心がホッと落ち着く赤い夕日が見える街。
その土地のものを使った料理が食べられる街。
日常の中で、歴史の深さを垣間見られる街。
私がふと「帰りたい」と思う街には、こんな共通点がある。
私だけの“好き”のかたちを見つけたきっかけは、スペインのグラナダを訪れたときだった。宿に着くまでの街並みだけで、私の心は強く揺さぶられた。
「たぶんこの街、好きになれる」
直感的に、そう思った。
街を好きになる瞬間は人それぞれだけれど、きっと誰の心にも、小さな共通点があるのかもしれない。
夕日がくれた、“好き”の予感
ゲストハウスのベッドにて。ここで話しかけられた!
宿に着き、荷解きをしていると、上のベッドの女の子が話しかけてきた。
「これから、サンセットツアーがあるみたいなんだけど、一緒に参加しない?」
正直、長旅で疲れていて、すぐにでもシャワーを浴びたい気分だった。でも、「本当に綺麗だから」と強く誘われたら、断る選択肢はない。その場ですぐ、「行く」と返事をした。
街中を歩きながら登った先は、「San Miguel Alto」と呼ばれる丘の上の教会だった。
・名称:San Miguel Alto
・住所:Cam. del Sacromonte, s/n, Albaicín, 18010 Granada, Spain
・地図:
盆地の地形に、白い建物がひしめき合うグラナダの街並み。太陽が、ゆっくり、ゆっくりと地平線に近づくにつれて、建物の色はオレンジから赤へと染まっていく。
反対側の空には深い青が広がり、一番星が静かに瞬き始めていた。
息を呑むほど美しい夕日に、ただただ圧倒される。
何も言えずに、太陽が沈む境目をじっと見つめていた。
「黄昏時」という日本語があるように、スペイン語にも昼と夜が交差する一瞬を表す言葉があるのだろうか。
きっとあるに違いない、と思うほど、そこに流れる時間は特別だった。
一皿のぬくもり
すっかり暗くなり、ツアーに参加していた宿の仲間たちと、自然な流れでごはんを食べに行くことに。
グラナダでは、1 tapas(スペインの小皿料理)につき、1 drinkが無料でついてくる文化がある。
だから、いろんなフードをシェアしながら、いくつかのバルを巡るのがグラナダ流だ。
スペインらしい生ハムのスナック、牛肉の煮込み料理、オリーブのピンチョス。それに合わせたサングリア。
テーブルの上は、スペインの食文化であふれていた。
文化が重なる街で
グラナダといえば、キリスト教とイスラーム教がレコンキスタの最後に争った歴史ある街でもある。
Alhambra宮殿
イスラーム支配時代に建てられたアルハンブラ宮殿は、今も当時のまま残されている。
ツアーガイドによると、キリスト教が勝利した後も、その美しさに心を打たれた王たちが、壊すのを惜しみ大切に守り続けたのだという。
街中には異国情緒あふれる旧市街が残り、ヒッピーが暮らす丘の村、アフリカ系の人々の住むエリア、洞窟型の住居など、異文化が折り重なっている。
今でこそ「多文化共生」や「異文化理解」が盛んに議論されているけれど、グラナダでは1000年前から、それが実践されていたのかもしれない。
そんな歴史に思いを馳せながら、迷路のように入り組んだ街を歩く。
未来へのヒントがそこかしこに転がっている気がして、胸が高鳴った。
私がグラナダに来て2日目。
もう、すっかり虜になっていた。
好きを探す旅の先に
本当は、寄るつもりのなかったグラナダ。
それが、今では心の奥底で一番輝く街になっている。
好きという感覚は不思議なもので、ときには言葉にできないまま、直感的に心を奪われる瞬間がある。
そして後になって、ふとその意味に気づくこともある。
もしかしたら、「好きな街」を探すことは、「自分の好きを知る旅」なのかもしれない。
あなたの心に残る街には、どんな共通点があるだろう?
また帰りたくなる、そんな“第二の故郷”を探しに、旅に出てみませんか?
All photos by Mari Takeda