ダージリン 街並み
ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

あの街には、また行かなければならない。旅をしていると、そんな思いを抱かせてくれる街に出会うことがある。そのなかのひとつで、とりわけその思いが強いのが、ダージリンだ。

━━━ダージリン。

インド北東部、標高2,000m、ヒマラヤの麓に位置する、別名「天空の街」。

賑やかで、街並みは美しく、どこか静けさを纏った不思議な街だった。そんなダージリンで見て、感じた景色や匂いや温度は、今も僕の記憶に強く残っていて、そして思い出すたびにまた、旅への思いを駆り立てられるのだった。

ダージリン 街並みダージリンの街並み

天空の街を目指して

2019年にインドを旅した時。

僕は旅の仲間とともにダージリンへ向かうことにした。

ダージリンへは「トイトレイン」の愛称で親しまれている「ダージリン・ヒマラヤ鉄道」に乗って行くことができるとのこと。トイトレインはその名の通りおもちゃのような見た目をしており、世界遺産にも登録されている世界最古の山岳鉄道だ。

世界遺産、世界最古、山岳鉄道。標高2,000mの「天空の街」……。

なんと旅人の心をくすぐる響きだろうか。是非ともそのトイトレインに乗ってダージリンへ向かってみたい!

そう考え、ワクワクしていた僕らだったが、残念ながら予約が取れずに断念……。予定変更をし、麓の街のシリグリから乗り合いジープに乗って行くことに。

ダージリン 乗り合いジープ乗り合いジープ
これがまた過酷だった。窮屈な車内に押し込まれ、曲がりくねる山道にひたすら揺られる。

長時間移動の疲れに加え、標高が高くなるにつれて悪くなる体調。果たしてこのまま無事にダージリンへと着けるのだろうか……。

そんな中、不意にジープに若い女の子が乗り込んできた。彼女はインドというよりチベット系の顔立ちで、日本人にも近い雰囲気があった。

仲間の一人が話しかけると、彼女ははにかみながら、自分は地元の高校生であるということを話してくれた。その笑顔はとても純朴で、疲弊していた僕らの心を癒してくれた。

ダージリン 少女乗り合わせた少女
この出会いは、デリーやバラナシといった「これぞインド」という都市を巡ってきた僕らのイメージを覆すものだった。

ダージリンとは一体どんな街なのか。

ジープの車窓から見える山あいの景色を眺めながら、僕らは「天空の街」へと向かった。

整然と雑然の融合

ダージリン マーケット街の喧騒
5時間程かけて、ようやくダージリンに到着。

ジープを降りた瞬間、冷たく、澄んだ空気に包まれた。思わず身体をすくめる程の寒さだった。

それまでは半袖短パンで旅をしていたが、ここではそうもいかないようだ。僕らは急いで防寒具を買いにマーケットへ繰り出した。

寒冷な気候に、乾いた空気。

街を行き交う人々は、先程乗り合わせた少女のようなチベット系の顔立ちが多い。強引な客引きもほとんど来ないし、店先に立つ人はどこかクールな雰囲気を漂わせている。

ダージリン マーケット山岳地帯のダージリンはフルーツが豊富
そして何より目を引くのは、街並みの美しさだった。

ダージリンは、かつてイギリスの植民地時代に避暑地として開拓された街。そのために街並みは英国風の整然とした雰囲気が今も残っている。しかし同時に、インド特有の雑多な賑わいも随所に見られる。

イギリスの整然とインドの雑然が融合した街。

それがダージリンであり、僕はその融合に美しさを感じた。

これまで訪れた熱狂のインドとは、まるで別世界……。喧騒の中に静かに佇むクロックタワーを見つめ、僕はそう感じていた。

ダージリン クロックタワー街のシンボル・クロックタワー

喧騒と静寂、そして美しさ

そんな魅力的な地・ダージリンの旅だったが、僕らはこれといって何をするでもなかった。

後から調べると、ダージリンティーの農場見学のツアーや動物園、自然公園など、観光スポットはいくつもあった。

しかし僕らは、そういった場所に訪れるでもなく、街を歩き、買い物や食事をしたり映画を見に行ったり、ホテルのルーフトップから街並みを眺めたりと、ただのんびりと過ごすばかりであった。

その理由のひとつとして、体調の問題があった。

ジープで標高2,000mまで一気に上がってきたために、仲間に高山病の症状が出てしまったのだ。僕もまた旅の疲れに加えて寒さもあって、活発に行動する気持ちになれなかったのだ。

ダージリン 校庭ルーフトップからの景色①
しかし、それはそれでよかったと僕は思う。

賑やかな街並みは歩いているだけで楽しかったし、人々の雰囲気は柔らかくて優しい。レストランやカフェも綺麗なところが多くて落ち着ける。

小さな中華料理屋で飲んだワンタンスープの味は今も忘れられない。インドのスパイス料理続きだった中、久々に食べた優しいスープ料理。五臓六腑に染み渡るとはこれのことかと感動した。

一見するとダージリンらしい経験とは言い難いかもしれないが、高地での過酷な旅の中で、この街の優しさを味わった瞬間だったと思う。

ダージリン ワンタン僕らを救ったワンタンスープ
僕らが乗れなかったトイトレインが走る様子を、間近で見に行ったこともあった。

可愛いらしい見た目ながらも、煙をあげながら力強く街を駆け抜けていく汽車。世界最古の山岳鉄道の勇姿を見送りながら、次は絶対に乗るぞという決意を胸に抱いた。

ダージリン トイトレイン街をゆくトイトレイン
出かけるのがしんどい日には、ホテルのルーフトップで街を眺めながらゆっくり過ごした。

街をゆくトイトレインの汽笛。学校のグラウンドに集う学生たちの声。マーケットの喧騒。澄んだ空気の中に少し混じる煙たさやスパイスの香り。それらすべてを包み込む、美しく、静けささえ感じる街並み。

整然と雑然。

喧騒と静寂。

ダージリンとは実に不思議で、美しい街だ。のんびりと過ごしているうちに、気が付けば僕はこの街にすっかりと魅了されていた。

ダージリン 街ルーフトップからの景色②

あの街には、また行かなければならない

先ほど書いたように、ダージリンでの滞在は観光名所を訪れたわけでも、何か特別な体験をしたわけでもなかった。

ただ、街を歩き、眺める。それだけだった。でもそれだけで、僕の心はダージリンに強く惹かれていった。

冷たく澄んだ空気、温かいスープ、優しい人々、美しい街並み、喧騒と静寂の入り混じった不思議な空気感。そのすべてが素晴らしく、僕に新しい世界を見せてくれた。

とはいっても、当然ダージリンにはまだまだ知らないことがたくさんある。

トイトレインに次こそは絶対に乗りたいし、ダージリンティーの農園も見てみたい。

そしてまたあの空気に包まれながら、街のことをもっともっと知りたい。

……あの街には、また行かなければならない。ダージリンの旅を振り返るたびに、僕はそんな思いに駆られるのだった。

次に行く時には、一体どんな世界が待っているのだろうか。想像するだけで、胸が騒ぐ。

ダージリン 線路トイトレインの走る線路は、街の中に溶け込んでいる

All photos by Satofumi Kimura

ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

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