ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。トラベルライターとして寄稿した記事は2,000記事以上。 山岳雑誌『山と渓谷』掲載多数、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリ。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

こんにちは!トラベルライターの土庄です。いよいよ夏本番ですね。学生にとっても社会人にとっても、待ちに待った夏休みがやってきます。

旅行好きの皆さん、今年はどんな旅のプランを考えていますか?円安が進行し、国内の宿泊費も上昇しているため、近場への旅行を検討されている方も多いと思います。そこで、今年の夏はお金をかけずに楽しむアクティブな旅に挑戦してみるのはいかがでしょうか。

自転車での旅行や車中泊、キャンプなど、節約できる旅のスタイルはたくさんあります。ぜひ皆さんも一生忘れられない旅をしてみてはいかがでしょうか?

若いときのアグレッシブな旅こそ人生の糧になる

なんとか自転車で乗り越えた奥羽山脈・八幡平
思い通りにスムーズに遂行できた旅よりも、トラブルを乗り越えた旅の方が、強く記憶に残るものです。旅好きの皆さんなら、この感覚に共感していただけるのではないでしょうか。

そんなハードな旅の積み重ねが、自分の殻を破る体験となり、新たな人生の景色を見せてくれたり、自分の自信を深めたりもします。

ひとつひとつの旅が自分の糧となるという意味で、若いときのアグレッシブな旅はとくにおすすめです。そこで今回は、私の旅行体験を少し振り返ってみたいと思います。

学生時代の思い出の地・青森県金木町に行こう!

学生代々から心に残っている津軽鉄道沿線の風景
2018年の夏休み、私は自転車で青森県金木町を目指しました。大学時代に研究室の地質調査で1週間滞在した思い出が深く心に残っていたため、社会人になった今、学生時代の記憶を辿る旅を友人と共に計画したのです。

金木町は津軽半島に位置する小さな町で、文豪・太宰治の故郷としても知られています。地質調査中は、炎天下での作業や仲間との切磋琢磨、共に楽しんだ食事やお風呂といった青春の思い出がたくさん詰まっています。

また、津軽富士の雄大な山容、朝日に照らされる津軽鉄道、そして最果て感が漂う十三湊(とさみなと)など、心に刻まれた風景も多くあります。こうした郷愁に駆られ、北の町へと旅立つことにしました。

旅の前半から寄り道。仙台空港から中尊寺平泉へ

この機会を逃したらなかなか行けないと思い、ルートに組み入れることに
さて、計画を練るにあたり、まずはじめに悩むのは、「青森までどう入ろうか?」ということです。移動が旅の主役にもなる自転車旅だからこそ、あらゆるルートを考えることができます。なかなか行けない青森ということもあり、目一杯欲張った結果、以下のルートになりました。

神戸空港→仙台空港→平泉→盛岡→八幡平(はちまんたい)→十和田湖→奥入瀬渓流(おいらせけいりゅう)→八甲田十和田(はっこうだとわだ)ゴールドライン→青森→金木町(約270km / 5日間)

電車を使った仙台空港〜盛岡、青森〜金木町まではカット盛岡までは、自転車を袋に入れて公共交通機関で運ぶ「輪行」を利用しました。そこから先の区間は、今振り返ると「よくあの過酷な山岳ルートをこなせたな」と思うほどハードでしたが、ビギナーズラックで無事に走破できました。

中学生ではじめて日本史を習った頃から行ってみたかった中尊寺金色堂へ
世界文化遺産・平泉は、日本史を学んだことがある方ならご存知でしょう。黄金の国ジパングを象徴する中尊寺金色堂を一度は見たいと思い、自転車で訪れることにしました。

自転車旅の1日目はどうしても公共交通機関での移動に半日かかるため、その間をいかに楽しむか、どれだけ寄り道を楽しむかが大切にしています。

私は仙台を経由し、飛行機と在来線を利用して訪れましたが、友人は東京を経由して東北新幹線でアクセスしました。一ノ関駅で合流するという非日常の体験も、ワクワク感を高めてくれたのを覚えています。

■詳細情報
・名称:中尊寺金色堂
・住所:岩手県西磐井郡平泉町平泉衣関202
・地図:
・営業時間:
3月1日〜11月3日/8:30~17:00
11月4日〜2月末日/8:30~16:30
・電話番号:0191-46-2211
・料金:大人1,000円
・所要時間:1〜3時間
・公式サイトURL:https://www.chusonji.or.jp/

あの小岩井を求めて走る。思い出に残る何気ない時間

岩手山に吸い込まれる道を駆け抜ける気持ちよさは今でも鮮明に覚えている移動日とはいえ、旅は初日からできるだけ楽しみたいものです。そこで、平泉観光を終えた後、すぐに電車に乗って盛岡へワープ。盛岡に到着するやいなや、小岩井農場を目指してペダルを漕ぎ始めました。

天気は最高の快晴で、向かい風は厳しかったものの、道中の岩手山の眺めが見事でした。懸命にペダルを漕ぎ続け、なんとか閉園の30分前に小岩井農場に到着しました。滞在時間は短かったものの、閉園間際に滑り込めたことが今では懐かしい思い出です。

■詳細情報
・名称:小岩井農場
・住所:岩手県岩手郡雫石町丸谷地36-1
・地図:
・営業時間:5月6日~10月中旬グリーンシーズン 9:00~17:30 ※一部時間変更あり
・電話番号:019-692-6027
・入場料:大人800円、子ども300円
・所要時間:2〜3時間
・公式サイトURL:https://www.koiwai.co.jp/makiba/

旅先での行動を時にはノリで決めるのも自転車旅あるある
小岩井農場を過ぎて市街地に戻る道のりも、なかなか走り応えがあったため自転車で走るペースが落ち、戻ってくる頃にはすっかり真っ暗に。体力が尽きかけていたので、無性に焼肉が食べたくなり、見つけた焼肉屋さんに飛び込んだことを覚えています。

旅好きの皆さんもきっと、些細な出来事がいつまでも鮮やかに思い出として残っている経験が一つはあるのではないでしょうか。これこそ、若い頃だからこそできた、行き当たりばったりの旅の醍醐味だと思います。

一度走ってみたかった念願の八幡平アスピーテラインへ

上っている時はどんよりとした天気に少しテンション低め
自転車旅においては、「どこを訪れたいか?」と同じくらい大事にしたいのが「どの道を走りたいか?」という視点です。日本全国から『日本百名道』という絶景道が選出されており、旅先を決める際のひとつの参考になります。

東北を代表する道のひとつ「八幡平アスピーテライン」。標高差1,000m以上もの道をのぼる、超級ヒルクライム(自転車で坂を上ること)コースです。頑張れ頑張れ!と自らを奮い立たせながら、テントや寝袋を積んで重量モリモリで走破できた胆力は、きっと今でも自らの糧になっています。

青空が見えてくると、途端にヒルクライマーは元気になる!
ライブカメラが設置されているため八幡平山上の天候は随時スマートフォンで確認できますが、途中までは霧が出て真っ白でした。しかし、八幡平アスピーテラインが頂上に差し掛かった時、真っ青な空と緑の美しい山並みが展開!

頑張ったら報われる!と思わずテンションが上がり、疲れているはずなのにペダルを漕ぐスピードが上がった記憶があります。アドレナリンが出ているときは、どこまででものぼれると思えるから不思議です。

■詳細情報
・名称:八甲田十和田ゴールドライン(傘松峠)
・住所:青森県青森市荒川南荒川山国有林酸ヶ湯沢 国道103号
・地図:
・営業時間:24時間
※冬季閉鎖あり

奥入瀬を走り、八甲田十和田ゴールドラインに挑む

透明度日本3位と言われる十和田湖ブルーの美しさに感動!
3日目にもなると、酷使した体が良い感じに慣れてくるのは自転車旅あるあるです。この日は、十和田湖から奥入瀬渓流までの気持ち良いルートを走りました。十和田湖の青さに心奪われ、天然クーラーとも呼びたくなる奥入瀬渓流の涼しさには感動です!

まさに夏の旅を象徴するような風景に数々出会えました。そんななか、後半にはとんでもない試練が待っていました。青森県の国道最高所・傘松峠(標高1,027m)を越える八甲田十和田ゴールドラインです。

到着した時は、虫の息で倒れるように就寝したのも今では良い思い出
各々のペースで過酷な上りに向き合っていると途中、親友とはぐれてしまい、不安になった私はのぼってきた道を一度くだり、またのぼり……をお代わりすることを経験しました。

無事に友人と合流できてほっとしましたが、緊張が解けた途端、疲労が一気に押し寄せました。体力を限界まで使い切っていたため、ゴールの酢ヶ湯温泉で温まった後、テントに入るとすぐに爆睡しました。普段は物音に敏感で何度か目が覚める私も、この時ばかりは朝までぐっすり眠れました。

「また限界を超えたいか?」と聞かれれば、そういうわけではないですが(笑)、目の前の道に一生懸命向き合っていると、超えられることもあります。これこそ、自転車旅が秘めるストイックな魅力かもしれません。

■詳細情報
・名称:八幡平アスピーテライン
・住所:岩手県八幡平市松尾寄木〜秋田県鹿角市八幡平切留平
・地図:
・営業時間:24時間
※冬季閉鎖あり

大学の思い出の地に再訪!青森県金木町へ

最後は津軽鉄道に揺られながら芦野公園(金木町)を目指す
そして4日目に、ついに思い出の地である金木町に到達しました。特に、八甲田十和田ゴールドラインを青森市街まで下りきったときの「やり遂げた……!」という充実感は、今でも忘れられません。

自転車でそのまま向かうこともできましたが、最後は思い出深い津軽鉄道に乗ることにしました。サイクルトレインなので追加料金を払えば、自転車をそのまま持ち込めます。旅情を高めるために公共交通機関を組み合わせることができるのも、自転車旅の魅力の一つですね。

忘れられない青春の思い出が詰まっている大好きな宿
最後は真っ暗な中、駅近くの民宿エンゼルにチェックインしました。ここはかつて地質調査で1週間お世話になった思い出の宿です。調査から帰ってきた後、みんなでお風呂に入り、たらふくご飯を食べた、そんな青春のひとときが蘇ります。

金木町を目指して自転車で走った2018年の夏休みの旅は、新しさと懐かしさが入り混じる満足感の高い大冒険でした。

今ではお互いに家族を持ち、ストイックな旅から少し遠ざかっている友人とも、会うたびに「あの旅は本当に良かった!」と、かけがえのない旅の思い出をいつも語り合っています。

■詳細情報
・名称:民宿と食事処 エンゼル
・住所:青森県五所川原市金木町芦野84-715
・地図:
・電話番号:0173-53-2349

“あの時だからこそできた”と一生思い出に残る旅を

テントや寝袋を担いで、ひたすら山に挑んだ思い出がたくさん
今でも思うことは、「あの時、こんな旅ができて本当に良かった!」ということ。

二度とできないとは言いませんが、若さゆえに自分の限界を決めず、目の前のひとつひとつに没頭した旅だからこそ、一生の思い出に残る経験となったのだと思います。

この旅を通じて、自分の殻を破る成功体験や自信を得て、大切にしたい価値観や考え方が形成されたように感じます。

夏の長期連休は、一生忘れられない冒険をするチャンスです。ぜひ皆さんも「若い時こそできるストイックな旅」に挑戦してみてはいかがでしょうか?

All photos by Yuhei Tonosho

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。トラベルライターとして寄稿した記事は2,000記事以上。 山岳雑誌『山と渓谷』掲載多数、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリ。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

RELATED

関連記事