砂漠地帯等の交易を担ってきたラクダのキャラバンは、「その大半が、20世紀の間に、車両や航空機に取って代わられた」(Wiki英語版 “Camel Train”)とされます。
しかし、エチオピア・ダナキル砂漠のアッサル湖(Karum Lake)付近では、採掘された塩板を運搬する「現役の」ラクダキャラバンを、今なお見ることができます。
けれど、ここのキャラバンはもうじき見られなくなるかもしれないのです。その理由は…
行き方
ダナキル砂漠地図(黄色メケレ、青色アサール湖、緑色エルタアレ火山)
photo by googlemaps
エリトリア国境から20kmという辺境で公共の交通手段はありません。
先日記事にしたエルタ・アレ火山と併せて、メケレ発の3泊4日ダナキル・ツアーに参加するのが一般的です。
アサール湖への拠点になる ハメド・エラ村(Hamad Ela)は藁や木の枝でできた家が数十件並ぶ小さな村です。
郊外にイスラエル企業が最近立てたというポタシウムの工場が異彩を放っています。
木枠に縄を張った質素なベッドが屋外に並べてあり、ツアー参加者は満点の星を見ながら寝ることになります。
ツアー参加のアメリカ人が「今日は5星ホテルだな」と冗談をいうと、ガイドのAkiが「いや、満点星ホテル(Million Star hotel)と言って下さい」と返します(笑)
photo by KM777
敬虔なイスラム教徒の村のため村の中でアルコールは販売されておらず、ツアー参加者のカナダ人・アメリカ人・ギリシャ人4人とともに道路を隔てた軍キャンプ内のバーに行きました。
アメリカ人のおじさんはモンゴルの銅鉱山で大儲けした大富豪でカナダ育ち、同行のカナダ人(仏語圏のケベック)は息子の家庭教師でした。
photo by KM777
共に引退して2人で旅をしているということ。そういう老後っていいですね。
2人は英語仏語ちゃんぽんで会話していました。ギリシャ人らは、毎年GDPが下がり続けているというギリシャ経済について面白おかしく話してくれました。
塩のキャラバンの仕組み
村から湖畔までは10kmぐらい。日が昇ると、ラクダとロバの群れは、一斉に湖畔に向かいます。岩塩の採掘工たちはトラックの荷台に乗り運ばれて行きます。
ラクダのキャラバン隊は、採掘工が掘り出した岩塩を、海抜マイナス100mのアサール湖から、加工工場のある標高2,000mのメケレまで、片道2週間かけて運ぶそうです。
往復で1か月。雨季の一時期を除いてほとんど休むことなく旅を繰り返すといいうこと。
湖畔の採掘現場には、たくさんのラクダ(1,000頭以上?)とロバ、そして、ラクダ引きと採掘工が働いていました。
見た目には分かりにくいですが、実は、ラクダ・オーナーと、岩塩採掘工は民族が異なります。
ラクダ・オーナーは、キリスト教徒のティグレ族でティグレ州の首都メケレ近郊からやってくるよそ者です。
一方、岩塩採掘工は地元アファール州のイスラム教徒アファール族です。
ラクダ・オーナーと採掘工はアファール語でコミュニケーションできるものの、商談等込み入った話になるとアムハラ族のアムハラ語(エチオピアの共通語)になるそうです。
アファール人の採掘工は、以下のプロセスを分業で担当していました。
1)塩の大地(湖底)に鍬を入れ割れ目を作り、2本の木の棒を突っ込んで、岩塩の層をはがす。
2)はがした岩塩を、斧の先を使って、大きなノートパソコンくらいのサイズの塩板に整える。そのあとはティグレ人ラクダオーナーの出番です。
3)整えられた板は、20-30枚まとめてラクダの背に積み込まれ、ロープで結ばれる。
4)ラクダを6-7頭ずつ連ね、隊列を組んでキャンプ地まで運搬する。海も渡るのでさながら水陸両用車です。
塩のキャラバンの経済学
photo by KM777
さて、塩板(”Tablet”)はいくらくらいでどのように取引されているのか、気になりませんか。こちらもガイドの情報ですが、以下の通りです。
1)採掘工は、一人1日当たり約200枚の塩板を採掘し、それを1枚当たり3-5ブル(1ブル=5円なので約20円)でラクダオーナーに売る。
つまり採掘工の日当は約800ブル(4000円) 。これは、国民の25%が1日1ドル以下で生活するエチオピアにおいてはかなり良い待遇と言えます。