伝統産業を残すべく里山再生に挑むデザイナー 〜島根県・温泉津町|小林新也さん〜
キャリアと人生 ・2022年8月16日(2022年11月17日 更新)
これからの里山構想とは
photo by Yuki Higuchi
里山ってなかなかイメージが湧かないのですが、どんな未来を描いているんですか?
里山というと古めかしいイメージかもしれませんが、そうではなくテクノロジーも活用しながら、アップデートした里山を目指しています。僕の中では未来の生き方は二極化が進んでいくイメージを持っています。
ひとつはSFの世界で描かれるバーチャル的な世界。もう一方は、テクノロジーを活用することによって自然と人の距離が近づいていく未来です。農業の機械化と聞くと、トラクターが効率的に大規模農園を自動で耕すイメージですが、それを実現するためにダイナミックに自然が破壊されていたりします。でも、そうじゃなくて肉体労働をアシストするパワーロボットスーツとかが人力を補助して、自然と適切に関わる。自然を保護しつつ、AIテクノロジーによって作り過ぎない適量生産を予測して作業に活かしている、みたいなテクノロジーの活かし方が理想だなと思ったりしています。
自然な生き方を志向する
photo by Yuki Higuchi
他にも人の関係性においても、集落のような近所の多世代で協力して生きていく方が自然。里山ではそんな関係が実現できたら良いなと思っています。集落の再構築とも捉えられるかもしれません。
経済成長しすぎて、都市部に住む人たちは「ひとりで生きている」と錯覚しがちですが、自然の中で暮らしてみると、決してそうじゃないことを痛感します。自然や周囲の人に生かされているんだと気付かされますし、自然のありがたさを感じます。今はつくっている田んぼに水が溜まらなくて、悪戦苦闘していますが(笑)。水が有限だということに気付くと大切に使おうと自然と思いますよね。
それは大変ですね……自然の中で暮らすとなると、都会での生き方とはまるで違いそうです。
そうですね。今の時代の人はみんな急ぎ過ぎてるように思います。
経済主義の時間軸でものごとを考えると、1年のサイクルで結果がああだこうだといって、短期的なものさしで考えてしまいます。でも、5年10年、100年のスパンを考えることもすごく大事です。急ぎすぎる人は自分に負ける。すぐに見切りをつけて「結果が出なかった」と言って、やってることが続かない。もっと長いスパンで考えることが大切なのだと自然を活かそうとするとよくわかります。
ゆっくり味わうことで得られるもの
photo by Yuki Higuchi
自然の中での暮らしについてお話いただきましたが、これから里山に関わってみたいという方や風の人に対して、伝えたいことはありますか?
かつて、自分も風の人でした。もちろん風の人も大事な役割があると思います。でも、地域で活動をしてみると、物理的な作業が必ず発生するし、そこに人手が必要なんです。十数年前はデザインで地場産業の一助になれると思っていましたが、いざ、アイデアを出しデザイン提案してもそれを実行できる人がいない。
リモートでできる仕事が増えたからと言って、物理的な作業は発生しますもんね。
実際に来てみないと分からないことがあるし、やってみないと分からないことがある。だから、里山に関わりたいと思ってもらえるのであれば、ゆっくり時間をとって来てもらえたら嬉しいです。
温泉津で感じるロングライフデザイン
photo by Yuki Higuchi
インタビューを終えて、実際に開拓している里山へお邪魔させてもらいました。15万㎡もある敷地は、まだ手付かずのエリアも多く、いかようにもできる余白が残されています。
そんな可能性が溢れた里山というキャンバスを前に、できることをコツコツと積み重ねていく姿が無骨でカッコよく映りました。
photo by Yuki Higuchi
また、帰り道の道中、いろんな選択肢がある中でどんな判断軸を持っているのか尋ねたところ「なるようになるし、自然に身を委ねているかも。自然な方を選んでるね。」という答えがとても印象的。
自然な方に身を委ねる。自然の力を知っているからこそ出てくる言葉だなと思いましたし、実感しないと分からないものが確かにある。だから、旅って良いもんだと改めて認識しました。
里山づくりに関わりたい人を募集しているので、興味がある方はFacebookから小林さんにコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか?きっと新しい生き方に触れられるはずです!