ライター

旅と写真が生きがい。偶然の出会いや風景の中にある小さな物語を見つけて、感じたままに伝えています。

高校生の頃、どこか知らない国の荒れた大地の上をどこまでも続くような線路が走っていた。

そこにバックパックひとつを背負って歩く男の後ろ姿があった。

砂で少しくすんだバックパックは彼の旅を物語るようだった。

僕はその男の後ろ姿に憧れた。

その光景を僕が目の前にしたのは、田舎の小さな書店だった。手に収まるほどの一冊の本の表紙にどこで撮影されたかもわからない、その人のその写真は掲載されていた。

僕はそこから旅を夢見るようになっていった。

数年経ち、ずっと想像していたかっこいい旅人になるため、現代の旅をすることが簡単になった世界で、僕が常に持ち歩くものがある。

それがノートとペン。

これは現代の旅人と過去の旅人をつなぐ1つの変わらないものになると僕は信じている。

旅先の探し方は変わってしまった。

出会い方も、宿の探し方も、記録の付け方も、かつて僕の憧れた旅人達とは何もかもが違ってしまっている。

ただ、ノートにペンを使って記録する。それをすることで過去の旅人達と共通点を持つことができるのではないか。

だから、僕はノートとペンを旅には必ず持っていくことにしている。

旅先で記録を書く楽しみ


旅に出ると、必ずノートに記録をつけるようにしている。

記録といってもほぼ日記。

僕のイメージでは、カッコよく絵なんかを描いちゃったりして、その端に旅でしか出会えないロマンチックな旅の様子を記録している。

でも、現実にはそんなことは全くなく、理想と現実は違いすぎて、僕のノートは字ばっかりで真っ黒く染まっている。

気がついて冷静になって見てみるときったない字で、びっしりと書かれたこの記録を誰が後から見返そうと思うのだろうと1人心の中で苦笑する。

それでも、何度だって繰り返す。

ベッドに寝そべりながら、おしゃれなカフェで、インドのあっつい砂漠の町でも、汗を垂らしながらでも、鼻水を垂らしながらでも。

時に書くことを忘れることもあるけど、必ず持ち歩き、気が向いた時に僕の歩いてきた旅路を記録している。どんなに汚く書かれたデザイン性のない文章でも、数年経って読み返してみるとなんだか懐かしさを感じる。

旅を始めた頃は綺麗だったノートも時間が経つと色褪せて、それなりの旅人の道具に見えてくる。それが僕の憧れた旅人の持ち物のようで、すごくかっこいいと感じている。

これはきっとスマホのノートを使って書いていると感じられない感覚なのかもしれないと思った。

旅人版ドン・キホーテ


『ドン・キホーテ』ミゲル・デ・セルバンテス著を読んだことがあるだろうか。

主人公が騎士道物語の影響で自分は偉大な騎士だと思い込み、妄想での自分のあり方を実際にそうであるかのように振る舞い生きていく姿が、この小説では描かれていた。

僕の旅も似たようなところがあるかもしれない。

旅人とはこういうものだと頭の中に持っていて、旅先にいると旅人っぽいことをそれっぽくしてしまう。

その一つがノートとペンを持ちながら異国で感じたことをメモすること。

僕の中で旅人は異国の情景や人々の様子をノートにカッコよくメモしている。

デリーのスパイスマーケットで麻袋を担いで行き交う人の波の中でも、イスタンブールの船の上でも、オーストラリアの静かな黄昏時の、日が暮れる砂浜でも、僕の中の旅人は静かに何かを記録している。

それは哲学的な気づきかもしれない。

後で小説に変わってしまう大層な文章かもしれない。僕もいつもそんな気分で立ち止まりメモをとった。

でも、僕は気づいている。

僕がドン・キホーテと違うのは僕は妄想の世界にどっぷりと浸れていないということだ。

書いた後にノートを見るとこんなことがよくある。例えばこんな感じで。

「スパイスの匂い、鼻が痛い」
「船に乗ったはいいけど、この船どこに向かっているんだろう」
「寂しい」
「ラクダに乗ると腹筋が鍛えられる」

頭の中ではいつもカッコよく何かを書いている自分の姿が遠目から見えているのだけど、近づいてノートを見てみると、かなりしょうもないことを書いていることが多い。

だから、真っ黒にびっしりと書かれた僕のノートを数年経って読み返すとクスっと笑ってしまうことがよくある。

全然カッコよくないじゃん。

これが僕が昔の僕に抱く感想だが、それでも、書いていて良かったなと強く思う。SNSに投稿する写真や文章でも、もちろん記録としては残るし、その方が長く残るかもしれない。

でもね、物質としてのものは風化し、色褪せて、そこにしかないものに変わっていく。

僕はそういうものが好きだ。

旅に持っていきたいと思う存在


旅に持っていきたい、一緒に連れていきたいと思う存在って誰にでも何かしらあるんじゃないかな?と僕は思う。

本やカメラ、推しグッズかもしれないし、恋人や家族と一緒に旅がしたいと思う人がいるかもしれない。

旅って引っ越しとかと違って全てを持ち歩くことはできないから、必然的に自分に必要なものが厳選されていく。

それでも、どうしても自分が必要だと感じるものが自分の近くに残るのだと思う。

今回僕が話した旅に行く時に絶対持ち歩きたいものはノートとペンだったけど、実はカメラだって持ち歩く。

そういう存在はひとつだけじゃなくていいと僕は思う。

好きなもの、好きな人、そんな自分の大切な何かと共に過ごす旅の時間はやっぱり最高だなと僕はいつも感じている。

次の旅はどんな旅になるだろう。

本のページをめくるように心が躍る旅にしよう。

All photos by KAKERU YAMASHIRO

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