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ライター
貝沼和 TABIPPO CARAVAN

ソウル在住10年の複業フリーランス。2人の女の子を育てながら、ライター、SNS運用、カスタマーサクセス、コミュニティ運営、日本語教師など「人生に彩りのある選択肢を届けたい」という想いのもと多方面で活躍中。座右の名は「和をもって尊しとなし」

結婚や出産。ライフステージが変わると、今まで好きだったことに向き合えなくなり、いつしか「自分の好き」が見えなくなることがある。

そんな経験をしたことがある方も多いのではないだろうか。

私もまさにそうだ。出産前、私は旅が大好きで、呼吸するように「自然に」旅に出かけていた。しかし、子どもを産んでからは、旅という言葉すらも忘れてしまっていた。

かつて私が好きだったものはすべて遠い記憶の彼方に置き去りにされていた。

そんな私が今年挑戦したのは、1人で東京に行ったこと。20カ国、60都市以上を旅してきたのに、東京に行くことがこれほど大きな挑戦だなんて、自分でも信じられなかった。そのくらい、私は「ママ」というブロックに縛られていたのだった。

60都市以上を旅してきた私が、東京にも一人で行けなくなっていたワケ

LOGphoto by Pixaby
長女を産んで9年。ママの役割を押し付けられて、誰かに反対されて、旅をしなかったわけではなかった。夫は私が一人の時間を持つことも、仕事をすることもいつも肯定的だった。

だけど、結婚をして、日本を離れソウルに住むことになった私は、家庭以外に自分の居場所をうまく見つけられなかった。家庭が唯一の居場所で、「ママ」であることだけが、私の価値を示している気がしていた。

「ママ」を失ったら、自分に価値があるのだろうか。そんな恐怖が、一人になる勇気を奪っていた。子どもから離れることが怖かったのは、子どもの心配よりも、自分自身を守るためだった。

もし旅に出て、私の代わりに誰かが完璧に役割をこなし、自分の居場所を失ったらどうしよう。知らないうちにそう思い続けた私は、過去の自分を記憶の片隅に封じ込めてしまっていた。そして、いつの間にかソウルから数時間の東京でさえ、遠く感じるようになっていた。

新しい居場所が、ママを超えた私を東京へ導いてくれた

LOGphoto by Pixabay
2023年は私自身に少し変化が訪れた一年だった。新しく仕事を始め、少しずつ家庭以外にも自分の居場所ができはじめた年。今振り返ってみると、「私の価値」は家庭だけではないと、自分自身でも感じることができるようになっていたのだと思う。

そんな中、ふと昔一緒に仕事をしていた仲間に会いたくなり、今一緒に走っている仲間にも会いたくなった。もしかしたら、彼らを通して、一人で自由に生きていた頃の自分にも会いたくなっていたのかもしれない。

気がつけば、私は東京行きのチケットを予約していた。そして夫に、「東京に一人で行ってくる。」と告げていた。

久しぶりに感情が動いた。過去の自分と再会する

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photo by Pixbay
ソワソワしていた。モバイルチェックインができること、顔認証ゲートを通ることができること。国を超えて、飛行機に乗るまで子連れだと何人もの手が必要なのに、一人だと何にも必要なかった。

隣には娘ではなく知らない人が座り、久しぶりに映画を楽しみ、機内食で空腹を満たす。その瞬間、「この時間が好きだったんだ」と思い出し、20代前半の頃のキラキラした自分を取り戻す感覚が蘇ってきた。

東京では旧友と日付が変わるまで飲み明かし、思い出話やかつての夢の話を語り合い、新しくできた友人たちともまた、新しい夢の話などをして盛り上がった。

時間を気にすることもなく、話を続ける。そんな時間が、まるでプレゼントのような時間だった。出産前は当たり前に過ごしていたこの時間を、今は噛み締めるように濃厚に、開放感に溢れて過ごしていた。

今何を感じているのか、感情が動く瞬間を逃さないように捉えることで、私はママだけではない自分をしっかりと取り戻して、発見していくのを感じることができた。

こんな友人たちに出会えるような、人生の選択をしてきた自分自身もまた、とても誇らしく思えた。

過去と現在が優しく重なり合った帰り道

Photo by Nodoka Kainuma
独身時代の自分だけが輝いていたわけではない。この旅がそれを教えてくれた。飛行機を降り、帰りのバスから見たソウルの景色は、これまでとはまったく違って見えた。

この街にも私が帰るべき場所がある。家族やソウルでの人との関係性をしっかりと丁寧に築いてきた自分を、誇りに思うと同時に、とても愛おしく感じた。

「大丈夫、私の中にあるソウルもまた、しっかり育っている。10年間、よく頑張ったね。」そうやって、今までの自分の選択を肯定し、労うことができた旅となった。

旅は、やっぱり私にいろんなことを教えてくれる

LOGPhoto by Pixabay

私は旅が好きだ。その気持ちを思い出して、声に出すことができるようになったのも、この東京への一人旅のおかげだった。

ママでなくても、今の居場所が自分に合っていないと感じている人や、そこから離れる勇気が出せずに必死に守り続けている人に、私は飛行機のチケットを贈りたい。

少しだけ、今の世界を飛び出してみる勇気を持ってほしい。そうすれば、帰ってきたとき、同じ場所でもまったく違った風景が広がっているはずだと思うから。

そんなことを今回の東京への旅は私に教えてくれた。

Thmbnail by ikumi

ライター
貝沼和 TABIPPO CARAVAN

ソウル在住10年の複業フリーランス。2人の女の子を育てながら、ライター、SNS運用、カスタマーサクセス、コミュニティ運営、日本語教師など「人生に彩りのある選択肢を届けたい」という想いのもと多方面で活躍中。座右の名は「和をもって尊しとなし」

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