スイスアルプス
ライター

オーストラリアワーキングホリデー2年(パース/ゴールドコースト)|中央ヨーロッパロードトリップ|宮古島リゾートバイト|北半球地球一周の船旅|など気の向くままに住所不特定生活を約6年間続ける。現在はスイスフランス語圏在住。 好きなことで自分を囲み続ける人生を日々追求中☀️

「旅が好き」

これは、9年前にワーキングホリデーでオーストラリアへ渡った頃から、私のなかに確かに根づいている感覚です。

見たことのない景色に胸を躍らせ、異文化の環境に身を置くことで、自分のなかの素直な部分がふと顔を出す。そんな非日常が、私には心地よかったのです。

飛行機日本→スイス飛行中の眺め
ひとつ場所を移動するだけで、世界の見え方がガラリと変わる。新しい土地、新しい人々との出会いが、日常にないワクワクを運んでくれる。

「外の世界」との接点こそが、私にとっての旅の醍醐味でした。

でも数年前、私は結婚を機に、そんな“移動する旅”ではなく、“定住する旅”━━スイスへの移住を選びました。

エレガントなヨーロッパの街並みと、大自然に囲まれた暮らしに憧れを抱き、「旅の延長線」のような軽やかな気持ちで飛行機に乗ったのを覚えています。

しかし、私を待っていたのは想像していた「旅の続き」ではありませんでした。

「観光客」から「生活者」へ。戸惑いのはじまり

フランス語レッスン初めてのフランス語レッスン
移住当初の数週間は、旅の延長のように感じていました。窓の外には美しいアルプスの山々。聞き慣れないフランス語が飛び交う街を歩くだけでも刺激的で、どこか浮き足立っていたのです。

けれど、時間が経つにつれて、その感覚は少しずつ薄れていきました。

旅には必ず「終わり」があります。その期限があるからこそ、すべてが新鮮で特別に感じられる。でも、移住は違います。帰る日がない生活の中で、私は観光客ではなく、「生活者」としての自分と向き合わざるを得ませんでした。

文化や言葉の壁に戸惑い、ちょっとした買い物さえいやになる日もありました。自分の思いや悩みを気軽に打ち明けられるような相手もいない。日本やオーストラリアにいた頃のように、“似た価値観を持つ仲間”と自然につながれる環境が、ここにはなかったのです。

「私はなんでこの国に来たんだっけ?」

そう自問することが、何度もありました。

外の世界を旅してきた私が出会った「内側の旅」

スイスハイキング
誰かと笑い合ったり、気軽に会話したりすることができない毎日のなかで、私にできるのは、自分自身と向き合うことでした。

不安や孤独、うまくできないことばかりの現実を受け入れるのは簡単ではありません。でもその一方で、自分がいま住んでいる場所の美しさや、遠く離れた場所にいても支えてくれる家族や友人の存在に、改めて気づくこともできました。

スイスでの暮らしは、「新しい刺激を得る」旅ではなく、「すでに自分にあるものを再確認し、必要のないものを手放していく旅」だったのです。

それはまるで、“外へ向かう旅”から“内へ向かう旅”への転換でした。

「旅」とは、心が動くこと

レマン湖セーリング友人夫婦とレマン湖でサンセットセーリング
以前の私は、「旅=未知への移動」だと思っていました。飛行機に乗って知らない土地へ行き、異文化に触れることが旅だと信じていたのです。

でも、スイスで暮らすうちに、そこに新たな視点が加わるようになりました。

たとえば、日本から遊びに来てくれた友人にスイスでの暮らしを紹介する時間。

一時帰国して、大切な人たちに再会し、懐かしい空気を味わう瞬間。

そんな時間にも、私は確かに「旅をしている」と感じていました。どこか遠くへ出かけなくても、特別な観光地に行かなくても、自分の心がふと動いたその瞬間こそが、「旅」なのではないか——そう思うようになったのです。

「生活者」だけど、「外国人」である

スイスでの年越しスイスでの年越し

もちろん、いまだに戸惑うことはあります。どれだけこの国の生活に慣れてきても、ちょっとした場面で「自分はやっぱり外から来た人間なんだ」と実感する瞬間は、ふいに訪れます。

誰もが当たり前のように知っている文化的なルールや、何気ない会話のノリに乗り切れず、取り残されたような気持ちになることも。それでも最近、「この感覚こそが、私らしさにつながっているのかもしれない」と思えるようになってきました。

私は“内側”からこの土地を見ている「生活者」でありながら、“外側”の視点も持ち続けている「外国人」でもある。その両方の視点があるからこそ、日々の小さな出来事に感動したり、当たり前の風景の中に特別さを見つけたりできるのだと気づいたのです。

違和感や戸惑いが完全に消えることはないかもしれない。でも、それを「居場所のなさ」ではなく、「新しい自分との出会いのチャンス」だと捉えることで、私は少しずつ、自分らしくここに存在できるようになってきた気がします。

“旅するように暮らす”という選択

スイスハイキング
スイスに移住してから、私は「旅して暮らしたい」というかつての願いを、少しずつ実現しているのかもしれません。

派手な刺激はないけれど、目の前にある風景を丁寧に味わい、小さな感動をひとつずつ拾い上げていく。そんな日常の中には、旅先では気づけなかった豊かさや深みが確かにありました。

“旅”とは、地図やガイドブックに載っている場所を巡ることだけではない。

「心が動く瞬間を積み重ねていくこと」

それこそが、私にとっての旅なのだと、今は思っています。

あなたにとっての“旅”とは、どんな瞬間ですか?

All photos by saeno

ライター

オーストラリアワーキングホリデー2年(パース/ゴールドコースト)|中央ヨーロッパロードトリップ|宮古島リゾートバイト|北半球地球一周の船旅|など気の向くままに住所不特定生活を約6年間続ける。現在はスイスフランス語圏在住。 好きなことで自分を囲み続ける人生を日々追求中☀️

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