この地球に恐竜が存在した時代。それは大陸がまだひとつだった、はるか昔に存在した古代の海「テチス海」。今は失われたその海は、中央アジアの一部にその痕跡をとどめています。
今回は、そんな悠久ロマンを感じさせる地球の歴史が刻まれたカザフスタンの秘境・ウスチュルト台地をご紹介します。
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失われた古代の海「テチス海」とは
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かつて地球上に存在した、ひとつだけの超大陸・パンゲア。そのパンゲア大陸が分裂をはじめたのが約2億年前、恐竜たちが生息していた大陸は北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸に切り離され、そのふたつの大陸の間に誕生したのがテチス海(古地中海)です。
テチス海の広さは、現在の地中海周辺から東は中央アジア、ヒマラヤ、東南アジアまで、西はカリブ海にまで至っていたと考えられています。
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ゴンドワナ大陸のさらなる分裂で切り離されたアフリカ大陸とインド大陸。北上するインド大陸がローラシア大陸(ユーラシア大陸)に接近するにつれテチス海は縮小し、やがてインド大陸の衝突によってヒマラヤ山脈が形成、次いでアフリカ大陸もユーラシア大陸に接近したことで、事実上、テチス海は消滅しました。
現在、中央アジアやヨーロッパに存在するカスピ海や黒海、アラル海はテチス海の名残であり、それらの間に横たわる大地もまた、地殻変動によって隆起したテチス海の痕跡と考えられています。それが「ウスチュルト台地(Ustyurt Plateau)」です。
ウスチュルト台地とは
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カスピ海に面したカザフスタン西部マンギスタウ州、アラル海に面したウズベキスタン西部、トルクメニスタン北西部の3カ国にまたがる荒涼とした白亜の大地「ウスチュルト台地」。
古代テチス海が存在した時代、遠浅の海と温暖な気候の影響で繁茂した植物プランクトンにより大量の死骸が海底に堆積。やがて貝や珊瑚などの死骸も加わって石灰化した地層が、約5000万年前に起こった海底隆起で地上に露出、カスピ海の海進海退や風雨の浸食も手伝って、現在のウスチュルト台地が形成されたと考えられています。
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20万平方kmにもおよぶ広大なウスチュルト台地。かつて恐竜が生きていた大地に自分が降り立ったと想像するだけでも夢やロマンがあふれますが、それ以上に、この世のものとは思えない絶景に心揺さぶられます。
上記画像はウスチュルト台地のハイライトのひとつ、「ボスジラ」。カザフ語で「灰色の峡谷」を意味するこの地には、塔のようにそびえたつ高さ200m以上もの断崖がいくつも点在し、知る人ぞ知るロッククライミングの聖地となっています。
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ウスチュルト台地は、長い年月をかけて大地に刻まれた地球の記憶そのもの。その偉大な姿にただただ圧倒されます。
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足元には、かつてここが海の底だったことを証明するサメの歯の化石や貝の化石が普通に転がっています。また、岩を割ればアンモナイトが出ることも。考古学ファンや化石好きにはたまらない、天然の博物館なのです。
中央アジアの“ウユニ”「トゥズバイル塩湖」
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ウスチュルト台地に広がる広大な塩原「トゥズバイル塩湖」。広さ約60平方kmの湖は高さ約100m、幅10kmにおよぶ白亜の断崖に囲まれ、降雨があった後には、南米ウユニと同じく美しいリフレクションが楽しめます。
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干上がった湖を歩いていると、時折、ミイラ化した小型の野生動物やおびただしい数のバッタの死骸などにも遭遇することも。
また余談ですが、トゥズバイル塩湖の岩塩はミネラル豊富で非常にまろやか、ほんのり甘みもあり、上品で上質な塩といった感じでした。
ふしぎな球体岩「ラウンドロック」
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ウスチュルト台地には、およそ1km四方のエリアに球体型の岩がゴロゴロ転がった実にミステリーなスポットがあります。
通称「ラウンドロック」と呼ばれるその岩は、大きなもので人の背丈を超える2~3mのものもあり、球体型のもの、楕円形のもの、あるいは成長し過ぎて割れていたり、亀や動物の形にも似たさまざまな岩が転がっています。
それらの岩は、かつてここが海の底だった頃、アンモナイトや貝の死骸などを核として海水中のカルシウムと結合、真珠の如く大きく成長し、やがて地殻変動により地上に露出、風雨にさらされ現在の形になったと考えられています。
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そうしたわけで、ラウンドロックの岩を割るとアンモナイトや貝殻の化石がよく埋まっています。
普段、博物館などでガラスケース越しにお目にかかる貴重な古代の化石がいともたやすく手に入るこの状況、この地ならではの唯一無二の宝探しの体験です。
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なかにはこんなユニークなかたちの岩も。
余談ですが、長らく謎とされていたこの球体型岩石の形成過程について、近年、名古屋大学の研究グループにより世界初「球状コンクリ―ション」として解明されたそうです。同じ日本人として誇らしいですね。
地球の歴史が刻まれた大地の芸術
ここからは、ウスチュルト台地を代表する風景を紹介します。
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チョークの主原料である真っ白な石灰石と、鉄分を含んだ茶色の層がミルフィーユ状に折り重なった断崖。さながらグランドキャニオンのホワイト版といった感じです。
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まるで別の惑星に迷い込んだかのようなこの風景。塔や要塞、帽子のようなかたちをした岩山がいくつもそびえ立っています。
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まるでストロベリーケーキのような、白や赤、茶色などの地層が折り重なったボクティの岩山。自然が生み出す芸術は人間の想像をはるかに超えます。
ウズベキスタン側のウスチュルト台地
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最後にウズベキスタン側のウスチュルト台地もご紹介。
ウズベキスタン西部に存在するウスチュルト台地は、主に「チンク」と呼ばれる急峻な断崖が大地を切り裂くように北から南へ延びています。ウスチュルト台地の特徴を表すミルフィーユ状の白亜の断崖や奇岩群は存在しますが、カザフスタン側に比べ規模は小さく、見ごたえはやや劣ります。
また、トルクメニスタン側はさらに規模が小さく、観光客が訪れることはほとんどないそうです。
未知なる世界へ、好奇心を満たす旅へ
唐突ですが、最近筆者が読んで深く感銘を受けた漫画『チ。~地球の運動について』。物語のキーとなる「タウマゼイン」という言葉は、古代ギリシャ語で知的探求のはじまりにある「驚き」や「驚異」を意味し、物語の中では「この世の美しさに痺れる肉体のこと。そしてそれに近づきたいと願う精神のこと。つまり、“?”と、感じること」と表現されています。
行動の源泉は知的好奇心です。筆者もまた、その「?」という知的好奇心に突き動かされ、はるばる秘境と言われるウスチュルト台地へ赴き、その過程も、現地で得た体験も達成感も、すべてが自分の糧となっています。“痺れるほどの感動”は人間を大きく強く成長させてくれます。
何かに「?」と感じたら、ぜひ未知なる世界を恐れず、好奇心を信じて突き進んでみてください。その一歩は、きっと新たな視界と成長を与えてくれるハズです。
・名称:ウスチュルト台地
・住所:Ustyrt Plateau, Mangystau, Kazakhstan
・地図: