こんにちは、TABIPPO編集部です。2020年10月12日に締め切った、「#私たちは旅をやめられない」コンテスト。たくさんのご応募ありがとうございました!
募集時にクリエイターの方々の作品例を掲載しておりました特集にて、受賞作を順次掲載する形で発表させていただきます。
それぞれの旅への思いが詰まった素晴らしい作品をご紹介していきたいと思います。ぜひご覧ください。
今回はAIRPORT賞に輝いた、手塚 大貴さんの作品『きっと釜山から、新たな旅路は始まる』をご紹介します。
手塚 大貴さんには、成田国際空港より「NARITA PREMIER LOUNGE(成田プレミアラウンジ)チケット」が贈られます。それでは、作品をお楽しみください。
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「また海外へ行けるようになったら、まずはどこへ行きたい?」旅好きの友人と会うと、そんな話をすることが多くなった。
ヨーロッパの国を巡りたいという人もいれば、南米の遺跡へ行ってみたいという人もいた。
では、僕は?
不思議なのだけど、新しい国へ行きたい!というよりも、今まで旅した国へまた行きたい!という気持ちが強いのだ。たとえば、スペインのバルセロナ。それから、アメリカのニューヨーク。
そして、そう、韓国の釜山だ。
なぜだろう?なぜ僕は、新しい旅先よりも、かつて訪れた旅先に、こんなにも心惹かれてしまうのだろう?
僕にとって、初めて訪れた海外の街は、韓国の釜山だった。10年前、24歳の夏、生まれて初めての海外ひとり旅に出たのだ。
飛行機が海を越え、韓国の半島が見えてきたときの感動を、いまもはっきりと覚えている。不思議な色をした泥土の海岸、日本では見られない高層アパートの群れ、車が右側通行をしている高速道路、やがて見えてきた釜山の街……。それは僕が初めて見る、「外国」の風景だった。
赤いパスポートに最初の入国スタンプを押してもらうと、僕はバスに乗って街へ出た。南浦洞という繁華街だったと思う。バスを降りると、そこには五感を刺激する、本物の「外国」があった。
色とりどりのハングルの看板に、見たことのないものを売っている露店街。どこか埃っぽい街の匂い。やたらうるさいクラクションと、人々のざわめき。街角の屋台で食べた、ひたすら辛いチヂミ。そして、異国の街に自分が溶け込んでいくような、心地良い感覚……。
人生で初めて歩く「外国」に、僕は興奮し、魅せられていった。これが海外なんだ、これが海外を旅するってことなんだ、と思った。
チャガルチ市場へ行くと、海鮮料理店のおばさんに熱心に中へと誘われて、びっくりして逃げたりもした。その夜はサッカーの韓国戦があるとかで、街中に赤いシャツを着た人が溢れ、熱く応援する姿に心を揺さぶられたりもした。
すべてが初めてだった。見る風景も、食べるものも、耳にする言葉も、そして心の震えも、すべてが初めて尽くしだった。人生で忘れられない1日を選ぶとしたら、きっと僕は、「初めて」の感動に溢れた、あの釜山での1日を真っ先に思い浮かべるだろう。
その釜山から、僕はソウルを目指して、韓国縦断の旅をした。慶州、大邱、安東、大田、ソウルと、1週間かけて韓国の街を巡ったのだ。どこへ行っても、心を動かされる「なにか」があった。偶然の出会いがあって、情けないハプニングがあった。そのすべてが、生まれて初めて経験する「なにか」だった。
そしてソウルに辿り着いたとき、僕は思ったのだ。海外を旅するって、こんなに素晴らしいことだったんだ、と。
その韓国の旅をきっかけに、僕は暇さえあれば、海外への旅に出るようになる。だからたぶん、釜山は僕にとって、韓国縦断の旅の始まりだっただけでなく、長い長い海外への旅の、そのスタート地点だったのだろう。
あの釜山から、すべては始まった。そんな気がするのだ。
あれから10年が経った。この10年は僕にとって、「旅」という1字で表すしかない10年だったと思う。憧れのサグラダ・ファミリアを見にバルセロナへも行ったし、ハリケーンに襲われる中ニューヨークへ行って大変な思いもした。
だから今年、海外へ突然行けなくなって、心にぽっかりと空洞ができてしまったような気がした。旅というものに、どれだけ人生を支えてもらっていたのか。旅というものを、どれほど心から愛していたのか。それを実感する毎日だった。
確かに、海外へ行けない日々はつらいものだった。でも、たったひとつだけ、良かったなと思うことがある。
それは、今までしてきた旅がキラキラと輝き始めたことだ。今までよりも、眩しいくらいに、美しく。憧れの街へ行ったあの旅も、ハプニングだらけだったあの旅も、今ではすべてが宝石みたいに輝いている。きっと、海外へ行けなくなったことで、自由に旅できる幸せに気付き、今までの旅が静かに輝き始めたのだ。
本当に旅をしてきてよかった。心の底から、そう思う。
実は今、僕の手元に、1枚の航空券がある。その行き先は、韓国の釜山だ。そう、あの釜山から、僕は新たな旅を始めようとしているのだ。
もちろん、まだ行けるかはわからない。でも、たとえ行けなくても、僕はまたすぐに釜山行きの航空券を取り直すことだろう。
なぜ、釜山なのか?
それはたぶん、バルセロナやニューヨークと同じく、あの釜山の旅も、僕の中でキラキラと輝き始めたからなのだと思う。かつて訪れた旅先に、これほど心惹かれてしまうのは、その眩しい「光」に理由があるのだろう。
でも、釜山を選ぶ理由はそれだけじゃない。
僕にとって、新しい旅を始める場所として、釜山ほど相応しい街はないと思うからだ。10年前、釜山という港町から、僕の海外への旅は始まった。その旅路はソウルへ続いたばかりでなく、遠くヨーロッパやアメリカ大陸へも繋がっていった。
だとしたら。
これからの新しい旅も、あの釜山から始めれば、その道は「ここではないどこか」へと繋がっていくのではないか。バルセロナやニューヨークはもちろん、まだ見ぬ未知の街へと、旅路はどこまでも続いていくのではないか……。
あの10年前の旅が「初めて」の感動で溢れていたように、今度の釜山への旅は「久しぶり」の感動で溢れることだろう。
僕はまた釜山から、海外への一歩を踏み出すのだ。10年前と何も変わらない、子供のようにワクワクした気持ちを、胸にそっと抱きながら。
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