ライター

ローカルな街並みや文化が大好きな、兵庫県出身の25歳。ベンチャー企業の法務担当として勤務する傍ら、休日は機会を見つけて地方を旅している。熱意の応援者として、ともに刺激を受け与える関係でありたい。最近は地域の魅力を伝えるツアーづくりに取り組む。秋のフルマラソンに向けても奮闘中。

旅先での楽しみのひとつに、人との出会いがある。

例えばゲストハウスで出会った旅人、現地の居酒屋で出会った常連の方、あるいは偶然立ち寄ったカフェや古書店オーナーさんなど、振り返れば旅先で、たくさんの出会いを経験してきた。

そして、その出会いは時に、訪れた場所よりも深く印象に残っており、その人に会うためにまた、その地域を訪れたいと思うことも多い。

とくに最近の出来事のなかで印象に残っているのは、福島県の浜通り地域・双葉町での出会いだ。

現地で活躍する同世代の方との出会いは、自分の生き方を考えるきっかけになったほか、これまで縁がなかった地域との距離が一気に縮まるものだった。

少し前まで接点がなかったのに、気づけばまた訪れたいと思える。それは旅のおもしろさであり、醍醐味のひとつだ。

今回はそんな素敵な「まち」や「ひと」との思い出を綴りたい。

福島県・双葉町との出会い

まちあるきの一場面。壁画アートで双葉町を盛り上げる「FUTABA Art District」のひとつ
福島県は南北に縦断する阿武隈高地・奥羽山脈によって分かれるその地域特性から、「会津」「中通り」「浜通り」の3地方から構成されている。

なかでも今回の旅先である双葉町は、浜通り地方の中でもほぼ中央に位置する、人口約5,300人の街だ(2024年12月31日現在)。

2011年の東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故の影響により全町避難を余儀なくされた双葉町。避難指示が解除されたのは2022年8月と避難指示等の対象となった12市町村の中で双葉町が最後だったという。

そんな双葉町ではいま、新たなまちづくりが始まっており、同世代のプレイヤーも活躍している。そのことを知ったのは、昨夏、Instagramの広告で流れてきたとあるプログラムっzの案内だった。

わたしをいかした小さな商い”まち商いスクール” in 福島県双葉町

プログラムのテーマは「わたしをいかした小さな商い”まち商い”」。作り手となる「個人」と「まち」のらしさを活かした、小さな商いだ。福島県双葉町で活動する同世代の「まち商い」プレイヤーとの交流を通して、自分と地域、そして今後の自身の「働く」を考えるというもの。

自分自身も今後の働き方や生き方を考えるきっかけがあったことに加え、一人で訪れることでは得られない経験を得られることも魅力に感じ、見つけたその日に参加フォームに記入した。

現地視察への参加、そして「まち商いプレイヤー」との出会い

現地視察当日、いわき駅に集合した僕たちは、バスに乗り込み双葉町へと向かう。

今回の参加者は13人。ほぼ同世代、かつ関心事も近いということもあり、あいさつもほどほどに和気あいあいとした雰囲気に。気分はさながら、大人の修学旅行のようだ。

双葉町へ到着後、町の概要説明を聞き、簡単な町歩きをした後、いよいよ地域の「まち商い」プレイヤーとの対話の時間へ。

今回のプログラムで出会った現地の「まち商い」プレイヤーは3名。まちを愛する喫茶店の店主の方、素敵な本のある場をつくる古書店の店主の方、そしてコーヒーを中心に「のみものをつくるひと」深澤さんだ。

出会った皆さんそれぞれの「まち商い」はどれも素敵で、多くの学びがあった。

コーヒーを淹れる深澤さん。慣れた手つきで美味しいコーヒーを作って頂く
本当はお一人お一人との学びを書きたいところだが、今回は、直近で個人的にもっともお世話になっている深澤さんに焦点を当てることにしたい。

深澤さんとの出会いを通して感じた「やさしさ」

深澤さんが世界一周した際の記録。使い込まれたトラベラーズノートにワクワク
深澤さんは大学時代に世界一周を経験、大学卒業後は「地域おこし協力隊」に従事。その頃にコーヒーの師匠と出会い、興味を持った深澤さんは「地域おこし協力隊」の任期満了後、友人のつながりでコーヒーのイベント出店を双葉町でするようになったという。

「コーヒーは地域を表現するもの」と語る深澤さん。そんな深澤さんは将来的に焙煎所を開くことが夢だという。

多くを語ってもらったなかでももっとも印象に残っているのは、じつはコーヒーの話ではなく深澤さんの人柄だ。

お話の節々から見えてくるのはフレンドリーで、そしてやさしいお人柄だった。

一度出会って仲良くなった方には、その後数年経った後だとしても、気軽に連絡を取ることが多いという深澤さん。つい色々な考えを巡らせてしまい、連絡が億劫になりがちな自分とは対照的な部分もあり、憧れる部分があった。もっとお話を聞きたいと思い、全体でお話頂いた後の時間で、個別でお話を伺った。

「いつでも思い出したときに連絡してきてよ!」その言葉には社交辞令感はまったくと言っていいほど感じられなかった。

「のみものをつくるひと」という肩書きで活動している深澤さんはコーヒーだけではなく、ノンアルコールカクテルづくりにも挑戦している。

話を聞いているとそのノンアルコールカクテルを飲んでみたくなったが、その日は準備していなかったとのこと。残念だと肩が落ちていたのか、深澤さんがひとこと「よし、今夜みんなの宿泊先まで持っていくよ!」。

……え、本当にいいんですか!?となったプログラム参加者たち。

翌日の早朝からの予定も、車で片道約30分もかかる道のりも顧みず「修学旅行の夜みたいでみんなと話すの絶対に楽しいよ!」と話してくれる深澤さん。

深澤さんのその人柄は、またこの人に会いたい、もっと話してみたいと思わせる魅力があった。

「気軽に声かけて!」に後押しされ、現地視察後も続く関係性へ

現地視察終了後、イベントのために東京に来るので一緒に周らないかと連絡をくれた深澤さん。「行きたいです!」と手を挙げられたのは、フレンドリーな人柄をもつ深澤さんだからこそだと思う。

東京ビッグサイトで行われたアジア最大級のスペシャルティコーヒーイベント・SCAJ2024
偶然にも現地視察2日目にお会いした喫茶店の店主の方も来られるとのことで、現地で合流し、一緒にイベントを巡った。

また別日には、双葉町で長く続く伝統行事「ダルマ市」に参加者のみんなと出店し、自らも「まち商い」を小さく実践してみるという機会があった。

この「ダルマ市」にも偶然、深澤さんが出店していた。前回会ってから少し時間が経っていたこともあり、多少躊躇する自分もいたが、「気軽に声かけて!」という深澤さんの言葉を思い出し、ほんの少しの勇気をもって話しかけることができた。

ダルマ市当日の一場面。地域で長年続くお祭りで、多くの方で賑わっていた
コーヒーを淹れてもらう間にお互いの近況を話すことになり、話題は徐々に自分自身の「まち商い」の話になった。

初めて小冊子「ZINE」を作ったことを話すと、深澤さんは「めっちゃいいね!読みたい!」と言ってくれるだけでなく、販売価格以上の価格で「応援代」として購入してくれた。

深澤さんのおかげで緊張がほぐれた気がして、その後は自信をもってお店に立つことができた。

深澤さんの焙煎所でコーヒーが飲めるのも楽しみだ
そんな現地視察後も関係が続いている深澤さんが、ついに双葉町に夢だった焙煎所をオープンさせるという。オープンに向けてクラウドファンディングも実施している深澤さんのプロジェクトは既に300人以上の支援者がいた。

「この場所を旅先に。福島県双葉町に地域と日常に開かれた焙煎所をつくりたい。」

そんな思いを少しでも応援したいと思い、彼のクラファンを支援した。

また訪れたくなる街へ

福島県・双葉町を訪れて半年。まだ3度しか訪れていないが、少しずつ心の距離が近づいている気がしている。

その理由は、深澤さんをはじめとする双葉町で出会った方々の人柄に惹かれ、また会いに来たいと思えるからだろう。

「最近こんなことしていて」と世間話をするのも楽しいし、もし今後、「何か一緒に面白いことができるかも?」となれば、さらに面白いかもしれない。

深澤さんの焙煎所の開業時期は2月末。どんな光景が広がっているのだろう。

次は桜が咲くころに、再び皆さんに会いに、双葉町を訪れる予定だ。

All photos by Nakashin

ライター

ローカルな街並みや文化が大好きな、兵庫県出身の25歳。ベンチャー企業の法務担当として勤務する傍ら、休日は機会を見つけて地方を旅している。熱意の応援者として、ともに刺激を受け与える関係でありたい。最近は地域の魅力を伝えるツアーづくりに取り組む。秋のフルマラソンに向けても奮闘中。

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