こんにちは、TABIPPO編集部です。2020年9月14日(月)から2020年10月12日(月)まで「#私たちは旅をやめられない」コンテストを実施しています。
応募媒体は「note」。指定の#タグと共に、自由な表現で “海外への旅” への思いを投稿いただくコンテストです。
同時に、クリエイターによる作品とコンテストの受賞作を掲載する特集もスタート。様々な表現での、それぞれの思いをぜひご覧ください。
今回はコミュニティマネジャーとして活躍している、TABIPPO社員、恩田倫孝の作品をご紹介します。
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方向音痴の僕は、よく道に迷う。
それもひんぱんに。
でも、迷ったときに心に決めている決まりごとがある。
だいじょうぶ。だいじょうぶ。きっとうまくいく。
何が大丈夫なのかなんて分からないのだけれども。
All izz well.
こまった時にはいつもこういうのだ。
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2020年。まさか。まさかこんなにも旅が遠ざかる日が来るなんて想像していなかった。コロナで海外が遠ざかって半年。時々湧き上がる旅への旅情。昔に撮った写真やSNSの投稿をさかのぼりながら「旅」を思い出す。またいつか旅ができる日が来ることを願って少し昔の旅の話を書こうと思う。
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2017年9月。僕はインド北部の『ラダック』へ行った。
旅をすることは好きなのだけれども、インドだけはどうしても行こうという気持ちにならなかった。ごちゃごちゃしているような感じでとても汚そうな印象のインド。
「インドに行けば人生が変わるよ」なんて学生の頃はよく聞いていたのだが、人生が変わるほどの場所なんてそんなに無いだろうし、いつも話半分で適当にうんうんと聞いていた。ただ、チベット仏教の文化が残っている落ち着いた北部の『ラダック』はだけはなんとなく気になっていた。
2014年に1年間の世界一周旅をしてから「旅」が遠ざかっていたのだけど、3年が経ち久しぶりに旅をした場所がラダックだった。突然ラダックに呼ばれたのだ。
浅草の家から羽田まで一本。電車の窓から眺める風景が懐かしい。羽田から中国を経由してニューデリーへと行く。さらに乗り継いでレーという空港に降り立った。標高は3,000メートル。高山病対策の薬を飲んでいたので指先がぴりぴりと痛む。
空港から出た時の空気は、いつも吸っている空気はちょっと違って「海外の味」がした。
空はこれ以上ないほどに綺麗に晴れていて、周りは大きな山で囲われていた。
しばらく歩く。
気温は暑い。
山の上には「ゴンパ」と呼ばれる僧院があって、中では子どもたちが勉強をしている。街のいたる所にマントラが刻まれている『マニ車』と呼ばれるチベット仏教の大きな仏器がある。ラダックの街の一部はとてもカラフルで、お昼をすぎると多くの人が野菜を売るマーケットにがらりと変わる。
ラダックはとにかく気持ちが落ち着く場所だった。
日本語が書かれた旅行代理店に入ると、現地の人がいろいろと教えてくれた。(※一切日本語は話せない)
キレイな湖「パンゴンツォ」がとてもオススメらしいが、標高が4,000メートル近くなので街ですこし体を慣らす必要があると。そして、なぜかアプリコットの実をたくさん貰って宿に戻った。
パンゴンツォに行くまでに間、ぼくはスクーターを借りて、山の上の大きな「ゴンパ/僧院」へとむかった。5,6時間で着く距離のようだ。途中、きれな景色を眺めながらピクニックをして山頂に向かった。山の上の方は、道とはいえないような砂利道だったが、移動はとても気持ちよかった。綺麗な夕日が沈みかけた頃、僕は山頂へ到着した。
2人の赤い袈裟をきた僧侶が歩いていたので話しかける。
「こんばんは。今日、こちらに泊まりたいんだけど大丈夫でしょうか」
2人の僧侶は、少し戸惑った顔をして答えた。
「残念なんだけれども、今日は宿泊の施設が空いていないんだ」
すこしの間言葉を失ったが、彼らがそういうならば僕には泊まる場所がここにはないのだ。かなりの長い時間移動してきたのが、そんなことを言っても意味はない。
「ありがとうございます」
元気なく口を動かし、陽が沈む様子をみながら僕は山を下り始めた。急いでスクーターを飛ばしたとしても、下りきる前には陽が沈むことは明らかだった。
暗闇の中、どこか分からないラダックの地を走るのは少し不安だった。ただ、ライトで照らされる道をじっと見つめながら進んだ。
そして、僕はふと空を見上げた。
きれいな星空が広がっていた。
もうどこに泊まれるかも分からないし、どんな場所にいるのかも分からない僕はスクーターから降りてしばらく空を眺めることにした。
じっと見ていると、星の光がとぎれとぎれに僕の目に入ってくる。多くの流れ星が空を走り、高い山はこんな暗闇の中でも存在を確認できる。
きっとうまく。
インド映画『3 idiots/きっとうまくいく』の主題歌の『All izz well』を歌いながら、空を眺める。なんだか勝手に幸せな気分を感じていた。
その後、停電をしている真っ暗な村で宿泊の交渉をしたり、アブリル・ラビーンが流れるバーでお店の人に交渉しても中々泊まれる場所は見つからなかったのだけども、小さな村でやっと泊まれる家を発見した。
おじいちゃんから可愛い孫までいるキレイで優しい家だった。
小さなマニ車をおじいちゃんはくるくると回しながら笑顔で迎えてくれた。テレビには、「ドラえもん」がチベット語で流れていた。つたない英語を話す優しいお母さんから、美味しいご飯をごちそうになり、しばらくして用意された寝室に戻った。
横になって目を閉じる。色々なことがあったけれど、最高の1日だったじゃないか。ポケットに手をいれると、どこかで貰ったアプリコットの実があった。
All izz well。
きっとうまくいく。
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これは2017年の旅の話。だけど今も鮮明に思い出すことができる。この後にいったパンゴンツォはとても綺麗だったし、帰りで一時立ち寄ったニューデリーは噂通り五月蝿く暑かった。もし旅に行ける日常が戻ってラダックにまた行けたら何をするだろうと妄想する。
たぶんまたスクーターを借りてどこか遠くに旅をする気がする。知らない街に行きたい。知らない人と出会いたい。もしかしたらまた宿がないかもしれない。もしかしたらスクーターが壊れるかもしれない。でもいいのだ。きっとうまくいく。
そして、またこうして物語を書きたい。
All photos by Michinori Onda
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「#私たちは旅をやめられない」特集でその他の作品も掲載中!
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受賞作の発表までは、様々な表現の作品を掲載していきますので、ぜひ応募の参考にしてくださいね。コンテスト概要はこちら。