氷点下20℃を下回ることも少なくない、静寂に満ちた世界が広がる厳冬期。
皆さんはそんな世界を訪れたことがありますか?
photo by Yuki Higuchi
今回、僕が訪れたのは冬の北海道。北海道の約半分を占める広大なエリア、ひがし北海道。そのなかでも、いまなお貴重な原生自然が残る釧路湿原国立公園にて、特別な2泊3日のプログラムを体験してきました。
「北海道は好きだけど、札幌や小樽までしか行ったことがない」
「冬の北海道って雪が怖くて。運転とか大変そう」
「気になってるけど、どうやって行けばいいのかわからない」
そんな方々のすべての問いに答えるべく、冬の北海道を訪れることができるプログラムに僕が一足先に体験してきたので、その魅力を余すところなくお伝えします。
見出し
釧路湿原の大自然を存分に満喫することができるクラフトホステル「THE GEEK」
今回のプログラムの拠点となる場所、「Kushiro Marshland Hostel THE GEEK(以下、THE GEEK)」は釧路駅から気車(ディーゼルカー)に揺られること30分。釧路湿原を眺めることができる場所に位置するクラフトホステル&サウナです。
施設の1階には、机を囲んでゲスト同士がゆったりと交流できるようにと設計された共有スペースや、真っ白に染められた釧路湿原を見渡すことができるスペースなどがあり、誰もが思い思いに楽しんでもらいたいというオーナーさんのこだわりを感じます。
photo by Yuki Higuchi
「働くメンバーの顔や思想が見える場所にしたい」という考えのもと、施設内にある本棚や提供されるコーヒーの1杯にまで働く人たちの想いが詰まった空間は、唯一無二の場所になっています。
氷結した塘路湖の上でのワカサギ釣り体験
北海道釧路市と標茶町(しべちゃちょう)にまたがる場所に位置する塘路湖(とうろこ)。全面凍結した塘路湖の氷上でワカサギ釣りを体験できるのは厳冬期ならでは。
「凍結した湖の上」という単語がなんとも緊張感が漂う気配を感じさせます。
photo by Yuki Higuchi
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。厚さ40センチの氷に覆われた湖の上を、割れやしないかとゆっくりと踏みしめながら歩みを進めます。
バンッ。
誰か雪玉でも投げたのかな?という音に対して「氷が割れた音ですね」と言いながら歩みを進めるガイドさん。
「氷が割れた音」という聞き馴染みのない言葉が僕の心を急激に不安へと沈ませます。厳冬期の北海道でしか味わえない気持ちとはわかっていても、今すぐ陸に戻りたいです。怖いです。
ガイドさんいわく、氷結した湖は一般的に氷の厚さが10cm以上あれば安全に歩くことができるそう。今回訪れた塘路湖は過去に60cmもの厚さになったこともあるらしく、それを聞いて少し安心しました。
photo by Yuki Higuchi
湖の奥には山々が見え、雪の笠を被り忘れた木々たちの姿。自分の耳が、氷上を踏みしめる足が、目の前に広がる真っ白な世界が、異世界に紛れ込んだかのように感じさせてくれます。
photo by Yuki Higuchi
開始から30分もすればワカサギ釣りの感覚を習得。
直径15センチ程度の穴から釣れるワカサギが、自分が湖の上にいるという事実をたしかに僕の元へと届けてくれます。この下には厚さ40センチの氷があって、その下には湖が広がっていて……考えてしまうと指が震えて釣りに影響するので思考を放棄します。
釧路湿原が目の前に広がるサウナ
ワカサギ釣りで冷えきった体を心から温めるべく、宿へと戻ります。
サウナブームの先駆けとなった「THE SAUNA」の野田クラクションベベーさんプロデュースのもと、随所にこだわったTHE GEEKのサウナを体験します。
photo by Naoya Shimizu
サウナに入ると血管が膨張をはじめ、焼き切れそうになる感覚を喉の奥で感じます。しっかりと熱を楽しんだら、次は氷点下近い水温の水風呂へとゆっくりと身体を沈めていく。ここの水風呂は日本一、世界でも2番目の透明度を誇る摩周湖(ましゅうこ)の伏流水を使用しているのだとか。
澄み切った空気を肺いっぱいに吸い込む外気浴で、自分自身と深く繋がる瞬間を感じます。
photo by Naoya Shimizu
冬の北海道でしか味わえない、寒暖差100度以上のサウナ。ここは、”SLサウナ”の異名を持つ、唯一無二の空間としても知られているのだとか。
道内唯一の蒸気機関車・SL冬の湿原号と釧路湿原を眺めながら体験する極上の“ととのい”。まるでSLの車窓から移りゆく景色を楽しむように、時間がゆっくりと流れていきます。
さらに、このサウナには 鉄道に由来するこだわりが随所に詰まっています。コンテナは岡山県から鉄道輸送され、ドアノブには 実際の鉄道のブレーキハンドルを使用。焚き付け時に煙突から立ち昇る白い煙は、まさにSLの蒸気のようです。ストーブは、SLの火室を彷彿とさせるデザインで、まるで機関車の動力源のように空間全体を熱で包み込みます。
サウナの間取りは、SLの車窓からの景色を楽しむように設計され、スリッドに立つ枕木には、実際に線路で使用されるB級品を採用。細部にまでこだわり抜いた空間で、鉄道のロマンを感じながら贅沢なひとときを過ごせます。
そして、 国内でSLと国立公園を同時に眺めながら入れるサウナは、日本でここだけ。この冬、特別な体験が、あなたのサウナライフにランクインすること間違いありません。
白銀の世界を漕ぐ早朝カヌー
北海道東部にある屈斜路湖(くっしゃろこ)を源流とする150キロ以上にも及ぶ一級河川・釧路川とその支流を抱く日本最大の湿原及び周囲を取り囲む丘陵地からなる釧路湿原東部エリア。そんな土地で、早朝からカヌーに乗れるのも今回のプログラムの目玉です。
日が昇って間もない白銀の世界を、重厚感のある木製のオールを使って小型のカヌーで進んでいく。通常、一般向けには行われていない早朝カヌーを、このプログラムでは特別に体験させていただくことができます。
photo by Yuki Higuchi
準備を終え、風に揺れるカヌーに恐る恐る乗り込みます。想像していたよりもずっと安定していることに少し安堵しながら腰を下ろすと、インストラクターさんの操縦でカヌーが静かに動き出しました。
一応オールを渡されたものの、ほとんど湖から川へと流れていけるので、ゆっくりと周囲の景色を眺めていられます。
photo by Yuki Higuchi
静かな水面を滑るように進むカヌーからは、釧路湿原の雄大な景色が広がり、川辺には冬枯れの木々が絵画のように立ち並びます。
耳を澄ませば、風と水のささやきが聞こえ、まるで自然が語りかけてくるような時間が流れていました。
photo by Yuki Higuchi
馬と触れ合うホースリトリート
見渡す限り続く湿原の地平線が、ゆっくり空と一つに溶け込んでいって、その間を流れる川は静かに大地を刻みながら、遥か遠くの海へと向かう。
北海道といえば広大な自然をイメージする方も多いのではないでしょうか。そんな北海道ならではの大自然を感じながら馬と触れ合うことのできるホースリトリートについてご紹介します。
photo by Yuki Higuchi
15万坪、およそ東京ドーム10個分の広さを誇る「Heart Ranch(ハートランチ)」。ここでは、そんな高台牧草地の雪化粧された風景をバックに馬と触れ合うことのできるホースリトリートを体験できます。
阿歴内(アレキナイ)は、アイヌ語で「来る川」を意味する地名を持ち、かつては交通の要所として人々が行き交った場所だったとか。標茶町は古くから馬産地として知られ、明治時代には軍馬補充群として栄え、現在もその文化が色濃く残っています。
そんな歴史の延長線上にいる馬たちは、かつての交通手段ではなく、新たな観光アセットへと姿を変え、現代ならではのリトリート体験を提供する存在となりました。
この世の色がすべて奪われたかのような真っ白な草原の中、馬の鼓動を全身で感じながら風を切る。
誰もが一度は憧れる、まるで映画やドラマのワンシーンが、目の前で現実になるのではないか。そんな期待に心が躍ります。
photo by Yuki Higuchi
「乗馬はちょっと怖い、でも馬と触れ合いたい」
「この雄大な自然の中でもっとゆっくりしていたい」
そういったご要望にお答えすべく、気軽に馬たちと触れ合うことのできるプランや、高台牧草地に面した林の中に、溶け込むように置かれた特別なトレーラーハウスにて一夜を過ごすことできるプランなどもあるとのこと。
自然と馬との時間を過ごすことで、少し変わったリトリートを、あなたも過ごしてみてはいかがですか?
氷結湖上のナイトウォーク
人工の光も音も届くことのない完全氷結した湖の上で、プログラムの最終夜を締め括りました。
足元には星明かりが淡く反射し、吐き出した白い息が、冷たく澄んだ空間にふわりと浮かんでは、ゆっくりと消えていく。静けさがまるで空気そのものに染み渡っているようで、自分の呼吸と同化するようにして耳に届く感覚を覚える。
そんな氷結湖上にて、過ごした夜のことも少しだけご紹介させてください。
photo by Naoya Shimizu
ぎゅっ、ぎゅっ。
すっかり聴き慣れてしまった足音だけが自分の耳に届く。初日には感じませんでしたが、思ったよりも雪の音は確かで、足を踏み締めるたび、湖の上にしっかりと立っていることを教えてくれます。
photo by Naoya Shimizu
踏みしめてきた道を辿るようにして歩き出していると、「こんなに遠くまできていたのか」という気持ちになりました。
まさか、生きているうちに凍った湖の上を歩くとは思っていなかったですが、過ごしてみて以前よりもちゃんと自分の足音が耳に聞こえてくるようになりました。
大丈夫、足元はしっかりしている。
吐き出した白い息は、ふわりと空気に溶け込み、あっという間に消えていった。
さいごに
正直、2泊3日では足りないほど。はじめての冬の北海道だったのですが、ぜひこの記事を読んでくださっている皆様にも訪れてみてほしい場所になりました。
真っ白な雪が一面に降り注がれた景色の中を、大切な人と過ごす、そんなプレミアムなプログラムをぜひ釧路で体験してみてください。
THE GEEKを中心に巡る2泊3日の本プログラムには冬の魅力がぎっしり詰まっていて、氷点下の世界を満喫できること間違いなしです。
この先の旅路も、お気をつけて。