ライター

埼玉県生まれ。あまいものと音楽を愛でるヲタク気質な19歳。高校を卒業し、自分の「好き」と向き合うためにギャップイヤーを謳歌中。一日をちょっとだけ豊かにするアイデアブログ「PEACHY mode」の管理人。夢は 「自由でご機嫌な人生を送ること」。来年からはマレーシア国内の大学に留学予定。

都内で、背中にQRコードが描かれた青いユニフォーム姿の人を見かけたことはありますか?


彼らの名前は「東京都観光ボランティア」。新宿や浅草などで外国人観光客や旅行者に道案内や観光情報を伝えています。いまでは約3,000名の登録者がおり、平日勤務の社会人や学生、リタイアしたシニア世代など幅広い世代が週末や空いた時間を使って活動しています。

しかし、忙しいなかで休日の時間を割いて無償でこの活動を行うのは、骨も折れるもの。「語学力がないと無理?」「仕事や学業と両立できるの?」——そんな疑問を持つ人も多いはず。

そこで今回は、都内の大学に通う大学生・たかひろが2人のボランティアの活動に密着!活動の内容やその魅力について、話を聞きました。

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たかひろ
たかひろです!知り合いに教えてもらい、東京都観光ボランティアのことを知り、参加してみたいと思っています。学生でもできるものなのか、皆さんがどのように活動を楽しんでいるのか知りたいです!

60年、続けられるかも。19歳からはじめたボランティアに密着


まず話を聞いたのは、小田悠太郎(以下、小田)さん。小田さんは19歳で活動を始め、現在8年目。活動を始めた学生時代のことと、ボランティアで感じるやりがいについて伺いました。

学生からでも大丈夫。参加者同士のフラットな関係性

たかひろ:東京都観光ボランティアは、どのように知ったのですか?


小田さん:大学2年のときに、家族から紹介されて知りました。私は父の仕事の関係で、3歳から8歳までベルギーにいました。英語やドイツ語が話せたため、やってみようかなと。

たかひろ:英語やドイツ語が活かせそうな仕事はいっぱいありそうですが、そのなかでもどうして東京都観光ボランティアのガイドとしての活動を……?

小田さん:外国の人と交流したり、日本の魅力を伝えたりすることに興味があったんだと思います。ベルギーでインターナショナルスクールに通っていたとき、日本文化を紹介する機会があって。そのときは着物の話をしたのですが、なんとクラスメイトだけじゃなく、隣のクラスの生徒まで話を聞きに来てくれたんです。

幼いときに、日本のことを紹介することで喜んでくれる人がいることを身を以て体感していたからこそ、ボランティアを通じて東京の魅力を伝えることに親近感を持ち、ワクワクしたのだと思います。

たかひろ:大学生から東京都観光ボランティアをされている方って、多いんですか?

小田さん:若い世代の方を見かけることも、増えてきましたね……!ただ、じつは私がはじめた当時は本当に同世代がいなかったんですよ。今でも覚えているのですが、説明会の参加者はほとんどが60歳以上の方だったんです。正直「場違いかな」と不安になりました(笑)。

たかひろ:それは緊張しそうです……!実際に入ってみて、いかがでしたか?

小田さん:不安は、すぐになくなりました。まわりの皆さんが、本当に良い人ばかりで!奇異な目で見ることもなく「若いのにえらいね」とポジティブな声をかけていただくこともありましたね。良い意味で、気にせずフラットに接してくれるのが、嬉しかったです。

ボランティア活動は自分の強みを活かせる場所

新宿駅で、観光客の方に案内をする小田さん
たかひろ:活動してみて、印象に残っている出来事はありますか?

小田さん:自分の強みを活かせるのが楽しいですね。たとえば私の強みの1つはドイツ語が話せることなのですが、社会人になると使う機会がなかなか少なくて。ただ東京都観光ボランティアでは、観光客と直接ドイツ語でやり取りする機会があり、それで喜んでいただく経験が多くありました。

例えば先日は東京国際クルーズターミナルのインフォメーションデスクで、クルーズ船に乗って東京に到着したばかりのドイツ人旅行者の方をご案内する機会があったのですが、そこではかなり活躍できたと思っています。

こうした英語以外の言語の強みを活かせる場面は、外資系ホテルに勤める私でもあまりありません。一般企業にいたら、ほとんどなかったと思います。東京都観光ボランティアに入ることで、これまで隠し持っていた多言語能力を活かせるようになる方は、きっと少なくないのではないでしょうか。

東京都観光ボランティアに活かせる強みは、言語能力だけではありません。たとえば私は地図や地方の情報を集めるのも好きなので、その知識を活かせることを嬉しく思っています。活動をしていると「明日から大阪に行くんだけど、おすすめのお店はある?」「あまり知られていない、日本の良い景色はない?」と聞かれることもあり。そういったときに役に立てるとやりがいを感じるんですよね。

東京で良い思い出を作っていただくことも大事なのですが、自分が東京で地方を案内することによって、地方創生やオーバーツーリズム対策にも貢献できるのかもしれないと思うと、嬉しくなります。

旅行者に案内をしている小田さん(中央)

たかひろ:僕は中国語を話せるのですが、地図が得意ではないので、言語以外に強みになることがあるか、不安になってきました……。

小田さん:きっと、ほとんどの「得意」が、ボランティアに活かせると思いますよ。たかひろさんは、自分が得意だと思うことはありますか?

たかひろ:初対面の人と話したり、雑談するのは得意です!

小田さん:それならコミュニケーション力を活かせますね。ボランティアでは自己分析が大事で、路線図が得意、美味しい店を知っているなど、何でも良いので1つ自信を持てるものがあると活動しやすいと思います!

たかひろ:なるほど。まずは自己分析ですね……!


たかひろ:ボランティアを通じて、ご自身の中で変わったことはありますか?

小田さん:大きなところでは、キャリアですね。私は今はホテル業界にいますが、新卒では全く関係のない業種に就いたんですよ。本当はホテルで就職したかったものの、就職活動の時期がコロナ禍と被り、採用がストップしたからです。

ただ違う業界で働き始めて1年ほど経過すると、少しずつ規制が緩和され始めました。そこで思い出したのが、学生時代の東京都観光ボランティアでの経験です。そこで経験した外国人観光客の方との会話を思い出すと「やはり自分は、もっと観光客の力になることがしたい」と思うようになりました。そこで転職を決意して、ホテル業界に来ました。

東京都観光ボランティアをしていなかったら、外国人観光客の方との会話の楽しさを学生のうちに知ることはなかったですし、ここまでホテル業界への想いが強くなることはなかったと思います。

最後に、小田さんは「体力が続く限り、ボランティアを続けたい」と話してくれました。

学生時代にペアを組んだ方が「この活動は、リタイアを気にせず続けられる」と言っていたことが、今でも印象に残っています。サラリーマンを引退しても、体力さえあれば続けられるからだそうです。

僕は10代から始めたので、このまま続ければ60年近く活動できるかもしれないと思うとワクワクします。

それに、東京都観光ボランティアは常に活動に参加しなければならないわけではなく、途中で休会をして、戻ってくることもできます。たかひろさんのように学生だと、留学や文化祭・ゼミなど他にもやりたいことが出てくると思います。そんなときは、個人的にはそちらを優先していいと思うんですよ。学生時代にしか、経験できないことですから。

そのときは事務局の皆さんは柔軟に対応してくれます。僕も大学時代に留学した際には休会届を出しましたが、帰国後に復帰しても、違和感なく活動に戻れました。

学生でなくても、長い人生、都度やりたいことは出てくると思います。
東京都観光ボランティアでの活動を理由に何かを諦める必要もないですし、長い人生のなかでやりたいことができても、居場所は残したままにしておける。そして、いつでも戻って来られる。この懐の広さが、東京都観光ボランティアの良いところですよね。


僕自身も今後、東京を離れることがあるかもしれませんが、そのときも抜けずに、帰省で東京に戻ってきたときにフラッと参加するなど、形を変えながら関わり続けていきたいです!

小田さん

「ボランティアは、もう1つの居場所」10年目ガイドが語る、ボランティアの魅力


続いてお話を伺ったのは、堀川佳津美(以下、堀川)さん。発足時から参加し、活動10年目を迎えるベテランメンバーです。長年続けてきたからこそ見える、ボランティアの魅力や続ける理由について聞きました。

東京オリンピックを視野に、ボランティアに参加

たかひろ:堀川さんは、初期からボランティアに参加されているんですよね。どのように存在を知ったのですか?


堀川さん:東京都が「東京都観光ボランティア」を立ち上げたとき、広報誌で募集を見つけました。私は東京オリンピックに何かしらの形で関わってみたくて、開催が決まった頃から色々なボランティアを探していました。

そのときにちょうど募集を見つけ「これなら役に立てるかも」と思ったんです。不安もありましたが、始めてみると資料やツールも揃っていて、サポート体制も整っていると分かって安心したことを覚えています。

たかひろ:やはり、最初は緊張しましたか?

堀川さん:もちろんドキドキしました。でも上野や浅草は観光客が多く、声をかける機会も多いので、すぐ慣れましたね。地図看板を見ている人に「どこかお探しですか?」と声をかけて頼ってもらえたときは嬉しかったです。そこから雑談をしたり地域情報を伝えたりすると、さらにやりがいを感じました。


たかひろ:印象に残っていることはありますか?

堀川さん:上野で食事場所を尋ねられていくつか候補を案内した旅行者に、数時間後に偶然再会したことがあります。「教えてもらったお店、美味しかったよ」と言ってもらえたことが、本当に嬉しくて。道案内はその結果を知ることが少ないので、いつも以上の喜びを感じました。

ボランティア活動は誰かのために笑顔で過ごす時間

たかひろ:改めて、10年って長い時間だと思うのですが、ここまで長く続けられている理由はありますか?

堀川さん:とにかく、楽しいからですね。私は人助けというより「自分が楽しいからやる」という感覚でボランティアに参加しています。大好きな上野を案内し、相手が笑顔になると自分も元気になれる。準備していたことが役立つと、心の中でガッツポーズしています。「上手く答えられなかったな」と反省することもあるのですが、失敗しても「次はこう答えよう」と工夫するのすら楽しいんです。


堀川さん:誰かのために笑顔で過ごす時間って、気持ちが良いんですよ。今はGoogleMapやAIでも情報は得られますが、必ずしも全員が使いこなせるわけではありません。だからこそ人の案内に価値があるし、少しでもハートフルな時間を過ごしてくれれば嬉しいと思って活動しています。

それに、私は日本のことも好きなのだと思います。ボランティアを始める前に、青年海外協力隊で、ジンバブエに2年間滞在していたことがあるのですが、帰ってきたときに「日本って素晴らしい!」と感動したんです。暗くなっても街を一人で歩けることのありがたさに、帰国して初めて気づくことができました。

私自身も日本を魅力的に思っているからこそ、海外の方に魅力を広められるこの活動が嬉しいんですよね。

たかひろ:ボランティアを、心から楽しんでいるのが分かります……!最後に、これから参加する人へのアドバイスがあれば教えていただきたいです。

堀川さん:観光客を案内するのに英語力がかなり必要なのでは?と思う方もいるかもしれません。確かに、都の観光ボランティアの応募の際は語学の要件がありますが、実際の活動となると、個人的には道案内であれば中学英語レベルで十分だと考えています。それより大事なのは、困っている人に声をかける姿勢や笑顔。地域情報も事務局が資料やiPadでサポートしてくれるので心配はいらないと思います!

iPadを使って案内する堀川さん

ボランティアは今、私にとって「仕事・家以外のもう1つの居場所」となっています。何より魅力的なのは、生涯続けられること。

私は仕事も大好きなのですが、仕事はいつまでも続けられるわけではありませんよね。いつかは辞めざるを得ない状況になるときが来てしまいます。でも、東京都観光ボランティアは、いつまでもいて大丈夫。ずっと側に居てくれると思うと、ホッとするんですよね。

学生や若い世代の方の中には「就活で活動を続けられるか不安」「社会人になったらどう両立しよう?」と感じる方もいるかもしれません。そんなときは、一度活動から離れても大丈夫です。自分のペースを大切にして、環境が落ち着いたときにまた戻ってきてもらえれば良いんです。

ボランティアはシフト制ですが、ユニフォームを持って現地に足を運ぶだけで活動ができます。もし気になる方がいれば、まずは気軽に一歩を踏み出してみてほしいですね。

堀川さん

長年活動してきた彼女にとって、東京都観光ボランティアは“第二の活動拠点”であり、人生の楽しみ。「ボランティアは、楽しい」「東京を訪れる人に、もっと日本を好きになってもらいたい」と目を輝かせて話す姿に、東京都観光ボランティアの魅力をさらに感じるようになりました。

学業・仕事以外の「もう1つの私」を見てみない?

これまで「ガイド」という職業には興味を持っていたものの、詳しいことは知りませんでした。

今回、東京都観光ボランティアでガイドをされている方のお話しを聞くことができ、ガイドとボランティアの2面について深く知ることができました!また、どういった流れで働いているのか、どういった年齢層の人がガイドになっているのか、どういった知識が必要なのかなど、東京都観光ボランティアという活動の解像度が上がって嬉しかったです!

正直、取材前は「ボランティア活動で東京の魅力を紹介している」ということは知っていたものの、「なぜ無償で?」といった疑問を持っていました。忙しい日々の中で、あえてボランティアとしてガイドをする意味がよく分からなかったのです。

しかしお二人の話を聞き、東京都観光ボランティアは参加者自身にも喜びや居場所をくれる、win-winな活動だと知りました。取材前よりもずっと「東京都観光ボランティア」という活動に魅力を感じていますし、自分が参加して外国人観光客の皆さんと話す姿も思い描けるようになりました。

たかひろ

お2人の話に共通していたのは、東京都観光ボランティアは「自分のための時間」であり、仕事や家族以外に自分が打ち込むもう1つの軸であり、拠り所となっていること。

・自分が持っている各エリアの情報が、外国人旅行者には「ローカル情報」として生かせる
・言語能力だけでなく、コミュニケーション力や写真スキルなど、自分の何気ない「得意」が強みになり、自信につながる
・“ありがとう”という言葉が、自分にもたらすポジティブな変化
・自分のペースで、体力が保つ限りいつまでも続けることができる

東京都観光ボランティアは単なる無償の奉仕活動ではなく、仕事や学業以外に何か新しいことを始めたい方の1つの選択肢であり、人生の楽しみである。

「誰かの旅に寄り添うこと、誰かの笑顔のために動くことは、自分の心を豊かにする」取材を通して、そんなメッセージをいただきました!

東京都観光ボランティアとは?

「東京都観光ボランティア」は、東京都が運営・募集している外国人旅行者向けのボランティア活動です。都内の主要観光地や施設で、外国語を使って道案内をしたり、観光情報を提供したりと、訪れる人の旅をより良いものにする“案内人”としての役割を担います。
現在は英語を中心に、フランス語、中国語、スペイン語など多言語に対応できるボランティアが約3,000名在籍。50〜60代の方が多いですが、最近では若い世代や仕事と両立している方も少しずつ増えています。

活動は都庁案内ガイドサービス・展望室ガイドサービス、新宿・渋谷などの街なか観光案内、事前予約制の観光ガイドサービスなど多岐にわたり、自分のライフスタイルに合わせて参加できます。興味のある方は、ぜひ一度、公式サイトから詳細をのぞいてみてください。

東京都観光ボランティア 募集ページはこちら

デジタル化が進み、情報が簡単に手に入る時代に、人と人だからこそできるコミュニケーションも含めて観光客に寄り添う「東京都観光ボランティア」。

笑顔で言葉を交わして必要な情報を伝え、ときにはお節介も焼くようなこの活動は、支えられる観光客のためのものだけでなく、活動を行うボランティア自身にも、他では味わえない体験や感動を与えるものとなっています。

「語学に不安がある」「時間が限られている」そんな不安があっても、大丈夫。自分にできることから、自分のペースで始められるボランティア活動で、皆さんも東京の案内人としてデビューしてみませんか?

All photos by Misako Yoshida

    ライター

    埼玉県生まれ。あまいものと音楽を愛でるヲタク気質な19歳。高校を卒業し、自分の「好き」と向き合うためにギャップイヤーを謳歌中。一日をちょっとだけ豊かにするアイデアブログ「PEACHY mode」の管理人。夢は 「自由でご機嫌な人生を送ること」。来年からはマレーシア国内の大学に留学予定。

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