ちわかるなぁ。私の場合は、20代のときに自分には何もないってモヤモヤしていて、そのタイミングで夫がケニアで起業をすることになったので、正直ラッキーって思いましたもん。

しみなお

好奇心や興味を行動に移せるのは、2人とも共通していそうだね。白石隊員はどうしてJICA海外協力隊に?

白石隊員

ずっと剣道をやっていて、大学でも体育学部の武道学科に在籍していたのですが、卒業後、ほとんどの人が警察官か体育の先生になる環境だったんです。

でも、正直なところ、他の人とは少し違ったことをしてみたいなと考えていました。


カンボジアに「体育」隊員として派遣されていた白石直樹さん

白石直樹
日本体育大学体育学部を卒業したのち、JICA海外協力隊に参加。体育隊員として派遣先のカンボジアにて小学校4校、教育養成校1校への体育の巡回指導を担当。一時帰国中の現在は、現地向けに作成した手洗い啓発活動に関する動画制作などを行っている。

白石隊員

だから、大学の先輩が「ウガンダで体育の先生をやる」って聞いたときに、「海外で体育の先生できるなんて最高じゃん」って思って飛びつきました。
そもそもJICA海外協力隊で体育教師としても活動できるなんて知らなかったから、そういう意味でも衝撃で!

しみなお

たしかに。僕も教員免許を持っているから、もしそれを知っていたら、絶対に行っていただろうなって思うもん。

しみなお

大学卒業後、すぐにJICA海外協力隊に参加したということは、最初の社会人経験が、「JICA海外協力隊員でカンボジアの体育教師」ということになりますよね?初仕事が海外ということに対して、心配はありませんでしたか?

白石隊員

うーん…僕の場合はしみなおさんの考えと逆かもしれません。1回就職しちゃったら「海外に行きたい」と言っても、周りから「いまさら何を言っているんだ」って止められるかなと思ったので、早いうちに海外に行っちゃった方がいいと考えました。

しみなお

そういうことなんですね! ところで2人は、言葉の壁に対する不安はなかったんですか?

清水隊員

現地語はもちろん、英語も上手に話せなかったので、実のところ心配だらけでしたね。まあ、その状態で学びに行くという挑戦が、楽しそうだと思ったポイントでもあるのですが。

白石隊員

僕も英語が堪能でないので、語学は不安でした。でも、派遣される前にJICAの訓練所で受けた2ヶ月間の勉強期間にクメール語を習ったりしてからは、めちゃくちゃ楽しみになりました。
※クメール語:主にカンボジアで使われる言語。

しみなお

訓練って聞くと厳しそうなイメージがあるけど…楽しかったのですか?

白石隊員

カンボジア人の先生が、授業中に現地のお話をたくさんしてくれたおかげで、「行く前から任期が終わった後もずっと向こうに住んでいたい」と思ったくらい、カンボジアという国に魅力を感じました。

しみなお

行く前から「ずっと住みたい」と思っていたなんて、よほど魅力的だったんだね。

河野リエ

2人とも海外へ行くことの不安より、明るい未来へのイメージが広がっていたことが、ひしひしと伝わってきました。

河野リエ

私もケニアに移るってなったときに「未知の世界」への期待があったし、「環境が変わったら何か起きるんじゃないか」って期待していたので、すごい共感します。

国際協力という気持ちはもちろん、「自分を成長させたい」との軸で参加を決める方もいらっしゃるんですね。

2人の協力隊員に現地での活動を聞いてみた

しみなお

実際に、2人は現地でどんな活動をしていましたか?

清水隊員

出発前にJICAからもらった要請内容には「現地の教員は経験が浅く、障がいのある子どもに対する専門知識があまりないので、子どもとの関わり方を助言したり、障がいのある子を持つ保護者にセミナーを開く」などと書かれていました。

しみなお

まさに、清水さんが参加したきっかけに近しい内容ですね。要請内容を見たときは嬉しかったんじゃないですか?

清水隊員

うーん…正直、期待に見合えるだろうかというのが本音でしたね。日本でたった5年間しか特別支援学校の教員をしておらず、専門性に長けているわけではなかったので。

しみなお

なるほど。出発前は不安だったとのことですが、実際にベトナムに行ってみてどうでした?

清水隊員

最初、配属先の先生たちは「私たちの学校は、障がい児のための支援を積極的に取り入れていて、教材も揃っています」と言ってくれたので、思ったよりも日本と変わらないなという印象でした。

でも、実際活動が始まると、子どもの支援方法や教材・教具の使い方など、改善した方が良いことが多くありました。

しみなお

なるほど。それで、清水さんはどんなことをしたんですか?

清水隊員

教えるというよりも、現地の先生たちと雑談する中で、何気なく「今度この子がパニックになったら、こうしてみたら?」と提案したり、自分が子どもと関わる様子をあえて見てもらうような場面を作って、伝えるようにしました。


特別支援学校で生徒やスタッフと過ごす清水隊員

清水隊員

夏休みの期間中には、先生たちに日本の特別支援学校紹介や、手作り教材についての研修を行ったりもしていました。


授業風景はこんな感じ

しみなお

白石さんはどんなことをしていましたか?

白石隊員

僕は教育局のスポーツ青少年課というところに籍を置きながら、カンボジアのシアヌークビル市内の小学校4校と、日本で言う大学みたいな教員養成校1校を巡回して、体育を教えていました。

しみなお

巡回型の先生!それは、少し珍しいですね。現地の学校に行ってみて、どうでした?

白石隊員

さっきの清水さんのお話にも似ていますが、年間を通してやることが細かく記されている指導書というものは、既にあったんですよ。でも、いざ学校に行ってみたら、朝イチで外に出て30分もの間、ずっとカンボジア伝統のクメール体操だけやっていたりしたので、少し驚きました。


白石隊員が赴任したカンボジアの学校は、人数が多い!

白石隊員

だから「まずは指導書に沿って、もう少し色んな種類の内容を試してみましょう」って提案してみたのですが、現地の先生と考えることが一致するまでに、少し苦労しましたね。

しみなお

それは難しいことが多い反面、力になる経験ですね。

白石隊員

そうですね。試しにかけっこをさせてみたり、新しいプログラムを取り入れてみたら、反応は良かったのですが、生徒たちもだんだん慣れていくうちに、わがままを言うようになったりして… 色々と苦戦しました。

例えば、マット運動をやるとなれば、女子は「怖くてやりたくない」と逃げてしまうし、男子は「何度もやりたい!」とはしゃいで順番を守らず、言うことを聞いてくれなかったり…。

1人で取りまとめるのは難しかったのですが、現地の先生ともだんだんと協力できるようになりました。

しみなお

最初は苦労していたみたいだけど、先生たちの意識も変わっていったということですね。

白石隊員

変わりましたね。1年目は僕がメインで授業をやって、先生たちは言葉の補助をしてくれるという感じだったのですが、今では、先生たちが指導しているのを僕がサポートする形になりました。


体育の授業風景はこんな感じ

しみなお

それはすごく嬉しい変化ですね。
ライター
於 ありさ ライター・編集者

「働く」と「スキ」をテーマに発信中のライター・編集者|インタビューが好き|将来の夢はコメンテーター|自分の文章や行動をきっかけに、年齢にとらわれず自分に素直でいられる人が増えたらいいなと思っています|スキ:アイドル・サンリオ・サッカー・文房具・いちご・旅行|▷Twitter:@okiarichan27

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