ひとり旅の魅力は、旅の目的地をすべて自分で決められること。
ガイドブックに載っている観光地や温泉、現地ならではのグルメにも注目するが、ここ最近は旅先で「本屋さん」を訪れることが多い。しかも、大概の場合は訪れるだけでなく、本を買ってしまっている。以前から買いたい本があったわけではないのに、だ。
本屋さんは日常の生活にも存在するもの。本を買おうと思えば、どこの本屋さんでも買うことができる。それでも、旅先の本屋さんを見つけると、つい入ってしまうのだ。
見出し
日常としての本屋さん
本がある空間に出会うとワクワクする
幼少期から、本は日常の中にあった。
本好きの両親の影響もあり、両親に連れられて隔週で図書館に向かい、本を借りた。気になる本は数多く、貸出冊数の上限を迎えて泣く泣く本を戻すことも多かった。
いつしか、自分ひとりでも本のある場所に足を運ぶようになった。図書館は少し遠い場所にあったため、足は自然と最寄り駅の本屋さんへ。あるときは参考書を買ったり、あるときは気になっている小説を買ったり。出版社が主催する「○○フェア」対象の時期には、ストラップなどの「おまけ」をもらったこともあった。
本屋さんは筆者にとって、日常の一部だった。
非日常としての旅
偶然出会った、本と野菜を交換するユニークなイベント
旅の目的は、当初は「非日常感」を楽しむことがほとんどだった。
幼少期の家族旅行では、有名な観光地に足を運び、特産品を味わい、温泉に入った思い出が多い。旅先に本を持っていくことはあっても、本屋さんに入ることはほぼ、なかった。本屋さんは日常でも入ることができるから。日々の環境から離れ、自分が普段身を置かない地に足を運び、普段経験できないことをすることが旅だった。
どこでも本を買える時代に、旅先で本を買うということ
コーヒーとともに、本の世界に耽る
ひとり旅を始めてから、いつしか旅先の本屋さんに足を運ぶようになった。
いまの時代、全国どこにいても本を買うことができる。新品・古本問わず、Amazonや楽天市場など、ECサイトで注文すれば数日で家まで届けてくれる。なんなら電子書籍であれば、本棚もいらない。その一方で、旅先の本屋さんで本を買うと、荷物になってしまう。なぜ旅先で本屋さんに入り、そして気づけば本を買ってしまっているのだろうか。
地域ゆかりの本と出会う
その地でしか出会えないZINEに出会えることも
旅先の本屋さんでは、その地域ならではの特色ある本と出会うことができる。今はなき地域の飲食店での思い出を綴ったエッセイ、普段遣いの鉄道路線をテーマにした小説やzine、さらには「〇〇(地域)本」といった飲食店マップなど。
これらの本は全国的に流通していることもあるが、少量部数で発刊されているために出会う機会がないこともしばしば。旅のはじまりに本と出会えば、まちの日常を知る指南本にもなるし、数年後に読み返せば旅の思い出が蘇ってくる。
自分とゆっくりと向き合い、思考を深める
なにかと忙しい毎日では考えられなかったことでも、時間に余裕がある旅ではふと、いろいろと考えてしまうことがある。例えば旅先に向かう電車の中で、あるいはホテルに着いて一息ついたあとに、「じつはこれに興味があった」「これを知りたかった」「この人の本が読みたかった」といった具合に。
その状態で本屋さんに入れば、普段は手に取らないような本にも自然と目が行ってしまう(「本が呼んでいる」ような感覚に近い)。帰りの電車で読み進めれば、「買ったけど時間がなく、そのままにしてしまった……」という事態を回避することができる。
本屋さんの個性を楽しむ
最近は棚ごとにオーナーが異なる「一箱本棚」の書店も増えてきた(写真は「渋谷○○書店」)
一見「まちの普通の本屋さん」であっても、完全に同じ本屋さんは2つとない。サイン本が置かれていたり、手書きのPOPが書かれていたり、さらには陳列方法にもこだわりがあったりと、店主さんや本屋さんの個性に出会うことができる。
また、最近では書店という枠を超え、新たな挑戦をされている本屋さんも多い。例えばブックカフェを併設し、コーヒーと一緒に本を楽しめる場所も。旅先でひと息つきたいときにもぴったりだ。
偶然の出会いを求めて、旅先で本屋さんに入ってみよう
本屋さんごとの「こだわり」を感じるのも楽しい。
旅先で本屋さんに入れば、日常では出会えない「偶然の出会い」を楽しむことができる。
気になったことはインターネットで検索すれば一瞬で答えを出してくれるし、気になっていた本を調べれば、関連する本の紹介もしてくれる。それは便利ではあるが、一方で文脈を超えた予期せぬ出会いは生じにくい。
旅という非日常な時間で、自分だけの本に出会う。それはきっと、旅の大切な思い出の1ページとなるはずだ。
All photos by Nakashin