ライター
Risa Hosoi 夫婦で世界一周中のマーケター

外資系IT企業のマーケター。「好きなタイプは世界中を一緒に旅できる人」と言ってたら、本当にそんな人と結婚できたラッキーパーソン。2022年9月、大好きな仕事を辞めて、夫と一緒に念願の世界一周の旅へ。「Mild Adventure(マイルドアドベンチャー)」をテーマに、素人にもできるやさしい冒険旅を発信中。

旅をしていると、自分の知らない感情に出会うことがありますよね。

帰ってきたあと、家族や友人に「どうだった?」と聞かれて、一言では答えきれずにもどかしい思いをしたことがある方は多いのではないでしょうか。

「楽しい」のは間違いないけれど、「感動」や「感激」とも少しちがう、初めて出会う事象への驚きや、自分のなかを抉られるような戸惑い、さらには、もっと大きなものに包まれたような、あたたかい気持ちになることもあります。

私にとって、「マラマなハワイ旅」は、そんな自分の知らない感情にたくさん出会わせてくれる旅の、象徴のような日々でした。この記事では、その中でもとくに心を揺さぶられた、ハワイ古来の木を植樹した時間と、そこで感じたことを綴ります。

ガンストックランチでハワイ古来の木を植える

photo by Risa Hosoi
オアフ島のノースショアにある「ガンストックランチ」での植樹体験をしたときのこと。

東京ドーム33個分の広大な敷地には、美しく手入れのされた草木と馬が生きていて。少し丘を登れば、青く澄んだ海がキラキラと反射していました。

『とても美しく、自然が豊かに見えるこの場所で、どうして「植樹」が必要なの?』

私の疑問を見透かすように、スタッフの方が笑顔でその答えを教えてくれました。

「数年前、この地域でリサーチをしたんです。88エーカー(東京ドーム7.6個分くらい)の土地のうち、ハワイ固有の木は2本しか残っていないことがわかりました」

2パーセントではなく、2本。

ゼロだったとしてもおかしくないほど、小さなその数字が衝撃的で、小さく息を呑みました。

photo by Yuki Higuchi
「ハワイ本来の自然を守るために、植樹の活動をはじめました。3年前に活動をはじめ、今は23,000 本の在来種の木が育っています」

爽やかな笑顔で、サラリと伝えてくれた内容ですが、そこに至るまでは様々な葛藤があったそうです。

「牧場として活用した方が金銭的には儲けることができるうえ、誰もやっていないことだから上手くいかないリスクもありました」

そんななか、はじめる勇気を出せたのは、「クム・フラ(フラの指導者であり、ハワイ文化の伝道師)」に背中を押してもらったからだと教えてくれました。

「フラでは、『ピコ』=『おへそ』の力を信じます。おへそは、母と子が最初に繋がる場所であるように、生命にとって大切な場所。そして、ここガンストックランチの中に、ハワイのおへそがあると教えてもらったんです」

その教えに刺激を受け、この牧場で植樹をやる意義を見出した彼らは、活動を開始。

photo by Yuki Higuchi
10年間で10万本の古来種を植えるという高い目標を掲げました。地元の人たちや観光業に携わる人が皆、この活動を応援してくれ、現在、素晴らしいペースで植樹が進んでいるそうです。

そんな場所・ガンストックランチで、ハワイ古来から大切にされてきた苗木を植えることができるというのは、本当に特別なこと。

苗木を選ぶにも、気持ちがこもります。

私たちは、ハートの形の葉が可愛らしい固有種「ミロ (Milo)」の木を選びました。

photo by Yuki Higuchi
太陽がよくあたる丘の上、やわらかく少し湿った土の中に苗木をおいて、上から土を被せていきます。

「よく育ちますように」と願いを込めて、手で土を押していると、ハワイに来て何度も耳にした「マラマ=ハワイ語で「思いやりの心」を意味する言葉)に関することわざを思い出しました。

“Mālama ka ‘aina Mālama ka ‘aina kakou”
(大地を take care すれば、大地があなたを take care してくれる)

ハワイの人のあたたかさと、自然に仕える謙虚さがにじみ出るようなこの言葉。土を押す手にも、力と心がこもります。

photo by Yuki Higuchi
「この樹に込めたい想いはありますか?」

スタッフの方に訊かれ、私と夫は顔を見合わせました。

「旅の安全、そして……旅先で出会う人の暮らしや自然が、より良く続いていきますように」

ひと呼吸おいて、口から出てきた言葉にいちばん驚いたのは、ほかでもない自分自身だったと思います。

「あたらしいマラマなハワイ旅」に参加して、ハワイの文化や自然を守るために奮闘する方々の話を聞いていなかったら、きっと出てこなかった願い。

こめる想いには正解も何もないけれど、スタッフの方がニコリと笑って、私の手をとってくれたとき、言葉よりもたしかなつながりを感じて嬉しかったのを覚えています。

photo by Yuki Higuchi
スタッフの方によってとられた私の手は、お椀の形になり、ひと回り大きな夫の両手に包まれました。

重ねた手の上を流れる水はやわらかく、少しつめたく、どこまでも透き通っていて。

土にしみこむ水を眺めながら、おへそと同じように手にも特別な力が宿っている、宿すことができるかもしれない……と考えていました。

こうして手を包まれるのも、手で土に触れるのも、手に水が流れるのも、パソコンを叩きがちだった私の手には久しぶりの感覚。

ひとは「生命を創る」ことはできなくても、なにかが「生きる」手助けはできるのかもしれない。

私の「手」ももっと、いのちのために使っていけたら、と思いました。

旅をしても人生は変わらない、という人へ

photo by Yuki Higuchi
「旅をしても、人は変わらない、人生は変わらない」という人もいるけれど、きっとそんなことはなく。

価値観が 180 度変わるようなことはなくとも、自分にとって大切なもの、好きなことの解像度が上がったり、「こんな生き方や考え方もあるのか」という発見や学びがあったり……という「何かしらの変化」が確実にあると思っています(もっとも、それは旅をしなくても起こりうる変化ではありますが)。

そしてその変化や気づきの幅は、未知に飛び込んだとき、もっとも大きくなる。

「牧場の仕事は、お金持ちにはなれない。大変なこともたくさんある。でも、私はこの仕事が大好きで、毎日とても幸せです」。そういって胸を張る、ガンストックランチで働く女性の笑顔は晴れやかで眩しく、とても美しく輝いていました。

この星を生き、愛する者として

photo by Yuki Higuchi
ちがう人種、ちがう言葉、ちがう文化、ちがう宗教、ちがう仕事。

全部ちがうけれど、汗まみれで、泥だらけになった身体と、「この樹が良く育ちますように」と願った心はたしかに私たちをつなげていて。

「観光客」と「地元の人」、「余所者」と「内の者」……。

その立場の差をずっと意識して旅をしてきたし、これからもそれは変わらないけれど、この「おおきな」自然の前に立てば、その差は私が思うよりずっと小さいのかもしれないと感じた瞬間でした。

私にとっての「マラマな旅」は、まだはじまったばかり。

この星を生き、愛するものとして、世界を旅をする者として、私にできることはなんだろう。

ガンストックランチで出会った彼女に、ハワイで「マラマ」に生きる人たちに、この日ミロの木の成長を願った私自身に、胸を張って生きるにはどうしたらいいだろう。

そんなことを問い続けながら、これからの旅を、「マラマ」と共に歩んでいきたいと思います。

《特集》美しきハワイを未来に語り継ぐ「あたらしいマラマなハワイ旅」

ライター
Risa Hosoi 夫婦で世界一周中のマーケター

外資系IT企業のマーケター。「好きなタイプは世界中を一緒に旅できる人」と言ってたら、本当にそんな人と結婚できたラッキーパーソン。2022年9月、大好きな仕事を辞めて、夫と一緒に念願の世界一周の旅へ。「Mild Adventure(マイルドアドベンチャー)」をテーマに、素人にもできるやさしい冒険旅を発信中。

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