年越しの瞬間、どこにいるかで新しい一年の始まりが変わる。
だからこそ、計16日間という長い旅程の中で1番始めに決まったのが、年越しをどこで過ごすかだった。
2024年の大晦日、私は仲間とアイスランドへ飛んだ。たどり着いたのは、極寒の中、360度の花火が炸裂するレイキャビク。
この旅を通じて、日本とはまるで違う「祝う文化」に触れ、私の年越し観が変わった。
見出し
綺麗で危険な、アイスランドの年越し文化
Photo by Mari Takeda
日本では、静かに一年を振り返り、新年を迎える。でもアイスランドでは違う。
360度どこを見渡しても花火だらけで、火の粉が飛んでくるほどの至近距離であげまくる。
ネットでアイスランドの年越しの様子をみた私たちは、「ここでなら日本で経験できない新年を迎えられる!」と思い、満場一致でレイキャビクで年越しすることに決めた。
大量の花火に囲まれて新年のお祝いをする街は、どんな雰囲気で、どれだけの人たちが集まるのだろう?と思うと、想像するだけで楽しみになった。
年越しまであと6時間。お店探しに大苦戦。
2024年12月31日。
昼過ぎごろにはアイスランド一周を完遂し、レイキャビク市内に戻ってきていた私たちは、年越しに向けて腹ごしらえができるお店を探していた。
冬場の日照時間が極端に短いアイスランドでは、17時の時点ですっかり日が暮れており、凍てつくような寒さによって私たちの体力はみるみる削られていた。
当初の私たちは、首都レイキャビクは人口が少なく住宅街も近い街だからと、空いているお店の2軒や3軒はすぐに見つかるだろうとたかを括っていた。
しかしその考えは甘かった。
Photo by Mari Takeda
レイキャビくのメインストリートは、2キロくらい続く1本の道だけ。
せっかくのアイスランド最終日、伝統料理やアイスランド産の食材を使ったレストランに行きたいね、と話していた。しかし予約なしで入れるわけもなく、3軒ほどに断られた。
このままでは、何も食べるものもなく、年越しまでの6時間をこの寒い気温の中過ごすことになる。それだけは何がなんでも避けなければ。
そんな危機感に近い感情に突き動かされ、片っ端から空席があるか尋ねて回った。
やっとありつけたご飯! Photo by Ryuki Tokai
幸い、本気で探し始めてから数十分後に全員で入れるお店を発見。
ハンバーガー専門のアメリカンダイナーだったけれど、温かい店内に大満足。そこで数時間はゆっくりさせてもらった。
今思えば、お店を予約しておけばよかったのかもしれないけど、行き当たりばったりで結局なんとかなるのが旅ならではだなとも思う。
予想できない不確定な状態だからこそ、みんなで妥協点を探してその時々の最善策を見つけようとする。
2024年最後の日に、またひとつ思い出ができた。
フライングしまくりなアイスランド人
年越しまであと2時間。
レストランを後にして、レイキャビク中の人が集まる大きな教会前の広場に向かった。
すでに多くの人が集まり始めていて、家族や友人や親戚たちらしき団体が早くも新年を祝って乾杯をしていた。
Photo by Mari Takeda
「あ、オーロラじゃない?」
友達の1人が呟いた。
うっすら緑がかっていた帯が、徐々に濃くなり、大蛇のように空を這っていた。
太くなったかと思えば細くなって、離れてはまた繋がって……を気まぐれに繰り返した。
私は、瞬きをする間に次から次へと形を変えて自由に動くオーロラを見逃さないよう、必死に空を見つめていた。
そんなうちに、「ドーン」と大きな音を立てて数メートル先から花火が上がった。
まだ日付は変わっていないというのに待ちきれずに花火を上げてしまうラフさに思わず笑いが込み上げた。自然と共に生きるアイスランド人っぽさを醸し出しているなと思った。
島を1周してみて気づいたことなのだが、アイスランドの街は想像以上にこじんまりとしていて閉鎖的な社会に見えた。「国のルール」とか「世界の常識」なんかより、「近所のしきたり」とか「地域のみんなで決めたこと」の方が、よっぽどアイスランドの人たちにとっては現実的で重要なこととして位置付けられているのではないかと感じた。
だからこそ、花火を年越しの瞬間である0時00分にあげるということよりも、その場の盛り上がりとか雰囲気の方がよっぽど大事にされているんだと思う。
今年もみんなで最高の一年にしようぜ!って言われた気がした360度で打ち上がる花火
Photo by Yuki Akutsu
「3・2・1・HAPPY NEW YEAR!!!」
年越しの瞬間、広場にいたみんなでカウントダウンをして、新年のお祝い言い合う。
それと同時に声をかき消すくらいの爆音で、今日一番の量の花火が四方八方から打ち上げられた。
頭上を超えて、もはや背中側に上がっているのでは?と思うほどの至近距離だ。たまに破片が降ってきて顔に当たるなど、想像以上に危ない。
広場では、花火の下で各々が近くの人と新年をお祝いしてハグをしたり、お酒を飲んだりして盛り上がっているのが見えた。
私自身も、1週間のロードトリップを無事に終えられたことへの達成感と、こんな異国の地で一緒に新年を迎えてくれた友達への感謝で胸がいっぱいになった。
目を合わせられる距離にいる人たちと全力で祝って、全力で年を重ねることを喜んで。大自然と共に生きているアイスランド人たちから、見える範囲ので起きていることを大事にする精神を学んだ。
夜中の3時。バーでお祝いは続く。
Photo by Ryuki Tokai
アイスランド式の年越しを体験し、驚きと感動の連続で体はヘトヘト。
しかし、バスの始発までどこかで時間を潰さなければならなかった。もはやこんな時間に空いているのはクラブと化したBarしかないので、兎にも角にも入れそうな室内を探す。
運よく入れてもらったメインストリートの中心にあるバーは、ほぼほぼ満員。
だいぶ酔っ払っているDJが、曲のつなぎ目なんか気にせずに自分の好きなプレイリストを流している姿が印象的だった。
店内を見渡していると、目があったおじさんのTシャツに日本語が書かれていた。これはいける!と思い、話しかけてみると次から次へと日本好きの人が集まって、気がついた時にはみんなで踊る流れに……!
「HAPPY NEW YEAR」を合言葉に、ここまで人と繋がれることってあるのかと、みんなでお祝いし合う文化に心が温かくなった。
Photo by Yuki Akutsu
「新しい年をどう迎えるか?」は、その一年の生き方を決めるのかもしれない。
日本の年越しは、静かに過去を振り返る。アイスランドの年越しは、未来へ向かって爆発するようなエネルギーに満ちている。
どちらが良いとか優劣はないけれど、誰とどこで過ごすかはその次の年のことも考えて、ちゃんと決めたいと思った。
「来年は海外で年越ししてみたい。」
もしそう思ったら、迷わず飛び出してほしい。新年を迎えるたびに、この旅を思い出すはずだから。