ウズベキスタン 観光
ライター

福島県出身で1990年生まれ。70カ国以上を旅するほどの旅好き。コロナ禍では国内を巡り、世界遺産検定マイスターに合格しNPO法人世界遺産アカデミー認定講師に就任。IT系広告代理店で広告運用コンサルタントとして働きながら、小笠原諸島のアンバサダーとしての活動も行う。

ウズベキスタンと聞いて皆さんは何を思い浮かべますか?

「シルクロードの中継地?」
「サッカーのアジア予選で日本が対戦した国?」
「そもそもどこ?安全な国なの?」

私が「ウズベキスタンへ行く」と話すと周りの反応はこんな感じでした。

ウズベキスタンで有名なのはシルクロードのほぼ中央に位置するオアシス都市「サマルカンド」ですが、じつはそれだけではありません。アートやデザイン、モダニズム建築といった様々な魅力が詰まった面白い国なのです。

この記事では「伝統」や「現代アート」の観点から旅して見えてきたウズベキスタンの魅力についてご紹介していきます。

地域によって異なるデザインが魅力のウズベキスタンの伝統刺繍「スザニ」

まず最初に訪れたのは伝統刺繍「スザニ」の工房。

下絵をした後に刺繍を施していく
スザニは17世紀頃から中央アジアの遊牧民が手掛けてきた伝統的な刺繍布で、発祥地はウズベキスタンとされています。木綿や麻などの生地に絹糸を使って、とうがらしやザクロ、チューリップなどの刺繍が施されます。

ザクロのモチーフが中心となるのが「ブハラ柄」、月や星をモチーフにした宇宙を表現しているのは「タシケント柄」などと言われ、地方によって模様が異なっているのが特徴です。

きめ細やかな刺繍はすべて手作業で縫ったものだ
ウズベキスタンの人は模様を見ただけで「どの地方のデザインなのか」が一目で分かるそう。女の子が生まれると、一族の女性たちが集まってスザニを縫いはじめ、嫁入り道具としていくつも持たせるという伝統もあったそうです。

大きさや制作日数などによって料金は異なっている
ポーチやポシェットなどの小物もありますが、クッションカバーや壁掛けが一般的。お土産としても大人気でウズベキスタンを代表する伝統工芸品になっています。

タシケントに残る旧ソ連時代の遺産「モダニズム建築」

1966年4月。

ウズベキスタンの首都・タシケントを地震が襲い、伝統的なレンガ造りで構成されていた多くの建物が倒壊しました。

当時、旧ソ連の支援を受けて街の再建が進められ、レンガではなくコンクリートによるモダンな集合住宅や公共施設が次々と建てられました。

この時期に生まれた建築群こそが、今なお街に息づく“タシケント・モダニズム”と呼ばれる建築スタイルです。

高層ビルなども立ち並ぶ現在のタシケント
当時共産主義国家だった旧ソ連の基本的な考え方は「すべての財産は共有し、貧富の差をなくす」というもの。

映画館やコンサートホールなどは、娯楽ではなく“教育の場”として建設されたもので、当時の政治的な思想が色濃く反映された巨大な公共施設がタシケントには多数存在しています。

ウズベキスタン国立歴史博物館もモダニズム建築となっている
そのため現在のタシケントには1970~1980年代に建設された巨大な“タシケント・モダニズム”建設が今でもたくさん残っているのです。

“タシケント・モダニズム”にはじまりの作品「旧アートシアター」

旧アートシアターは1964年に建設され、モダニズム時代のはじまりの作品とされています。

外観はシンプルだが独創的なデザインになっている
約2000人が収容できる施設ですが、現在はフェスティバルなど特別なイベント時にしか使われていないようです。

ウズベキスタンの映画の歴史を知ることができる
隣接する映画博物館は誰でも見学可能となっており、ウズベキスタンの映画文化の歩みに触れられます。

■詳細情報
・名称:Cinema Palace
・住所:Navoiy shoh ko’chasi 15, Тоshkent, Toshkent, Uzbekistan
・地図:
・公式サイトURL:https://t.me/Milliy_kino_sanati_saroyi

大統領もお気に入りのモダニズム建築「コンサートホール」

ウズベキスタンの大統領も好きな建物の一つなのだとか
コンサートホールは1981年に建設されたモダニズム後期の代表作で、約4,000人が収容できるウズベキスタン最大級の建築です。

天井に吊るされている電灯はブドウをモチーフにしているようだ
内部にはウズベキスタンの伝統模様やロシアの装飾が融合した独特の意匠が施され、鉄などの当時貴重だった素材なども使われていることから、このコンサートホールがどれほど国家的に重要な位置付けにあったかがうかがえます。

■詳細情報
・名称:Friendship of the Nations Palace
・住所:Furqat ko’chasi 3, 100003, Тоshkent, Toshkent, Uzbekistan
・地図:

中央アジアで最初に開通した地下鉄

歴史的な価値と美しい装飾で観光名所としても人気
1977年、中央アジアで初めて開業したタシケントの地下鉄。各駅の建設や内装の設計には有名な建築家や芸術家が携わり、駅ごとに異なるテーマと装飾が施されているのが特徴です。地下鉄駅も芸術作品の一つと言われるほど。

以前は核シェルターとしても使われていたため撮影が禁止だったのだとか
とくに印象的だったのが「コスモナウトラル駅(Cosmonautlar Station)」。

ティムール朝の天文観測から、旧ソ連時代の宇宙開発にいたるまで、「宇宙」をテーマにデザインされた幻想的な駅です。

ガガーリンの壁画
駅構内には青や群青が使われており、色使いからも宇宙を感じさせます。世界最初の有人宇宙飛行に成功したガガーリンや、女性初の宇宙飛行士になったテレシコワの壁画もあり、旧ソ連時代に宇宙開発がどれほど重要だったかをうかがえるような場所です。

地下鉄は距離に関係なく1回の乗車が2,000スム(日本円で約25円)ととてもリーズナブル。市民にとっても観光客にとっても気軽に利用できる重要な交通手段となっています。

■詳細情報
・名称:Kosmonavtlar
・住所:Afrosiyob ko’chasi, Тоshkent, Toshkent Viloyati, Uzbekistan
・地図:

中央アジア最大級のバザール「チョルスーバザール」

サーカスの屋根のような巨大なドーム
青や緑のタイルで覆われた、半径90mもある巨大なドームが特徴的な中央アジア最大級のバザール「チョルスーバザール」。1990年にできた最後のモダニズム建築となっています。

1階にはその場でさばいてくれる肉屋や乳製品店などのお店がぎっしりと並び、地元の人の活気で溢れています。

人々の活気で溢れていた
さらに周囲には野菜や果物、雑貨やおみやげ物、食堂などもあり、じっくり見て回ろうとすると数時間もかかってしまう大きさのバザールです。

■詳細情報
・名称:Eski Juva Bozori
・住所:Tafakkur ko’chasi 57, Тоshkent, Toshkent, Uzbekistan
・地図:
・営業時間:5:00~20:15
・定休日:-

伝統と現代文化を守り育てる「ウズベキスタン芸術文化開発財団〈ACDF〉」

ウズベキスタンの首都・タシケントには伝統工芸や、旧ソ連時代を彷彿させるような建物など、歴史的にも文化的にも価値あるものが数多く存在しています。

ACDFはモダニズム建築の保護・保全にも携わっている
それらを単なる過去の遺産として残すだけでなく、現代のアートや観光、文化交流に活かすという視点で取り組んでいるのが、「ウズベキスタン芸術文化開発財団(以下:ACDF)」です。

ACDFとは
ACDFは、ウズベキスタンの遺産・芸術・文化の保護・促進・育成を担っています。同国の文化発展の最前線に位置するACDFは、ウズベキスタン文化におけるエコシステムを育くみ、創造性に根差した経済を推進し、国内、隣接地域、そしてグローバルな舞台で、文化に携わる人々に機会を提供するべく活動しています。
公式サイト:https://acdf.uz/

そんなACDFが主体で動いているプロジェクトが複数あり、いくつか見学させていただきました。

かつてのモスクが“創造の場”に。工芸家たちのアートレジデンシー

2025年3月にオープンしたこのアートレジデンシーは、世界各国の工芸家たちが集まり、創作活動を行う場所で、この運営にACDFが協力をしています。

アトリエは最新の設備などが整っている
施設の運営にはACDFが関わっており、フィンランド、ドイツ、カナダ、ウズベキスタンといった各国の工芸家たちが、それぞれの地域特有の技術やアイデアを持ち寄り、共創しているようです。

ウズベキスタンの象徴的な青を用いたアート作品
この施設は16世紀から旧ソ連時代までは元々モスクとして使われていたもの。旧ソ連時代には宗教活動が制限されていたため、長く使われずにいたこの建物。それを見事に修復し、工芸家たちの芸術活動拠点として再生させたのがACDFなのです。

昔の建物を活用し、アートの場を提供している
工芸家に配慮した生活スペースが完備されている
隣接する建物は、かつて神学校(メドレセ)として利用されていたもの。こちらも修復され、現在は工芸家たちの生活スペースとして活用されており、キッチンやベッドが完備されています。

プロジェクトマネージャーであるACDFのザリファさん
歴史的な建物が再利用され、現代のアートや工芸の創作の場となっている——

非常に価値のある取り組みで印象的でした。

中央アジアの文化と現代アートの交流の祭典「ブハラ・ビエンナーレ」

メインの場所になる予定なのは、以前キャラバンサライだった建物
もうひとつ注目したいのが2025年9月5日~11月20日に開催される「ブハラ・ビエンナーレ」。ウズベキスタンの文化と現代美術の進化を世界に示す重要な国際的なイベントです。

このビエンナーレは、中央アジアにおけるアートと文化の交流の場として注目され、ACDFが主体で準備を進めています。

プロジェクトマネージャーのACDFのティムールさん
開催地は、旧モスクや旧メドレセ、かつてのキャラバンサライなどの歴史的建造物が立ち並ぶ、世界遺産の街・ブハラ。

メドレセ(神学校)も活用される
ここに、ウズベキスタン国内外のアーティストたちが集まり、絵画、彫刻、インスタレーションなどの視覚芸術に加え、音楽、映画、舞踏、さらにはウズベク料理の展示など、さまざまな形式で文化が紹介される予定です。

イベントは入場は無料で、誰でも参加可能。地域の人々と世界中から集まる観客が一緒にウズベキスタンの文化や現代美術の魅力を体験できる場になることでしょう。

ウズベキスタンで歴史的建築と現代アートが交わる新たな文化のかたち

旧ソ連時代のモダニズム建築と、モスクやメドレセといった宗教建築が共存するウズベキスタン。

それらを過去の遺産として残すだけでなく、保護・再生し、新たな価値をもたせて現代アートや文化活動の場として活用する取り組みが、ACDFを中心に進められています。

歴史とアートの融合がどのように披露されていくのか楽しみだ
旅を通して感じたのは、ウズベキスタンが「歴史ある国」だけではなく、常に「進化と発信を続ける国」だということ。

伝統・文化を大切にしつつ、それを現代的なアートや観光、国際交流の場に取り入れていくその姿勢は、まさに「あたらしい旅」の象徴となっていくのではないでしょうか。

ウズベキスタンがこれからどんな新しい文化を生み出し、発信していくのか——その歩みにこれからも目を向けていきたいと思います。

そして、私たちはどんな形でその変化に触れていけるのでしょうか?

関連記事|ウズベキスタンの世界遺産を巡る旅と、大阪・関西万博パビリオンの魅力

All photos by Yuichi Yokota

ライター

福島県出身で1990年生まれ。70カ国以上を旅するほどの旅好き。コロナ禍では国内を巡り、世界遺産検定マイスターに合格しNPO法人世界遺産アカデミー認定講師に就任。IT系広告代理店で広告運用コンサルタントとして働きながら、小笠原諸島のアンバサダーとしての活動も行う。

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