こんにちは、TABIPPO編集部です。2020年10月12日に締め切った、「#私たちは旅をやめられない」コンテスト。たくさんのご応募ありがとうございました!
募集時にクリエイターの方々の作品例を掲載しておりました特集にて、受賞作を順次掲載する形で発表させていただきます。
それぞれの旅への思いが詰まった素晴らしい作品をご紹介していきたいと思います。ぜひご覧ください。
今回はAIRPORT賞に輝いた、Ayuさんの作品『まさかハノイで自分の心に向き合おうだなんて。』をご紹介します。
Ayuさんには、成田国際空港より「NARITA PREMIER LOUNGE(成田プレミアラウンジ)チケット」が贈られます。それでは、作品をお楽しみください。
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いちばん好きな街かと言われると、そうではないと思う。いちばん印象深い街かと言われても、やっぱりそうではないと思う。
だけど、帰国寸前のノイバイ空港で「わたし、絶対またここに戻ってくる」そう思った。晴天に包まれた滑走路を眺めながら、旅の余韻に浸っていただけなのかもしれない。だけど、直感的にそう思ってしまった。
わたしはハノイの虜になっていた。
ハノイをはじめて訪れたのは2018年11月。ベトナム発の大好きなテーブルウェアブランド「amai」の食器を大量買いしたくてひとり旅の旅先に選んだ。
一人で入りやすいカフェやマッサージ店もたくさんあるし、治安も良い。女性のひとり旅にはぴったりの場所だ。
それくらいの心持ちで訪れたはずなのに。宿に荷物を置いていざ街に出てみると、ハノイの二面性に圧倒された。
市街地は「THE ベトナム!」という感じのローカル具合で、ものすごい勢いでバイクが往来している。そこら中で飛び交うクラクションの音にドキドキが止まらない。普通にコワイ。
だけどホアンキエム湖の周辺まで行くと、現地の学生やカップルが談笑していたり、おじいちゃん・おばあちゃんが体操していたり。「本当に同じ街?」と感じるくらい、しっとりとした時間が流れている。
在住欧米人も多いようで、クラクションの代わりに英語が飛び交っている。ひょっとしたら東京よりもグローバルなんじゃないか?
まったく異なる2つの側面をもつ街、ハノイ。だけどハノイは街全体での共通点がある。それは人々が「自分らしく居る」ことだ。
わたしの目に映るこの土地の人たちは、他人に「無関心」ではないけれど「無干渉」だった。相手の事情にむやみに立ち入ろうとせず、自分と異なる価値観や生活観の人を受け入れる。だけどみんなが顔見知りのように挨拶を交わし、困ったときには助け合う。
価値観の多様性に寛容だから、好きなことを自分らしく表現できる。ハノイに小さな個展や個人経営のカフェ、雑貨屋さんが多いのも、そうした街の特性ゆえかもしれない。
ハノイに旅立った当時のわたしは、いつも他人の評価を気にしていた。
社会人2年目での早々の部署異動や同級生の結婚ラッシュ。勝手にまわりの人生と比較して、自分は誰にも必要とされていないんじゃないかという気持ちに苛まれて不安だった。大げさに聞こえるかもしれないけれど、孤独で仕方なかった。
他人の評価に依存して自分軸を見失いつつあることに頭の片隅で危機感を感じながらも、自分の心を気遣う余裕がなかった。そうして自分自身を蔑ろにしているあいだに、どんどん心がすり減っていた。
そんなときに訪れたハノイ。
ただの落書きとは違う、感性を真っ直ぐに表現したウォールアート。こだわりを詰め込んだカフェやアトリエ。街の至るところに「自分らしさ」があって、歩いているだけでわくわくした。何よりも、多様な感性を堂々と表現して、自分に自信を持っている人たちの楽しそうな表情にときめいた。
「自分らしさに自信を持って生きられたら十分じゃない?」当時のわたしに、ハノイはそう問いかけてくれた気がする。ずっと感じていた孤独は、自分自身が決めた枠からはみ出ることを受け入れられず、自分の生き方を縛りつけようとしている、わたし自身が生み出しているんじゃないかと感じてハッとした。
ハノイを経つ日の朝。
ホアンキエム湖のほとりで「自分らしさ」を尊むことを誓った。大切な人やもの、価値観、挑戦したいこと……自分基準でたくさん考えた。こんなにのんびりと、じっくりと自分の心だけに向き合ったのは久しぶりだった。
「自分らしさを大切にする」って、当たり前だけどすごく難しいことだと思う。そして「大切にしないこと」に慣れてしまったら、心がすり減っていくスピードは本当に早い。そんな状態に陥りかけていたわたしに、自分と向き合う時間をくれたハノイは、わたしにとって「特別な街」だ。
2020年9月、実はハノイに再訪する予定だった。もう一度ハノイの空気に触れたいけれど、それもしばらくはおあずけだ。
次にこの地に戻ってきたときには、あの日のようにホアンキエム湖のベンチでベトナムコーヒーを片手に自分の人生と向き合おう。あの頃よりもずっと自分らしく過ごしている自分と。
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