ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

瀬戸内海をみつめて


翌日、僕は宣言通り、尾道へ向かった。

駅に着き改札を抜けると、初めて来る場所なのにどこか懐かしい空気が流れていた。

商店街を練り歩き、喫茶でコーヒーを飲む。
それだけで心が弾んだ。
尾道はいい街だった。来てよかったと心から思った。

「坂の街」としても知られている尾道。商店街の次は、坂道をひたすらゆく。

尾道は他にも「◯◯の街」という呼び名がいろいろある。
文学、映画、そして猫!
この坂道にはそのすべてが詰まっていて、どれも僕の好きなものだった。

志賀直哉旧居志賀直哉先生の旧居はここです
志賀直哉が『暗夜行路』を執筆したという旧居跡。

艮神社『時をかける少女』(1983年)のロケ地に使われた艮神社
映画『時をかける少女』で、ヒロインの和子がタイムスリップして出てきた艮(うしとら)神社。

坂道の至るところに可愛いにゃんこが寝ていて、「猫の細道」では猫にまつわるものがところどころに。

尾道の猫坂の途中は猫だらけ

猫の細道猫の細道
そんな好きなものへの寄り道を堪能しながら、どんどん坂道を登る。そして息を切らしながら辿り着いた、千光寺公園。

そこから見えたのは、素晴らしく美しい景色だった。

尾道の街並みと桜。広がる瀬戸内海。
雲ひとつない青い空。
海をゆっくり進む船と、水面にきらきらと光る春の陽射し。
向こうに浮かぶ島に見える、緑の山々。

その絶景に、思わず「おお……」と声が漏れた。

瀬戸内海の景色2千光寺公園から望む瀬戸内海
⁡瀬戸内海には尾道から今治まで続く6つの島があり、それらをしまなみ海道が繋ぐ。

僕はふと、『星宿海への道』という小説のワンシーンを思い出した。この小説は、僕を旅に駆り立ててくれたあのエッセイを書いた、宮本輝の作品だった。

中国の黄河源流にあるという「星宿海」。そこは無数の湖がある土地で、夜になるとその湖面に星が映るという。

無数の湖に輝く、無数の星々の光。
それはまるで星が生まれるかのような光景で、それゆえに人々はここを「星宿海」と呼ぶー

その星宿海をキーワードとして物語は進み、主人公はやがて瀬戸内海に辿り着く。

しまなみ海道から夜の瀬戸内海を望んだ時、無数の星々が海に映る光景が見え、主人公はそれを星宿海と重ね合わせるー

そんなシーンがある。

僕が瀬戸内海を見つめたのは昼間だったが、この海に確かに星が宿るんだろうなと想像するだけで、心が震えた。

『星宿海への道』は、前年ネパールを旅した時にカトマンズの本屋で見つけ、異国で宮本さんに出会えるなんて!と感動して買ったもの。

旅の中で出会った宮本輝の小説に出てきた場所と、宮本輝のエッセイに導かれて旅した場所が重なった。

こんなことってあるんだなぁ。

僕はこの海を見るために、旅に出たのかもしれない。

そういうことにしてもいい、と思った。

星宿海への道宮本輝『星宿海への道』

悩むのもまたよし

⁡帰りの電車に揺られながら旅を振り返る。

当日まで悩み続け、何も決まらないまま出発した尾道旅。

途中で列車が止まるトラブルもあり、不安な気持ちにもなった。それでも、来てよかったと思える素晴らしい景色に出会えた。

今までの自分は、時間やお金、環境などのせいにして、やりたいことを見送ってきた。

悩んだ末に、決まりかけていたことをやめることも多かった。それがどんなにもったいないことだったか……。

「いつか」や「そのうち」は、自分から動かなければ来ない。でも、自分から動けば「いつか」が「いま」にだってなる

やってみたいことは、うまくいかなくてもやったほうがいい。だって人はいつ死ぬか、世界はいつどんな状況になるか、わからないから。

うまくいかなければそれも思い出になるし、学びもある。だから、行動に無駄なんてない。

あの日、宮本輝のエッセイを読んで旅に出た僕は、そういう気持ちを持って生きるようになった。

コロナ禍を経た今、その思いはより強まっている。

千光寺公園の桜千光寺公園の桜
⁡そしてもうひとつ。
悩むこともまた、よしということ。

悩む時間がもったいないと言う人もたくさんいる。もちろん、できるなら悩まずに決めたほうがいい。

それでも、悩んでしまう人は多いだろう。
そんな人に僕は「悩んでもいいんだよ」と伝えたい

悩むということは、いろんなことを考えること。
思慮を深め、物事にじっくり向き合うこと。
そこに無駄なんて絶対ない最終的に行動を起こせれば

だから僕は今日も悩みながら、行きたい道を歩き続けている。

ねこねこころがりにゃんこ

All photos by Satofumi

ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

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