こんにちは、TABIPPO編集部です。2020年10月12日に締め切った、「#私たちは旅をやめられない」コンテスト。たくさんのご応募ありがとうございました!

募集時にクリエイターの方々の作品例を掲載しておりました特集にて、受賞作を順次掲載する形で発表させていただきます。

それぞれの旅への思いが詰まった素晴らしい作品をご紹介していきたいと思います。ぜひご覧ください。

今回はWORLD賞に輝いた、小籠包さんの作品『一番うんざりして、一番心に残った旅』をご紹介します。

小籠包さんには、香港航空より「モデルプレーン&香港航空オリジナルグッズセット」が贈られます。それでは、作品をお楽しみください。

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数年前の年末、私達は女4人でスペインからジブラルタル海峡を越え、モロッコへ入る旅を実行に移した。行きたい所は多いが休みは短く、1週間と少しで1,500kmを移動するなかなかハードな旅だ。

クリスマスムードのバルセロナやセビーリャを浮かれて観光して回り、海峡を渡る船に乗り込むまでは良かったが、問題はアフリカ大陸に着いてからだった。

それまでのスペインでのスムーズさとは打って変わって、モロッコに入ってからは何もかもが思い通りにいかなかった。

有刺鉄線に囲まれた入管、当初の倍の料金を取ろうと下車後も追いかけてくるタクシー運転手、出発時間も行き先も不安なバス、高めの値段をふっかけ、さあ値切ってご覧と笑う土産物屋…。

期待通りの美しさと裏腹に、私達は滞在3日目にして疲れ切っていた。

有名な青の街シャフ=シャウエンの次に向かったのは、迷宮都市フェズ。着いたのはお昼時で、太陽が真上から旧市街のクリーム色の高い壁を光らせている。

私達の宿はリヤドと呼ばれる伝統的な建物を活用した宿で、モロッコ滞在の1つの目玉だった。

砂っぽい路地にそびえ立つ飾り気のない外壁についた小さなドアを開けると、そこには別世界が広がっていた。水を湛えたプール、豊かな草木、静寂と鳥のさえずり、日差しに照らされる鮮やかなモザイク模様…リヤドの中庭はまさに小さなオアシスのような空間だった。


フェズでの滞在時間も短いしシャウエンで散々道に迷ってこりごりしていた私たちは宿でガイドを頼むことにした。ガイドが来るまで中庭のプールサイドでミントティーを頂いてゆったりと過ごす。

しばらくしてジュラバと呼ばれる伝統的な魔法使いのようなマントを着た、50代くらいのおじさんがやってきた。

すっかり疑心暗鬼になっていた私たちは、ぼったくろうとしていないか、予定に無い土産物屋に連れていかれないかとピリピリして何度もおじさんに念押しした。

おじさんはそんな私たちにお構いなく、慣れた足取りで旧市街の入り組んだ路地を歩きながら、街の見所や歴史について解説していく。世界遺産の街は噂に違わない迷宮で、方向音痴の私は出発して5分で来た方向を見失った。ガイドを頼んで本当に良かった。

おじさんは道すがら至る所で呼び止められ、すれ違う人と握手やハグで挨拶をしていた。まさにディズニーのアラジンが冒頭で次々と町の人に声をかけられるシーンだ!

何人目かの長めの挨拶を終えたおじさんは、以前ツアー時間をオーバーして挨拶をしすぎだと客に怒られた話をしてくれた。

そうは言われてもそれが僕たちの文化。時間を気にして、知り合いを無視して通り過ぎるなんてできないよ。

ツアー客の気持ちも分かるが、人との交流を重視する文化はある意味人間らしく暖かい。

その後もイスラム世界最古と云われる大学や、市場、旧市街と外界の境の門など見所を次々と回る。誇らしげに説明する様子から、街への愛が滲み出ていた。

メディナの奥の革の染色場に着く頃にはすっかりおじさんと打ち解け、強烈な染色の臭いに顔をしかめたり、鼻の前で臭い消しのミントをひらひらさせて笑い合った。


私達の警戒が解けてきたころに、どんな話の流れだったか歩きながらおじさんが言っていたことが忘れられない。

モロッコ人の中にはお金のために悪いことをする人もいるけど、全員がそうではなく良い人もいるということを知って欲しい、だからこうしてガイドをしているんだ。

その言葉を聞いて、自衛のためとはいえ初めから攻撃的な態度でおじさんを疑ってかかっていた自分たちを恥じた。そしておじさんはこれまで私達と同じ様な態度を何度も経験してきたのかもしれないと思うと、胸が痛んだ。

薄暗くなってきた道に祈りの時間を知らせるアザーンの乾いた音が響く。

おじさんは時間をオーバーしても私たちに付き添い、目一杯街を歩き回り、最後にはリクエストに応えレストランにも案内してくれた。

ツアーを終え、リヤドに到着する頃にはすっかり日も暮れていた。当初の約束以上に案内してもらったお礼に追加料金を払おうとすると、私たちを手で遮りおじさんは言った。

私の娘たち、この後も安全にモロッコを楽しんで。気をつけて日本に帰るんだよ。真っ暗な中庭のライトアップされたプールの前でおじさんと握手をしてさよならをした。


翌日にフェズを立って以降の旅もやっぱりスムーズには行かなかったけれど、おじさんのことを思い出すと決して嫌な気分にはならなくなった。モロッコの印象はフェズの前と後では正反対だった。

最終日に海鮮にあたったり、飛行機の遅延でトランジットのドバイで年越しとなったのも、もはや良い土産話だった。

これが私にとっての旅の魅力。日常から離れた所で、人と出会い、その土地やそこの人々について知る。異国の人々を私達の文化のものさしで測ることはできないということを、毎回新鮮な驚きをもって実感するのだ。

同時にそんな違いが些細に思える程に、彼らが同じ人間だということを五感で感じられるのもまた旅の良さだ。

もし再度モロッコに行ける時が来たなら、もう一度同じ宿でガイドを頼もう。彼に会えるかはわからないけれど、フェズにもっと長く滞在し、今度はじっくりと彼の自慢の古都の暮らしを眺めたい。

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編集部

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