みなかみの秘境にある温泉「法師温泉 長寿館」
約150年前の明治28年から続く温泉が、みなかみ町の山奥の上信越高原国立公園の中にあるという。
現在は国の登録有形文化財にも指定されている法師温泉 長寿館(以下:法師温泉)。「法師乃湯」「長寿乃湯」「玉城乃湯」の3つがある。なかでも名物は明治時代の面影を残す「法師乃湯」である。
正面に見える建物が「法師乃湯」
明治28年に建造されたという「法師乃湯」は、現在混浴となっている。昔は湯屋の中に衝立(ついたて)があり、風呂は男女別だったそうだが、「長寿乃湯(女湯)」ができたことにより、現在は「法師乃湯」は混浴となったのだそう。
アーチ型の窓が特徴的な、法師乃湯
提供:法師乃湯 長寿館
ここ、法師温泉の特徴は「足元湧出温泉」であること。純度100%の源泉が足元から湧き出てくるこの温泉は、同じ法師乃湯でも場所によって少しずつ湯温が異なる。
−与謝野晶子
与謝野晶子がお風呂に入りながら詠んだという丸太のまくら。詠によると、彼女は丸太の枕を使わなかったそうだが、彼女が詠んだ情景に想いを馳せつつ、丸太の枕に頭を預け、ゆったりと過ごすのも良い時間。
日本全国、数多くの温泉に入ったことがあるが、「法師乃湯」と似たような温泉は体験したことがない。
誰も喋らず、シャワーの音もせず、ただただお湯の流れる少しの音と、外から聞こえてくる風の音が聴こえるだけ。とても贅沢な空間だった。
今回は日帰り入浴で立ち寄ったが、日帰り入浴の時間帯は11:00~13:30と比較的短い。宿泊のお客様に、チェックインからチェックアウトするまでできる限り温泉でのんびりしてほしいという想いからなのだそう。
法師温泉は温泉だけではなく、宿泊施設となっている建物も見所の一つ。「法師乃湯」よりも古くからあるのが本館だ。こちらは明治8年に建てられたという。
明治時代の面影を残しつつも、訪れる人々により快適に過ごしていただけるようにと、少しずつリノベーションもされている。
本館にある一室
与謝野晶子、若山牧水、川端康成……数多くの作家や歌人が訪れたというこの長寿館。
かつて与謝野夫妻が宿泊した部屋は「文人の間」と呼ばれている。
いっとき、日常や仕事から少し離れ、温泉に浸かり、本を読み、ゆったりと食事を楽しむ。むしろ何もせずに時間がすぎるのを待つ。これこそが今の僕に必要なことだったのかもしれない。
そんな風に思わせてくれる、静謐な雰囲気を持った宿だった。今回は日帰り入浴で訪れたが、また次回は泊まりに来たい。
・名称:法師温泉 長寿館
・住所:〒379-1401 群馬県利根郡みなかみ町永井650
・地図:
・電話番号:0278660005
・公式サイトURL:http://www.hoshi-onsen.com/
地域のことを知るならば道の駅へ行け
昼食がてら道の駅へ立ち寄った。
道の駅には地域の魅力や特産物が集まっている。その地域のことを知りたければまず道の駅へ行ってみるのも楽しいだろう。
みなかみ町の道の駅「たくみの里」、ここは道の駅というには大きすぎた。「地域の生活文化体験ゾーン」「五感で感じる農業体験ゾーン」「養蚕農家の古民家体験ゾーン」「四季の里山体験ゾーン」の4つのゾーンに分かれているここは、名前の通り、まるで一つの大きな里なのである。
たくみの里では「食」だけではなく、「文化体験」「買い物」などを楽しむことができる。
これは巡り歩いてみたいと思い、「里山食堂」で昼食をいただいてから、里内を散歩してみることに。
地産地消を食して、地域を知る
里山食堂では地元産のそば粉100%を使用したという蕎麦を注文。水の美味しいところには必ずと言っていいほどおいしい麺がある気がするが、ここみなかみ町も例外ではない。
利根川源流に位置するこの町は水が柔らかく、蕎麦作りとの相性も良いという。
たくみの里の農産物直売所の野菜を贅沢に使用した天ぷらのほか、サイドメニューの豊楽豆腐の生揚げも捨てがたく、欲張って色々頼んでしまった。
最近買ったCanonのカメラでせっせと写真に残していく、しみなおさん
想像以上にボリュームのあった豊楽豆腐の生揚げ(写真内手前)
しっかりと腹ごしらえをした後は、楽しみにしていた里の散策へ。
・名称:里山食堂
・住所:〒379-1418 群馬県利根郡みなかみ町須川849−2
・地図:
・営業時間:10:00~15:00
・定休日:水曜日
・電話番号:0278641033
・公式サイトURL:http://takuminosato.jp/
群馬県の木々から生まれた幸せを呼び起こすアロマ「Licca」
日本の古民家が立ち並ぶ中、目を引いた青い看板。「Licca」と書かれたそこは群馬県の樹木を使ったアロマ蒸留工房だった。
ご夫婦で始めたというこの「Licca」。
以前、青年海外協力隊(現:JICA海外協力隊)だったという長壁夫妻。出会いは赴任前に通っていた、国際協力について学ぶ訓練所だった。青年海外協力隊での活動を経て、アロマに興味を持った妻・早也花さんは、植物由来であるアロマであれば将来的にラオスの経済発展に貢献できるのではと考えたそう。
アロマの勉強をしていくうちに、本格的にアロマづくりをして、将来的にはラオスの経済発展に貢献していきたいと目標を持った長壁ご夫婦。
そんなご夫婦がアロマの製造拠点として選んだのが、ここ、群馬県のみなかみ町だったのだ。
「自然豊かなのはもちろん、何よりもみなかみ町の方々がほんとうに優しくて。移住を即決しました」
と、笑顔で話を聞かせてくれる早也花さん。
商品の名前にはスウェーデン語がちらほら。
写真に写っている商品名FIKAはスウェーデン語で「お茶をする」「お茶の時間」
Liccaの由来は「立香」とスウェーデン語で幸福を意味する「Lycka」。購入してくれた人のそばでふわっと香るような香りを作り、その香りでみなかみ町での幸せな思い出を思い出してもらえますように、そんな願いを込めて名付けたという。
行く先々でお店の方と楽しそうにお話しする、しみなおさん
そして気に入ったアロマオイル「FIKA」をしっかり購入
・名称:Licca-アロマ蒸留工房
・住所:〒379-1404 群馬県利根郡みなかみ町須川832−1
・地図:
・営業時間:11:00~16:00
・定休日:火・水曜日
・公式サイトURL:https://www.licca-from-minakami.com/
現代まで紡がれている産業、群馬の絹を知る
じつは群馬県は養蚕農家数、繭生産量、生糸生産量それぞれともに全国一位を誇っているということをご存知だろうか?
世界遺産である富岡製糸場はとくに有名だが、群馬県は日本全土を見渡しても有数の養蚕産業地域なのである。
赤城山の麓にある僕の祖母の家でも離れでは蚕を飼っていた。何百、何千匹といるものだから、小さい頃はなんだか蚕が気味悪くてしようがなかった。今ではそんなことはないけどね。
そんなことを思い出したのは、でかでかと書かれた「蚕・繭・絹の家 工房」という看板を見つけたからだろう。
気になり、行ってみると座繰り(ざぐり)体験ができるとのこと。
祖母の家でも座繰りはやったことがなかったので、体験をさせてもらうことにした。
手回し式の座繰り器を使って、繭から糸を手繰りながら糸枠(いとわく)と呼ばれる木枠に巻き付けていく作業。これによって繭は生糸(きいと)へと変化する。
カタカタカタ…と小気味良い音を立てる座繰り器。
回すことに集中すると無心になれるのも良い。
ここでの体験は糸枠に巻きつけるところまでだが、このあとは生糸を乾燥させてよって撚糸(ねんし)に。さらに表面を覆うタンパク質のセリシンを取り除く精錬(せいれん)という工程を経ることで、美しい光沢が生まれる。
糸枠に巻きつけているところ
一つの蚕からは約1.3kmの糸が取れるそう
絹を生産するだけで、恐ろしいほど手間がかかっているのだ。これをさらに布へと仕上げ、衣服へと完成させていくのだから、古来より絹が高価なものであるのも頷ける。
大人になってから学ぶということが、より一層楽しい。
旅先で体験したことが知識として身につき、より自分自身を豊かにしていくような気がする。旅から学べることは多い。
・名称:蚕・繭・絹の家工房
・住所:〒379-1418 群馬県利根郡みなかみ町須川774−1
・地図:
・営業時間:10:00~16:00
・定休日:火・木・金曜日
・電話番号:0278254517
・公式サイトURL:http://takuminosato.jp/takuminoie/kinu/
水の郷、みなかみ
みなかみといえば温泉である。
群馬県自体、温泉の数がとても多く、関東では温泉地の数がNo.1である。全国的に見ても、8位なのでかなりの温泉大国である。
そんな群馬県には草津温泉や伊香保温泉などの有名な温泉地があるが、みなかみ町にも「水上温泉郷」「月夜野・上牧温泉郷」「三国・猿ヶ京温泉郷」があり、「みなかみ十八湯」と総称される温泉群がある。
せっかくのリトリート旅。急いで帰る理由もないので、みなかみ町に宿泊することに。
宿泊先として選んだのは「MICASA」。宿内にお風呂が3つあるというのも魅力だったが、決め手となったのはビールが楽しめる「水上クラフトビール付きプラン」だった。
露天風呂付きの部屋にしたので、部屋から一歩も出ずにビールを飲みながら露天風呂に入ってゆったりと過ごすのも良し、館内に3つあるという温泉比べをするのも良し、贅沢な選択肢がたくさんあるのが魅力だった。
僕は1日目に部屋でビールと露天風呂を楽しみ、2日目のチェックアウトまでに3つの温泉に入りつつ朝風呂を楽しむという方法をとった。まさに欲張り。
そして、地元の食材を贅沢に使用した食事も、MICASAの魅力の一つ。
「群馬の名物ってなんですか?」
よく聞かれる質問だが、なかなかにこの答えは難しいと思っている。下仁田ネギとこんにゃく、焼きまんじゅうや豚カツ、イタリアンにおっきりこみ……なんて答えたりするものの、正直、群馬の食材はなんだっておいしい。全ておいしいが故にこれといったものがパッと出づらい。
ここ、MICASAでは「上州和牛」という形で群馬県の肉が出てきた。さっぱりとした品の良い脂に、柔らかい肉質。
上州和牛のすき焼き
僕個人としては群馬の豚肉もイチオシ。群馬の豚は世界に誇れると思っている。
食べたらわかる、群馬の豚肉。ぜひお試しいただきたい。みなかみ町ではないけれど、僕の出身地、前橋にある「向島」という豚のしゃぶしゃぶのお店もかなりおすすめ。
・名称:MICASA
・住所:〒379-1617 群馬県利根郡みなかみ町湯原740, 734
・地図:
・電話番号:0278723288
・公式サイトURL:https://micasa-minakami.com/
番外編:帰京する前に少し寄り道を
今回、尾瀬とみなかみ町を中心に巡ってきた。やはり群馬県は僕の故郷ということもあって、一つでも多くのスポットを紹介しておきたい。
そこで、帰京する際に、寄り道したスポットを2つ紹介する。どちらも渋川エリアなので、関越自動車道が近くに通っていて立ち寄りやすい。
日本三大うどんの一つ、水沢うどんの始祖「 手打ちうむどん 清水屋」
「始祖」というパワーワードと僕の名前「清水」ということでなんだか親近感が湧き、立ち寄ってみた水沢うどんの店「手打ちうむどん 始祖 清水屋」。
ここは水沢うどんの始祖である。すでに400年以上の歴史を持ち、現在店には17代目と18代目が立つ。
中国から伝来した饂飩(うむどん)づくりの技法が継承され、400年以上ずっと材料と製法を守り抜いてきたのが「清水屋」である。
清水屋代々の味のざるうむどんと地粉うむどんの相盛り
使う材料は粉と塩と水という至極シンプル。その材料を使って「踏んで、ねかせて、また踏んで、ねかせて、のして、切って、干す」という製法で作られているのが「清水屋」の特徴だという。
干してひと風当てることによって、きめ細やかで滑らかな口当たりになり、一方でキリッとしたこしの強さが生まれると、18代目・大河原健太さんが教えてくれた。
しみなおさん(左)と18代目大河原健太さん(右)
ここ清水屋の名物はごまだれでいただくうむどんだ。宮家御用達である、宮様になにか特別なものを召し上がっていただきたいという思いから生まれたのがごまだれなのだ。
ここ、清水屋に来た際にはぜひここでしか食べることのできないごまだれでうむどんを食べたい。
・名称:水沢うどん 始祖 清水屋
・住所:〒377-0103 群馬県渋川市伊香保町水沢204
・地図:
・営業時間:10:30~14:30
・定休日:木曜日
・電話番号:0279723020
・公式サイトURL:https://mizusawa-shimizuya.com/
キングダムのような世界観「法水寺」で写経を体験する
僕は結構漫画も好きだ。
僕だけでなくTABIPPOのメンバーも漫画好きが多く、中でも「義務教育」とまで言われているくらいメンバーのほとんどが読んでいる漫画がある。
その一つが「キングダム」である。
特に僕はキングダムに登場する李斯のこの一言が好きである。
尾瀬には群馬県民の願いが書かれていた
photo by Shimizu Naoya
僕が経営するTABIPPOはビジョナリーカンパニーであり、会社のビジョンをとても大切にしている。「旅をもっと素敵に」というTABIPPOのビジョンは僕達が目指すものであり、世界へ向けての願いでもある。
と、そのくらい考え方に影響を受けているキングダムに出てきそうなお寺が群馬・渋川にあるということで行ってきた。
佛光山 法水寺だ。
まるで台湾に来たかのような異国情緒あふれる法水寺は、2018年に台湾仏教の日本の総本山として建立された比較的新しい寺である。
荘厳かつ異国情緒あふれる寺を見てみたい。それともう一つ、今回は写経を体験しに来た。
法水寺では事前予約さえしておけば無料で、座禅、写経といった体験をすることができる。まさにリトリートにピッタリではないか。
・写経をしている間は雑念が入りにくいため、様々なことに気を取られる毎日の生活の中で「無」になれる大切な時間です。
・指先を使う作業なので脳を活性化します。そのため、子供は頭がよくなり、年配者はボケ防止。
・ひとつの行為に意識が集中することで大脳や臓器の働きが活発化し、身体のバランスが保たれます。このときに分泌される脳内物質の影響により思考がポジティブになり自然治癒力が向上。
・筆を使って一字一字を丁寧に書き写していく細かい作業で、集中力・忍耐力が向上。
・姿勢が良くなる。
・字が上手くなる。
法水寺公式HPより(https://housuiji.or.jp/experience/)
時間ぴったりに開始するので余裕を持って本堂へ向かう。
椅子に座り、写経を開始する。
ただ黙々と筆を走らせる。
「写経」という一つのことに専念できるため、他のことは考えず「無」になることができ想像以上に良かった。そして体験としてかなり楽しかった。
少し心がざわついているとき、荒んでいるとき、考えごとで頭がいっぱいになってしまっている時に写経をしてみてほしい。現代ではスマートフォンやパソコンを毎日触って文字を打つことが多いと思うが、こうやってペンを持って文字を書くことの大切さも感じることができた。
・名称:佛光山 法水寺
・住所:〒377-0102 群馬県渋川市伊香保町伊香保637−43
・地図:
・営業時間:9:00~17:00
・定休日:-
・電話番号:0279722401
・公式サイトURL:http://housuiji.or.jp/
清水直哉からのメッセージ
今回、旅をしながら改めて「リトリートってなんだろう」とずっと考えていた。分かっているようで分からないし、伝わっているようで伝わらないものだなと。
1つの答えとしては「人それぞれのリトリートがある」ということ。
いまの自分の人生やキャリアの悩み、体調や気持ちの状態、仕事でのやりがい。それに対して、何をリトリートするのか? 何をリトリートした方がよいのか? 何をリトリートしたいのか? それを考えることで、もっともっと人は良い旅ができるんだと思う。
そう考えたときに、僕が大好きな地元・群馬はリトリート旅にはピッタリだと、心のそこから思える旅になった。まずは尾瀬だけでも、みなかみ町だけでも、ぜひ訪れてもらいたい。
written & Photos by Misako Yoshida