こんにちは、TABIPPO編集部です。2020年10月12日に締め切った、「#私たちは旅をやめられない」コンテスト。たくさんのご応募ありがとうございました!

募集時にクリエイターの方々の作品例を掲載しておりました特集にて、受賞作を順次掲載する形で発表させていただきます。

それぞれの旅への思いが詰まった素晴らしい作品をご紹介していきたいと思います。ぜひご覧ください。

今回はTRAVELERS賞に輝いた、もりあらさんの作品『不合格発表/モロッコ』をご紹介します。

もりあらさんには、TABIPPOより「新書籍『僕が旅人になった日』+『365日 世界一周 絶景日めくりカレンダー』」が贈られます。それでは、作品をお楽しみください。

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昨年の三月。大学の合格発表日、僕はモロッコのシャウエンにいた。

シャウエンは、モロッコ北部の山肌にひっそりと広がる小さな町である。特徴は、なんと言ってもその「青さ」だ。家も、壁も、地面も、階段も──町全体が、空と同じ色で塗られている。

複雑に入り組んだ路地はまるで迷路で、辺り一面の青色が方向感覚を狂わせる。大小様々なドアが無数に立ち並び、静謐な雰囲気に息を呑む。自分がどこにいるのかさえもわからなくなるような、この景色を見るために僕はモロッコへ訪れた。

「将来の夢」が決まらないまま迎えた高校三年生。未来への漠然とした不安を抱えながら、それでも「大学に行けば夢も決まる」と無根拠に信じて、大学合格をとりあえずの目標に生きていた。

大学受験の日程は容赦なく迫る。明確なモチベーションもないまま、塾と学校を往復。「大学に行けば」という希望は、いつしか「大学に行かなくては」というプレッシャーに変わっていた。

そんな毎日のどこかで、CMで見かけた青い町に心を奪われた。その日から、誰もが持つ「死ぬまでに行ってみたい場所」が、僕にとってはシャウエンになった。辛い日々の中でも、シャウエンへの憧れが衰えることはなく、むしろその憧れに支えられていた。

第一志望の大学の受験から五日後。バックパックにありったけの荷物を詰めて、気づけばモロッコに旅立っていた。予約したのは航空券のみ。今思えば、自暴自棄になっていたのだろう。合格を待つプレッシャーに押し潰されるくらいなら、「死ぬまでに行ってみたい場所」へ行ってやろうと。憧れの場所に引き寄せられるように、そして将来への焦燥感から逃げるように、無我夢中でシャウエンを目指した。

そして合格発表日の朝を、憧れの地で迎えた。

結果は不合格。描いていた青写真は消え失せ、抱いていた不安は現実になった。これからどうすればいいのだろう。将来自分はどうしているのだろう。不安を感じることすらも怖く、現実から目を背けようとして、シャウエンの町を一望できる丘へと登る。

見渡した青い町。目の前の絶景が言葉を失わせる。あれほど悩んでいた進学や、将来の不安などいつの間にか忘れていた。頭にあったのは、「この素晴らしい国をできる限り見て回りたい」という思いだけだった。

ここから再出発しよう。そう決めてからは一瞬で。僕は一ヶ月間かけて、モロッコを一周した。

コーランの一節に基づき、海の上に建てられたハッサン二世モスク。海のように青いアラベスクに、空に届きそうなミナレット。参拝者や学生、旅人で賑わい、一日を通して様々な表情を見せる。

地平線まで続く砂が雑音を呑み込み、風に舞う砂の音しか聴こえないサハラ砂漠。世界に果てがあるなら、限りなくこの風景に近いだろう。

砂以外何もないと思いきや、アクティビティは充実していて、サンドボードにバギー体験、化石を探したり、ラクダに乗ってキャンプも。ラクダにもたれて、サハラ砂漠を覆う満天の星空を眺めるなんて、一ヶ月前の自分では想像すら出来なかった。

古都マラケシュを包む喧騒は止むことがなく、毎日がお祭り騒ぎ。旧市街のスークを眺め、蛇使いの笛の音に驚き、ヘナタトゥーを楽しんでいると、気付けばどこからか出てきた屋台がジャマ・エル・フナ広場を埋め尽くしている。抱きついてくるほどの客引きをかわしつつ、食べて喋って、また歩いて。

箸の持ち方を教えてあげたり、値切り交渉のテクニックを教えて貰ったり。Instagramを交換して、いまだに交流のあるお兄さんもいる。「一人旅って、寂しくなりそう」と心配していた自分は、もうどこにもいなかった。

モロッコを旅しながら、多くのことを経験し、たくさんの人に助けられ、そしていろんな旅人と出会った。

言語も国籍も違う彼らと、一緒にご飯を食べ、道に迷い、互いに旅の一部を共有しながら次の目的地へと向かう中で、彼らは誇らしげに自分の旅を語ってくれた。旅で見てきたもの、旅で経験したこと、旅で出会った人。目を輝かせながら話す彼らを見ていると、旅をしている最中にも、新たな旅への憧れが尽きることはなかった。

将来が決まってないことがずっと不安だった。シャウエンで受けた不合格の発表に、ビジョンの無い未来を突き付けられた。けれど、そんなときにモロッコで出会った旅人たち。予定や時間に囚われず、気の向くまま好きな場所へ行き、自由に人生を楽しむ彼らの姿は、今でも忘れられない。

モロッコは僕に夢を与えてくれた。彼らのような旅人になりたい、という夢を。「未来が決まっていなくても、人生を楽しめる」と教えて貰ったような気がしたから。

2020年、未曾有の危機を迎えた世界から、旅人はいなくなった。今はただ、一日も早い収束を祈りながら、またあの場所へ行けるよう思いを馳せるしかない。本を読んで、写真を見て、そして──文章を書いて。

時が来たら、あの場所をまた訪れよう。大切なことを教えてくれた旅人に会いに。今度は自分も、あの時憧れた旅人として。

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編集部

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