ライター

28歳でひとり旅の楽しさに目覚めた30代会社員。もう昔のような無茶はできないけれど、ちょびっと冒険したいという思いで毎年ひとり旅へ出かけている。旅のモットーは「安全・清潔・ほどよく便利」。好きなものは夜景と船と電車。

スマホ、パソコン、Bluetoothイヤホンにスマートウォッチ。現代人は一体いくつ充電が必要なものを持っているのだろうか。もはや私たちは充電ケーブルでがんじがらめになっていると言っても過言ではない(たぶん)。

そんな充電ケーブルの大切さを、身をもって感じた出来事がある。去年行った、中欧・東欧3か国ひとり旅のときだ。まだ目的地に到着する前、乗り継ぎの空港に向かうところで、事件は起きた。

乗り継ぎ便の機内に致命的な忘れ物

午前6時過ぎ。ドバイ国際空港で一人、私は途方に暮れていた。

コロナウイルス感染症の流行が落ち着き、徐々に海外旅行の水際対策が緩和されてきた頃だった。まとまった休みが取れた私は、10数年ぶりのヨーロッパ旅行に出かけることにした。行き先は中欧・東欧ヨーロッパの国々、チェコ、オーストリア、ハンガリー。8泊10日の一人旅だった。

ブダペストハンガリー・ブダペストの国会議事堂。外観だけでなく内部も繊細な装飾が施されていて見入ってしまった
行きのルートは成田→ドバイ→チェコ。成田からドバイまでの機内では、あらかじめスマホにダウンロードした動画を見て過ごした。ドバイ空港に到着し、次の便の出発ターミナルへ移動した後、スマホを充電しようと思い、イスに腰掛けてバッグのなかの充電グッズをまとめた黒いポーチを探した。が、

……ない。

そんなはずはない。機内でそのポーチは前のネットにいれていた。飛行機を降りるとき、そのネットの中に手を入れて忘れ物がないか確認したのだ。

でも、ない。

現実を受け入れられず、バッグの中身をすべてひっくり返して確認すること3回。ポーチもケーブルも見つからなかった。

失ったポーチの中に入っていたのは、iPhoneのライトニングケーブル、ACアダプタ、モバイルバッテリー充電用のHDMIケーブル、有線イヤホン。

いや大事なもんほぼ全部やないかい!!!!

心臓がひやりとする。体が固まる。目は泳ぐ。

どうにか頭を働かせ、航空会社の人にポーチの忘れ物がないか聞いてみようかと思ったが、すでに飛行機を降りて30分以上経っているし、ターミナルを移動してきている。そして私は英語が満足に話せない。一人旅だから同行者はいない。スマホの電池残量は20%。

ダメだ。諦めよう……。

ここは空港。充電器なら売っているはずだと、通路を歩いて店を探した。あっさりと見つけ、ライトニングケーブルの値段をチェックすると、6000円程度だった。

6000円?

ケタをひとつ間違えたのか。あるいは通貨がドルではなく他のものなのか。何度も値札と電卓を往復して確認したが、6000円だった。

これを買ったら負けな気がする。ダメだ、諦めよう……。

こうしてここから先はスマホを一切使わず飛行機に乗り、チェコへ向かった。

電池残量20%未満でチェコへ到着。ショップを発見したものの……?

空港からホテルまでの行き方は印刷して持っていた。用意周到なのか注意力散漫なのか、自分でもよく分からない。震える心でその紙を握りしめ、バスとトラムを乗り継いでホテルへ無事到着することができた。

美しいプラハの街並みを見ている余裕などなかった
フロントで充電器を貸してもらえないかと頼んでみたが断られ、近くにあったこぢんまりとしたショッピングモールに望みを託した。中に入ると、通路の真ん中にショーケースを2列並べた、小さなスマホ関連グッズのショップがあった。「助かった」と思い価格に目をやると……

5000円。

もしかしてライトニングケーブルの世界的な相場はその程度なのかと、突拍子もない想像が頭をよぎる。

そのショップはどう見ても正規品ではないものを売っていそうな怪しげな雰囲気。ここで買うのは気が引ける。

しかしスマホが使えなくては旅を続けるのは相当難しい。特に私は「超」がつくほど方向音痴なので、地図を見ながらでないととてもではないが観光できないからすぐにでも手に入れたい。他をあたってダメならここで買おうと腹をくくり、店を出た。

電池残量20%のスマホの機内モードを解除して、近くに電器屋がないか検索すると、運よく歩いて3分くらいのところにあるらしかった。電池を消費しながら道案内に従って店に向かうと、ガラス窓の向こうに、プラスチックケースに入ったケーブルやバッテリーが壁一面にかけられているのが見えた。

「今度こそ助かった……!」

10年以上ぶりのヨーロッパ旅行。立ちはだかる言葉の壁。

命を救ってくれた電器屋さん
早速店内に入り、まずはライトニングケーブルを探そうとキョロキョロしていると、店員さんが声をかけてくれた。

「May I help you?」

後光が差しているかのようだ。

「へ、へるぷみーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

心の中でそう叫んだ。しかしヨーロッパへの旅行は10年以上ぶり。そもそも英語に慣れていない私はとっさに英語が出てこない。慌てて持っていたiPhoneを差し出してケーブルを挿す仕草をしながら、こう言葉を絞りだした。

「ちゃーじ!けーぶる!」

自分の英語力の低さを目の当たりにして消えたくなったが、店員さんには伝わった。私を売り場まで連れて行って長さの違いなどを説明してくれた。価格はどれも1000円程度。

「Thank you!!!」

心底安心して店員さんにお礼を伝えた。

しかし私が失くしたものはライトニングケーブルだけではない。モバイルバッテリーを充電する用のHDMIケーブルも買わなくてはならない。

ホッとしたのも束の間、HDMIケーブルを探してあたりをウロウロしていると、先ほどの店員さんがまた声をかけてくれた。

「他にもまだ何か探しているものがあるんですか?」

たぶん、そんなようなことを言っていた。

ここで私は再び固まってしまう。手を差し伸べてくれるのは本当にありがたいのだが、英語で話しかけられると緊張してしまうのだ。

「micro HDMI……」

そうつぶやいたが店員さんはキョトンとしている。ダメだ、伝わっていない。困った私はバッグからモバイルバッテリーを取り出してケーブルの差し込み口を指さし、数分前に言ったこの言葉をリピートした。

「ちゃーじ!けーぶる!」

私はそれしか言えないのか?恥ずかしい。情けない。誰か私を透明にしてください。

しかし店員さんは「ああ、そういうこと」と言わんばかりの表情で再び私を案内してくれた。

こうして私は生命線とも言える2本のケーブルを適正価格で手に入れることができ、ようやくここから観光をスタートさせることができた。

結果的にこの中欧周遊一人旅では本当に美しい景色にたくさん出会うことができ、大切な思い出になった。何より、ドバイ空港で感じたあの絶望と、プラハの電器屋さんで助けてくれた店員さんのことは、一生忘れないと思う。
シェーンブルン宮殿オーストリア・ウィーンのシェーンブルン宮殿。あまりの壮大さに圧倒された
ブダペストハンガリー・ブダペストの夜景。涙が出るほど美しかった

海外旅行で大事なものをなくさないための対策

この経験を通してあなたに伝えたいことは2つ。

1.大事な情報はスマホに集約せず紙も持つ
スマホの充電が切れたり盗まれたりしたときのことを考えると、すべての情報をスマホに集約するのは危険だ。携帯キャリアやカード会社の連絡先、飛行機のeチケット、長距離移動の方法などは紙で持っておくと安心できる。

2.充電グッズは派手なポーチに収納し、分散させる
この一件以来、充電グッズはオレンジのポーチとグレーのポーチの2つに分けて保管している。機内は暗いことも多いから、そんな状態でも目立つ色のポーチにした。原始的な方法だがこれだと存在感がすごいのでどうしたって目につく。そして分散することで万が一なくしたときのダメージを最小限にできる。これは現金やクレジットカードの保管にも使えるテクニックだ。

無印良品 ポーチ愛用している無印良品のポーチ。黒いバッグの中に入れても目立ってくれる

アクシデントのない楽しい旅を!

少しずつ旅慣れてきていた私は、旅にアクシデントは付きものでそれさえ面白いと思っていた。けれどこの経験を通して、起きない方がいいアクシデントもあると痛感した。笑い話にできるのはどうにか乗り切ったからであって、目に見える文字がすべてチェコ語の環境のなかでスマホが使えないかもしれないという恐怖を一人で味わう経験など、二度としたくない。

どうかあなたは私を反面教師にして、楽しい旅をしてほしい。

All photos by Misato Sakaguchi

ライター

28歳でひとり旅の楽しさに目覚めた30代会社員。もう昔のような無茶はできないけれど、ちょびっと冒険したいという思いで毎年ひとり旅へ出かけている。旅のモットーは「安全・清潔・ほどよく便利」。好きなものは夜景と船と電車。

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