ひとつ盗んでもばれなさそうなほど、あふれて、こぼれ落ちそうな星・星・星。
それを、ゆらゆらと揺りかごのように心地よく身体を揺らすカヌーに仰向けになるだけ。ただ、上を仰ぎ見るだけです。
自分の足が、地面についていない状態で、フラフラと心もとない水面で、チカチカ瞬く夜空を眺める間、身体が宙にぼっかりと浮いたように感じるはずです。
二足歩行で地上から首だけもたげて見る星空よりも、宇宙を、頭上に遥か遥か無限にも感じる広がりを想うのではないでしょうか。
海中に輝く「星々」
photo by yuria koizumi
そして、この近辺の海には、振動を受けて発光する夜光虫の生息地でもあります。
夜の海に、手をちゃぷ、と浸せばそこから逃げるようにチロチロと線香花火のような光が散り散りになるはずです。
下も上も、満天の星空。そして、たまらない浮遊感。あなたも、宇宙の一ピースなんですよ、と語りかけられている、おもわずスピリチュアルに身を委ねたくなる不思議な夜がそこには横たわっているはずです。
暖炉を囲んでマオリの昔話に耳を傾ける
と、ここで冒頭に戻る訳です。
いくら夏とは言え、夜の海に漂い、解放さから夜間水泳を堪能しようものならば凍えるような寒さが肌を刺します。
水から上がっても、逃げ場所はなく、冷気がこもる海上をゆらゆら。そんなところに丁度良くありますは、薪式暖炉なのです。
皆でタオルをかぶり、パチパチ、パチパチと弾ける火の粉を前に異国の言葉で語られていく伝説のマオリの話。海を知っている、キウイを愛している人間が紡いでいくそれは、まるで口ずさまれた歌みたいに耳に届くのです。
異国の言葉だからか、程よく曖昧で、程よく理解できるようなできないような、まどろんでしまうような心地よさがあるのです。
音と匂いは、どんなメディアでもあなたに、届けることができません。
漆黒すぎる、呑み込まれてしまいそうな暗闇も、生き物のように蠢く夜の海の底知れぬ暗さも、その中にあってこそなお一層目映く見える手で掴んですくいあげられそうな沢山の星々も全部、届けることができないんです。
あなたが、まるごとその空気を、その時の感覚で持ち帰ってきてほしい。そのことを伝えたくてこの文章を書きました。
なんとなく、日常から目を背けたくなると、目をつむって帰っていける景色があること。その心地よさの風景が一人でも多くの人に届きますように。