こんにちは、世界遺産ライターのコージーです。
今回は1993年、姫路城などとともに日本初の世界遺産に登録された『屋久島』(鹿児島)へ行ってきました。
「コージーの世界遺産探検記」第6回にして、ついに自然遺産へ初進出。これまで訪れてきた文化遺産とはまた違った味わいがありました。
5日間楽しみ尽くした屋久島旅の様子を前・後編の2回に分けて、お届けします。
旅のはじまりはハプニングから
旅のはじまりから、ハプニングが襲った。鹿児島からフェリーで向かう予定が、台風の影響で、まさかのフェリー欠航。
旅にハプニングはつきもの。その日は鹿児島市内でしろくまアイスを堪能し、1日遅れで屋久島へ。
先に屋久島に到着した友人と合流し、僕たちの屋久島旅は開幕。そう、今回はひとり旅ではない。旅仲間2人とともに屋久島を巡る。
初日は、屋久島で地域おこし協力隊として活動するちぇりーさんにガイドブックには載らないスポットを案内してもらうことに。
最初の目的地は、クリスタル岬。屋久島らしい緑に囲まれた道を進むと……
青い空に、青い海!
これを絶景と呼ばずして、なんと呼ぶ。
前日までの台風が嘘のような快晴。心地よい海風。この景色をしばらく眺めていたい。ずっとここにいたい。そう思わずにはいられない。
自分たちが立っているのは、ゴツゴツとした岩。周りにも岩、岩、岩……。
ここは鉱山の跡地。水晶が落ちていたことから「クリスタル岬」と呼ばれている。
目に入るのは空、海、岩。そして、自然と対峙する自分だけだ。雄大な景色を前に、日常のモヤモヤが吹き飛んでいく。
屋久島の自然が生んだ天然水をゴクリ
昼食を食べた後は、滝之川の一枚岩へ。緑の中を流れる川。聞こえる水音。感じるマイナスイオン。
そして、これが一枚岩。もはやどこからどこまでが岩なのか測れないほどの大きさだ。
屋久島といえば屋久杉をはじめとする森のイメージが強いが、じつは多くの川や滝がある「水の島」でもある。
目の前を流れているのは、屋久島の自然が生んだ天然水だ。透き通る水をゴクリと一口。屋久島の川の水を「飲める」と表現する人がいたら、間違っている。「飲める」ではない。「うまい」「毎日飲みたい」が正しい。
幻想的な空間の主役は…?
ちぇりーさんと別れた2日目は、友人たちと3人でトレッキングへ。話し合った結果、定番コースの1つである「白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)」にチャレンジすることに。
時刻は午前9時20分。標高620mにある管理棟で、森林環境整備推進協力金の500円を払い、いざ森へ。
透き通る水が美しい。まさに屋久島らしい景観だ。
九州最高峰の宮之浦岳(標高1,936m)をはじめ、標高1,000mを超える山々が連なる特徴的な地形と、周囲を流れる暖流・黒潮の影響で、屋久島は日本でも有数の多雨地域となっている。
屋久島を訪れた小説家・林芙美子氏が小説『浮雲』の中で「月に35日雨が降る」と表現するほどに、雨が多い島なのだ。年間降水量は約4,400mmで、島内の電力の99%以上が水力発電で賄われているという。
そうした湿潤な気候の中で育つのが、苔。屋久島では700種類もの苔が生息しているという。屋久島の独特で美しい景観を作り上げている主役は、間違いなく苔だ。
そして、屋久島のもう1つの特徴が植物の「垂直分布」だ。屋久島の面積は、東京23区よりも一回り小さい504.88㎢。その限られた面積のなかで海岸地帯から標高1,000m以上の高山地帯まで標高が急激に変化。標高が上がるごとに植生が移り変わっていく。
白谷雲水峡のトレッキングでは標高600m〜1000m前後を登っていくため、シイ類やカシ類などを中心にさまざまな植物と出会えるのも楽しい。
新たな出会いを繰り返しながらも、どんどん突き進む。なんせ僕たちはトレッキングシューズを履いているのだ。
これは「くぐり杉」。木の根をくぐって、通ることができる。
標高900m付近で現れるのが「苔むす森」。映画『もののけ姫』のモデルになったとされる場所だ。
視界に入るのは、さまざまな緑。全てが、違う緑に感じられる。自分にしか見えない、自分のためだけの緑。僕の目には、そう映った。
全ての光景に目を奪われる
白谷雲水峡は「登山初級者向け」と聞いていたので、ちょっとなめていたが、思っていた以上に登山だった(当たり前)。脚を大きく前に出したり、バランスを取るために踏ん張ったりする必要がある。
特に僕たちは、3種類のトレッキングコースのうち、約5.6kmと最も長い太鼓岩往復コースに挑んでいるのでなおさらだ。スニーカーではとても登れない。トレッキングシューズをレンタルできてよかった。
それにしても、登山がこんなに楽しいとは。あらゆる光景に目を奪われながらも、一歩ずつ進んでいく。
これは「かみなりおんじ」と呼ばれる杉。落雷によって黒く焦げた空洞ができたことから、年をとったおじいさんをイメージし、当時小学2年生の少年が命名したそうだ。
このように、いくつか愛称が付けられている杉がある。屋久島の世界遺産登録20周年を記念して、2013年に愛称を公募。かみなりおんじの他にも「シカの宿」「武家杉・公家杉」など面白い名前の杉がある。
自分のアイディアが正式な名称になるなんて、うらやましいなあ。
ゴールの太鼓岩が近づいてきたところで、ランチタイムに。
木の根元に腰を降ろし、宿から持ってきたお弁当を食べる。
うまい。山を登って食べるご飯がうますぎる。至福のひとときだった。
休憩が終わり、いよいよラストスパート。勾配は険しさを増していく。
友人の前では「全然、大したことないね」と余裕をかますが、息は上がっている。「頑張れ、自分」と心の中でつぶやきながら、登っていく。
そして、ついに標高1050mの太鼓岩までやってきた。
どんな絶景が見られるのだろう。ドキドキ、ワクワク……!
と思ったら、えー!まさかの霧だらけ。
晴れた日には、屋久島最高峰の宮之浦岳や川、渓谷などの景色が見渡せるらしいが、残念。眼下に少し森が見えるものの、視界はほぼ真っ白だ。でもそれがむしろいい。これが僕たちの感じる屋久島だ。
花崗岩(かこうがん)の一枚岩である太鼓岩に座り、しばし休憩。屋久島は花崗岩が隆起してできた島なので、登山をしていると次々と花崗岩に出くわす。
時刻は13時ちょうど。登山開始から3時間40分が経過している。いい時間だ、下ろう。
下りでは、こんな景観を発見。すごいバランス。これも花崗岩だ。
あとはひたすら下っていく。登りではお互い色んなことを話していたが、下りは無言の時間が長かった。
自分の息遣いだけが聞こえる。滑らないように、一歩ずつていねいに足を運ぶ。15時20分、出口に到着した。
適宜休憩を挟みながら、のんびり登って往復6時間のトレッキングだった。
世界遺産登録範囲・西部林道をドライブ
屋久島旅3日目。僕たちはついに、世界遺産の登録地域へと足を踏み入れた。
じつは、これまでの2日間で巡ってきた場所は世界遺産の登録区域ではなかったのだ。
世界遺産に登録されているのは、屋久島の中心部から西の海岸部にかけての10,747haで、島全体の約20%。
観光客にとって、世界遺産に登録されている範囲かどうかは、さほど重要ではない。実際、白谷雲水峡は範囲外ではあるが、屋久杉と苔がつくり出す神秘的な空間に息をのんだ。
とはいえ、世界遺産登録地域という言葉の響きにウキウキする自分がいるのも事実だ。海岸沿いで唯一世界遺産に登録されている地域・西部林道のドライブへ、いざ。
ここでもやはり緑が美しい。
西部林道の一番の見どころは、ヤクザルとヤクシカだ。屋久島は約1万5,000年前に九州本土から切り離されたため、多くの固有種や亜種を含む動物が生息している。
おー、ヤクザルを発見!
ヤクザルは体毛が長く、四肢が短いのが特徴。小さな子ザルは特にかわいい。
おっと、ヤクザル大量発生!
人に慣れているようで、車に出会っても逃げる様子はない。
ヤクシカも発見!
シカはすぐに逃げてしまった。
ヤクシカは、奈良のシカなどと比べて小柄。運がよければ白谷雲水峡でも見られると聞いていたが、残念ながら遭遇できなかったので、ようやく出会えて嬉しかった。
島の20%が世界自然遺産に登録される屋久島。ヤクザル、ヤクシカと人間が共生する森林であり続けてほしい。それでは続きは後編へ。
All photos by Koji Okamura