この体験談が旅をする誰かの助けになることを願って
大学1年の時に初めて海外旅行をしてから早10年以上。
世界40か国以上を旅し、海外でのスリや詐欺への注意方法も心得ていると思っていた私でしたが、人生で初めてパスポートやビザ、財布やパソコンなどすべてが入ったカバンを盗まれてしまいました。
この記事を読んで少しでも旅の備えにしてもらえたら嬉しいなという気持ちで、私が経験したことをシェアしたいと思います。
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「あれ!カバンがない!?」忘れられない、心が凍りついた瞬間
私はワーホリビザを取得してデンマークのコペンハーゲンで約1年2か月、ドイツのベルリンで約6か月暮らしました。そして次はフィンランドでワーホリをしようと決め、ビザも取得して、ベルリンでの残り5日間を名残惜しく楽しんでいたところでした。
その日は、ベルリンでお世話になった友人とカフェで会う約束をしていました。店内は満席だったため、テラス席に座ることに。友人は店内に注文をしに行き、私は友人の2歳になる娘ちゃんのベビーカーを押しながらテラス席に着きました。
私はテラス席のベンチに腰掛けると背負っていたリュックを下ろし、自分の背中とベンチの背もたれの間に置きました。
久々に会う友人とは話に花が咲き、楽しい時間を過ごしたのですが、帰ろうと思った時ハッと気づきました。
「あれ!カバンがない!?」
「パスポートもビザも全部入っている大切なカバンなのに!?」
これが事件現場のテラス席
頭が真っ白になり、全身の力が抜けるのを感じました。鼓動が速くなるのと反対に、脳の動きは鈍くなり、どういたらいいか分からず呆然としていました。
ベンチの背もたれはカフェの建物に接していたので、背後からカバンを抜き取ることは難しい状況でしたが、友人の子どもとお喋りをしていて荷物への注意が完全にそれたタイミングで横から盗られたのかもしれません。
実はよく行くお気に入りのカフェだったので最後にショックな思い出が残ってしまい残念
そのカフェは、ベルリンの中でも移民が多く治安が悪いと言われているエリアにあったので、より気を引き締めるべきだったなと反省しています。
出国直前にまさかの盗難
盗難にあったのは最悪のタイミングでした。というのも、ベルリンでの生活は残り5日。パスポートが盗まれてしまった状態では、出国することができません。
私はベルリンを出て、デンマークの友人の家でクリスマスを過ごした後、フィンランドでのワーホリ生活を始める予定でしたが、そのフィンランドのワーホリビザも盗まれてしまったので、これからの新しい生活が一体どうなってしまうのかと心配でたまりませんでした。
思い返してみると、パスポートもフィンランドのワーホリビザも持ち歩く必要はなかったので家で保管しておけばよかったな、と後悔の念は消えません。
ただケガがなかったことと、家の鍵と携帯は盗られていないことが不幸中の幸いでした。もし家の鍵と住所が特定できる身分証を一緒に盗まれてしまった場合は家に侵入される危険性があるので鍵をすぐに交換する必要があります。
カバンを盗まれた時の対処法
実際にカバンを盗まれてから、私が取った行動をまとめました。もしもの時に備えて、やるべきことを一度把握してみてください。じつはやらなければならないことはそんなに多くはないのです。
①クレジットカードの利用停止
盗難に気づいたら、不正利用を防ぐためにすぐに利用停止の手続きを行いましょう。どのクレジットカード会社も24時間オンラインで手続きができると思います。
カード会社によっては、海外専用の緊急連絡先が用意されています。あらかじめ使用中のカードの緊急連絡先をメモしておくと安心です。
②周辺を探してみる
現金だけ抜かれ、カバンは道端に捨てられる場合もあるようです。まずは、自分の目で事件が発生した周辺を探してみることをおすすめします。
私は盗まれた翌日に周辺を歩き回って捜索してみたところ、カバンを見つけることはできませんでしたが、諦めがついたので探してみてよかったと思っています。
③警察に盗難届を出し、盗難届証明書を受け取る
ドイツの警察 POLIZEI の看板。ドイツ語ができない私に代わって対応してくれた友人に感謝してもしきれません
次に警察へ行き盗難届を提出します。海外の警察は積極的に捜索をしてくれないことが多いですが、盗難届を出した時に発行される”Police Report(ポリスレポート)”という盗難届証明書をもらうことが重要です。パスポートやビザの再発行依頼や、保険会社への保険金依頼をする際にこの証明書が必要となるので、必ず受け取りましょう。
私は事件発覚の直後に友人と警察に行きましたが、対面での盗難届の提出は待ち時間が長くなると言われスマートフォンから提出しました。
④日本にいる家族に戸籍謄本の発行を依頼する
海外でパスポートを盗まれてしまった場合、2通りの解決方法があります。
1つめは、「帰国のための渡航書」を発行してもらい、帰国後に日本でパスポートの再発行手続きを行う方法。この渡航書は、現在地からそのまま日本へ帰国する場合にのみ有効なため、他の国へ移動する場合には適用されません。
2つめが、現地の日本大使館でパスポートの再発行をする方法です。
私は今回こちらに当てはまるのですが、最短でも10日は掛かるという情報を知り、かなり焦りました。5日後にドイツを出発する鉄道チケットを取っていたのでなんとか間に合わせたいと思っていました。
パスポート再発行の一番の難関は「発行から半年以内の戸籍謄本の原本を提出すること」です。急いで日本にいる家族に戸籍謄本の発行と、郵送を依頼しました。
ここまでを事件当日に終わらせ、その後はネットでひたすら体験談を読みました。
また盗難にあったことをSNSに載せたところ、自分も似た経験をしたからと言って寄り添ってくれた友達や、役に立ちそうなサイトを送ってくれた友達など、一人一人の助けが本当に身にしみました。
⑤大使館でパスポート再発行の手続きをする
翌朝、日本にいる家族から受け取った戸籍謄本のデータと、必要書類を持って大使館へ向かいます。
必要書類はドイツの場合は下記の通りですが、国によって異なる場合があるので各国の日本大使館のサイトを確認してください。
・現地警察署で発行してもらった盗難証明書
・紛失一般旅券等届出書および一般旅券発給申請書 各1通(窓口でももらえます)
・戸籍謄本or戸籍抄本の原本 1通
・証明写真 2枚
戸籍謄本の原本はまだ私の手元にはありませんでしたが、事情を話したところ、データを提出することで手続きを開始していただけるとのありがたい回答をいただけました。多くの大使館では、緊急の場合に限り戸籍謄本のスキャンデータやコピーで仮申請が可能な場合があります。まずは大使館に直接確認し、迅速に手続きを進めることが大切です。
そのため戸籍謄本の原本が私の手元に届き次第、大使館にパスポートを受け取りに行くということになりました。
大使館での申請を終えたところで、今急いで行うべき手続きがひと段落しました。
ここまで左脳をフル回転させて行動していたので自分でも驚くほど冷静に対応していたのですが、きゅっと張りつめていた緊張の糸が緩んだことで悔しい思いが溢れ、気づけば人目も憚らずに涙を流していました。
⑥落とし物センターへ登録する
後日、落とし物センターへ足を運んでみました。ベルリン全域の落とし物が集まるセンターですが、私のカバンは届いていませんでした。またオンライン上で紛失物を登録できるサイトにも登録しました。もし見つかった場合、メールでお知らせしてくれるようです。
⑦保険会社に連絡する
保険会社に保険金を申請する際には、盗難届を出した際に受け取った盗難届証明書が必要となります。残念ながら私が入っていたのは健康保険のみだったので今回の盗難は対象外でした。
海外旅行の際は、クレジットカード付帯の保険で補償してもらえる場合も多いと思います。
⑧フィンランドワーホリビザの再発行依頼をする
フィンランドへ渡航し、フィンランドの警察に盗難届を出した後に、移民局で再発行の手続きをすることができました。手続きからたった1週間でビザカードを受け取ることができ、安心しました。
まさに奇跡のタイミング!6日間でパスポートの再発行に成功
大使館での手続きが終わった後に考えるべきは、いかに早く戸籍謄本の原本を受け取るかでした。クリスマスを予定通りデンマークで過ごすためには、4日以内に受け取る必要があったのです。
ところがクリスマス直前は、ドイツの運送サービスが最も混乱する時期。遅延するのは当たり前、ひどい場合には郵送物が行方不明になってしまうこともあると聞きます。
どうすれば確実に早く受け取れるか悩み、職場で相談してみると、ドイツ在住歴の長い方々が自身の経験を踏まえて色々な意見を出してくれました。
その中で「誰かに持ってきてもらうのが一番早くて安心」という意見を聞けたことは、どの運送会社を使うかばかりに焦点を当てていた私にとって、新しい道が開けたような思いでした。
「誰か日本からベルリンに来る人がいないか」と考えを巡らせていたところ、ルームメイトの妹が日本から遊びに来るという話を思い出したのです。しかも到着日はちょうど4日後というミラクルなタイミング!
こうして友達の妹に戸籍謄本を託すことができ、無事に受け取ることができたのです。翌日に大使館で新しいパスポートを受け取った瞬間は心から安心しました。
もともと購入していた鉄道チケットには間に合いませんでしたが、出発日が1日遅れただけで済み、無事にクリスマスをデンマークで過ごすことができました。
多くの人の助けがあったからこそ、盗難からたった6日で再発行ができたのです。
無事新しいパスポートを発行してもらうことができ大喜び。もう絶対に失くさない!
「生きていればなんとかなる」という気づき
盗難直後は何をどうすればいいのか全く分からず、ただ途方に暮れていました。でも、多くの人が「きっとなんとかなるよ、大丈夫!」と励ましてくれたおかげで、生きてさえいれば本当にどうにかなるものだと実感しました。
「パスポートは命の次に大事なもの」とよく言われますが、それでも時間と手間をかければ解決できるということも、今回の経験から学びました。
困った時は恥ずかしがらず、周りに助けを求めることの大切さも痛感しました。戸籍謄本をすぐに発行してくれた家族や、日本からベルリンまで書類を運んでくれた友人の妹、SNSで声をかけてくれた人たち…。多くの人の助けがあったからこそ、無事に乗り越えられました。
ベルリンでの最後の5日間は、これまでの人生で最も気持ちが落ち着かない時間でした。しかし、その後デンマークで迎えたクリスマスは、「今ここにいられること」への感謝の気持ちでいっぱいになり、これほどまでに感謝を噛み締めたことはありませんでした。
この記事が旅先で何か困ったときにふと思い出してもらえる存在になれば幸いです。
旅には想定外のトラブルがつきものですが、今後も自分らしい旅を楽しみましょう!
All photos by Yurie Shiba