9月半ば。まだまだ残暑が続く季節。
うだるような暑さから逃れるように、どこか涼しい場所へ行きたくなった。
そんなとき、友人が「SAGOJO」という旅人求人サイトを通じて信州ワーキングホリデーに参加したという記事を読んだ。
“旅をしながら働く”という新しい形の旅。興味をそそられ、私もSAGOJOで検索してみる。
その中で目に留まったのが、「御代田町(みよたまち)」という聞きなれない町の名前だった。
何度も訪れたことのある長野を知っているつもりだった私。でも、この町のことは知らなかった。
その“知らなさ”と信州ワーキングホリデーという高揚感のあるワードが妙に気になって、気づけば応募ボタンを押していた。
見出し
信州ワーキングホリデーとは?

御代田町について
到着後、最初に訪問した御代田町役場
長野県の東部、軽井沢町の隣に位置する御代田町。
浅間山の麓に広がるこの町は、標高約1,000メートルの高原地帯にあり、冷涼な気候を活かした農業が盛んな地域だ。
観光地として名高い軽井沢とは対照的に、穏やかで日常的な暮らしが息づいている。
今回、信州ワーキングホリデーの一環として、この御代田町で5日間を過ごす機会を得た。
<a title="レタス収穫、ネギの選定、そして芸術祭のスタッフ、レタス収穫、ネギの選定、そして芸術祭のスタッフとして働きながら、この町の多様な表情に触れることができた。
芸術祭で感じた文化的な一面
おしゃれな芸術祭の会場入口
体験初日と2日目、5日目は、芸術祭のスタッフとして働いた。
「MMoP」という施設で開催された「<a title="浅間国際フォトフェスティバル浅間国際フォトフェスティバル」(今年で6年目)では、ディレクターが選定したアーティストのアート写真が展示されていた。
それぞれ個性溢れる作品ばかりでしたが、この町の洗練された空間にしっくりと馴染んでいた。
MMoPの建物はどこもおしゃれで、地方らしからぬ洗練された雰囲気が漂っている。
温かな日を浴びながらテラス席でワインを楽しむご夫婦、カフェで本を片手にコーヒーをすする男性など、軽井沢のような上質さを感じさせながらも、観光地特有の浮ついた雰囲気はない。この絶妙なバランスが、御代田町の魅力なのかもしれない。
仕事内容は、チケット確認、会場巡回、掃除、来場者案内など。特に印象的だったのは、ほとんどの来場者が自ら優しく挨拶をしてくださったことだ。
また、個性的で洗練された洋服を着ている方が多く、この町に住む人々やこの町を訪れる方々の感性の高さを感じた。
そして、最終日。一緒に働かせていただいた女性から、一枚の紙を手渡された。そこには美しい筆文字で俳句が記されていた。
「秋麗(あきうらら) アート写真の 結ぶ縁」
1枚の紙に綺麗な字でしたためられた俳句
この女性は移住者で、毎年この芸術祭のお手伝いをされているパートの方。たった3日間の出会いに、こうして心のこもった言葉を贈ってくださる温かさ。この後ご紹介する農業体験との対比も含めて、この町の多様な魅力を予感させる出会いだった。
農業体験で知る、生産地の顔
ネギの選定作業
3日目は、有限会社トップリバーさんでネギの選定作業を体験。
普段は体験出来ない機材を使用させてもらった。ネギを1本1本取り、下の方に残った甘皮?のような部分を噴射機で飛ばす。
その後、折れてしまった部分や枯れてしまっている部分を取り出荷用の段ボールに入れる。無心で作業に没頭する時間。
そして4日目は、朝5時からのレタス収穫とネギ畑の草取り。
朝の冷たい空気の中、一面に広がるレタス畑で作業を始める。
まず土から生えている部分を包丁で切る。その後何枚か外葉を取り、出荷用の保護のために2、3枚残して茎の部分を再度切る。
レタス収穫
その上からシャワーのような機械で水をかけ、土を洗い流す。
最後はコンテナにレタスをはめ込むように入れていく。1つのコンテナに上段下段合わせて12個入る。これが結構難しい。しかし、この詰め方によって農家さんの技量が先方に伝わってしまうという重大作業だ。

ひとつひとつ丁寧に収穫していくうちに、レタスがかわいく思えるほど愛着が湧いてくる。
スーパーに並ぶ前の姿を目の当たりにすると、普段何気なく食べている野菜への見方が変わる。トップリバーの社員さんは、丁寧に丁寧に野菜と向き合っている。愛情をかけられて育ったレタスたちは、スーパーだけではなく、全国の大手外食チェーンにも出荷される。
レタス収穫作業を終え、次はネギ畑の草取り。これが想像以上に大変だった。暑い中、雑草とネギが混在した場所をかき分けながらの作業は体力勝負。
それでも、農家の方々が毎日こうして土地と向き合っていることを肌で感じられた貴重な経験となった。
御代田町は、観光地としての顔だけでなく、生産地としての顔を持っている。この土地で育つ野菜たちと、それを育てる人々の営みに触れることで、町の本質的な魅力が見えてきた。
御代田町の方とつながる交流会
交流会で並んだ豪華なお料理
体験終盤の夜、交流会を開いていただいた。JAの一角にあるカフェスペースで、約15人が集う。参加者の多くは移住者で、役場関係者や地域おこし協力隊の方々、そして町長までもが顔を揃えてくださった。
おしゃれなカフェ料理を囲みながら、各地から御代田町にやってきた人々の話を聞いた。なぜこの町を選んだのか、どんな暮らしをしているのか。
移住者の方の多くは元々芸術に興味がある方が多く、関東圏からの引っ越してきていた。地元の方は、移住者の受け入れよりもそれによって昔ながらの御代田町が変わってしまうことを少し懸念しているという意見もあった。
芸術祭の一環で巡った町の風景
芸術祭の合間に、役場の方々が御代田町を案内してくれた。時には車で時には自転車で。
御代田町最大の行事が行われる真楽寺。

この地域で発掘された土器や浅間山の歴史を知ることができる浅間縄文ミュージアム。
蓮の花が浮かぶ雪窓湖。
日本初のカーリング場であるカーリングホール御代田。

どこも浅間山から流れる清流があるからこそのスポットだった。
暮らしやすさと上質さが共存する町、御代田
MMoP館内
軽井沢と比べると、御代田町はずっとアットホームで、観光地化しきっていない。それでいて、洗練された感性を持つ人々が集まり、芸術祭のような文化的なイベントも開催される。
農業という土地に根ざした営みと、アートという創造的な活動が、自然に共存している。
5日間の体験を通じて、御代田町は「また来たい」と心から思える場所になった。レタスに愛着を覚えた早朝の畑、無心でネギを選定した時間、アート写真に囲まれた芸術祭、交流会で出会った移住者の方々、そして町を案内してくれた役場の方々。
軽井沢より少しディープな選択肢として、御代田町は旅人にも、移住を考える人にも、新しい発見を与えてくれる町だ。観光地の華やかさはないかもしれないが、そこには確かな暮らしと文化が息づいている。
秋麗 アート写真の 結ぶ縁━━。
この俳句のように、この町で結ばれた縁は、きっとこれからも心の中で温かく光り続けるだろう。
All photos by Ai