日本一小さな自治体である青ヶ島村は人口が162人(2025年5月時点)、都心からだと約360km南に位置する伊豆諸島の最南端の島です。
羽田空港から飛行機とヘリを乗り継げば最短で約2時間で行けるものの、選ばれた人しか訪れることができないこの絶海の孤島が、私にとって特別な場所のひとつになっています。
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この目で確かめたかった、東京にある“世界の絶景”
この島は、アメリカの環境保護NGO「One Green Planet」によって選ばれた「死ぬまでに見るべき世界の絶景13選」に日本から唯一選出された場所で、世界的にも珍しい二重カルデラを持つ火山島です。
青ヶ島全景 南東側 海上保安庁 撮影
その情報をネットの記事で見て、「こんな場所が日本に……しかも東京にあるのか。」と興味を持ち、この目で見るために渡航を決めたものの、私の場合は一発では上陸ができず、2回目のチャレンジでようやく降り立つことができたのです。
東京の島々を結んでいるのが東京愛らんどシャトル
というのもこの島はアクセスが困難なことでも有名。
青ヶ島には空港がなくアクセスは船かヘリのみとなっています。
船が着岸する唯一の港にはほとんど防波堤がないのと、黒潮(日本海流)の影響を強く受けるため、海が荒れるとすぐ欠航し、年間平均就航率は5〜6割ほど。
八丈島ー青ヶ島間のヘリは約20分ほどのフライトだ
ヘリは1日に1便で9席しかなく、住民にとっても重要な移動手段であるため予約が取れにくく、日本一上陸が困難な島とも言われているのです。
ちなみに青ヶ島に行けたとしても、天候の影響で船やヘリが欠航し、島を抜け出せずに1~2週間に滞在するというのもザラに発生。そのため「絶海の孤島」や「秘境の島」とも言われているのです。
東京にある“秘境”へ。リベンジの空路が開いた瞬間
実際に私が最初に行こうとしたときは、見事に船が欠航し八丈島で足止め(青ヶ島に訪れる際は必ず八丈島を経由します)。
その1年後に決めたリベンジの際はどうしても行きたかったため、ヘリで行くことを決意。1ヶ月前の予約開始のタイミングで電話を100回以上かけて、ヘリのチケットを無事に確保。
幸い天候が良く、島を目にした時はとてもテンションが上がった
あとは当日の天候が悪化しないことを願っていました。(ヘリでも霧や風速の影響で就航率は8割ほど)
そのような背景もあったため、ヘリのなかから島が見えたときは、とても胸が高鳴ったのを今でも覚えています。
島の暮らしに触れる旅。青ヶ島・岡部地区の静かな午後
青ヶ島にある宿は5〜6軒の民宿で、基本3食付き。飲食店がないため食事もすべて宿で提供となっており、着いたらすぐに昼食を用意してくれていました。
民宿ならではの家庭料理が待っている
お腹がいっぱいになったあとは、岡部地区を歩いて散策しました。約160人の島民はすべて岡部地区に暮らしており、学校や商店、役場などが点在しています。
スレ違う人や車は一切なく静けさに包まれている
空と海と星が交わる場所、尾山展望公園
果てしなく広がる太平洋はまさに圧巻。尾山展望台には、地球を形取った青いタイル張りの円形モニュメントが設置されています。
街灯などはないため、夜になると満点の星空を見ることができます。
360度のパノラマビューを楽しめる
青ヶ島→八丈島にいくあおがしま丸も見れた
尾山展望公園
住所:東京都青ヶ島村
アクセス:青ヶ島ヘリポートから徒歩20分、三宝港から徒歩80分
静けさに包まれた祈りの場所、東台所神社
東台所神社は島の東側、深い森に囲まれた中にあり、地元の人々によって大切にされている神社です。地元の伝承や口述による言い伝えがあり、「縁結びの神社」として親しまれています。
森に囲まれた中にある神社がなんだか神秘的
玉石の階段はとても急で危険なため、地面が濡れていない晴れた日に行くか、尾山展望公園から行くのがおすすめ。
写真だと伝わりづらいが、玉石のルートは急勾配で危険なため細心の注意を
東台所神社
住所:東京都青ヶ島村1319−1
島の成り立ちを一望できる場所、大凸部
青ヶ島で最も高い大凸部は標高423m。あの二重カルデラはここで見ることができます。
数年憧れていた景色を目にすることが出来て感動した
最初のカルデラ(外輪山)は、およそ3,000〜5,000年前の大規模噴火によって形成され、その後内輪山の噴火がありました。噴火の痕跡は現在でも島内に見られ、地熱地帯や噴気孔(硫黄の蒸気)として残っています。
大凸部
住所:東京都青ヶ島村無番地
島の北端、星と牛に出会う場所、ジョウマン共同牧場
島最北端部の崖の上は牛が飼育されています。完全放牧に近い自然な飼育がされており、希少価値の高い和牛として「幻の牛」として紹介されることもあるようです。
人里からも少し離れているため、ここも星空スポットにもなっています。
のびのびと暮らす牛たち
ジョウマン共同牧場
住所:東京都青ヶ島村無番地
居酒屋からはじまった、青ヶ島での“濃すぎる”時間
1日目の観光を終えたのち、宿のオーナーに誘われ、青ヶ島に唯一ある居酒屋に飲みに行きました。15名ほど入れるこぢんまりとした居酒屋には、地元の人・観光客などが集まっており、一瞬でみんなと打ち解けて仲良くなったため、翌日の釣りに誘われました。
翌日は他の地区の観光予定ではあったものの、観光そっちのけで急遽島民たちとの釣りに便乗することに。
釣りで必要なものはすべて島民たちが貸してくれた
じつは私人生で初めての釣りがここ青ヶ島。
堤防釣りではあったものの、30cmほどの魚が釣れる釣れる。まさに入れ食い状態でした。
釣った瞬間に捌く。ここはまさに青空キッチン。
そしてその釣った魚を眼の前で捌いてくれて、おにぎりとともに昼食。ときには休憩しながらお酒を飲み、青ヶ島の生活のことを聞いたりと、とても楽しいひとときで時間がたつのはあっという間でした。
鮮度が抜群すぎ、贅沢すぎる経験だ。
帰りはビューポイントに寄りながら宿まで送ってもらい、夜もまた釣りメンバーで居酒屋に集合し打ち上げ。
その日みんなで釣った魚をフライやなめろうに調理してもらい、みんなで美味しくいただきながら遅くまで飲んで盛り上がるという、島民や観光客一体となって島遊びを思う存分に楽しみました。
結局15名ほどで楽しく打ち上げをした
そして翌朝のヘリで八丈島へ戻ったものの、島民たちと過ごした時間が楽しすぎたため、「天候悪くなって、ヘリ欠航しないかな」と思うほど、帰る頃には青ヶ島の虜になっていたのです。
心がほどけていく島で、出会いが旅を特別にした
目先の利益や時間に追われることもなく、ただ静かに島の空気に身をゆだねていると、そこに暮らす人々のおもてなしの心が、ふとした瞬間にじんわりと伝わってきました。
高価なものも人目を気にすることも、この島にはありませんが、その分、親切な人々と豊かな自然が日々を包み込み、気づけば身も心も満たされていくような時間が流れていたのです。
なにかあれば親切に対応してくれ、丁寧に教えてくれた
あのとき出会った人たちとは今も連絡を取り合っていて、内地(都内)に来るタイミングで定期的に顔を合わせる関係が続いています。旅の醍醐味はやはり人との出会いにあり、それがあったからこそ、青ヶ島は私にとって特別な場所になったのだと思います。
青ヶ島で見た太平洋にかかる大きな虹。なにか特別感を感じた
次にあの島に「帰る」のはいつになるだろう。
そう考えるたびに、心のどこかで静かに波の音が響いているような気がして、今もずっと、思いを馳せています。
All photos by Tamami Mizunoya