コロナ感染拡大によるさまざまな制約の中で注目度が高まったリモートワーク。そしてリモートワークが主流となった方々の視野に入ってきたのが郊外への移住ではないでしょうか。
理由と時期は異なりますが、筆者も東京都心から神津島という東京の離島へ移住した一人です。でも、「Iターンですか?」と聞かれるまでは“普通の引っ越し”としか思っていなかったほど、自然な移住でした。
この記事では、「移住はハードルが高そう」と思っている方の力になれるような考え方の一つをご紹介します。
あなたがその家に引っ越した理由を思い出して
今の家に引っ越してきた理由はなんだったでしょうか?
職場の近くがいいから。家族が増えたから。実家に近いから。好きなお店の近くだから。川や公園など自然があるから……理由はさまざまだと思います。
photo by Ayano Tanaka
でももし、“職場が近いから、通勤しやすいから”だけが理由であって、今はときどき出社すれば大丈夫だったり、完全リモートとなったため大都市で高い家賃を払う必要性がなくなってきたりした方は、都会以外のどこかへ引っ越すチャンスかもしれません。
移住と意気込むと、なかなか腰が上がらないもの。でも引っ越しだと捉えたらどうでしょう?前回の引っ越しと同じように、物件を調べたり、付近を散歩してみたり、ご近所となるお店に入ってみたり……。引っ越し先が少し遠くなるだけであって、同じような感覚でできることもありそうですよね。
photo by Ayano Tanaka
自然が近くにあった方が居心地がいいと感じる方は、いわゆる“田舎”の暮らしは、もしかしたらぴったりかもしれませんよ。
縁もゆかりもなくたって、なんとかなる
そうはいっても、縁もない土地へ突然引っ越して大丈夫なのかな?と思う方も多いでしょう。
私自身も出身は名古屋、夫は大阪と、二人とも神津島に親族はいません。しかも、移住者もそれほど多くない土地で暮らしていますが、有難いことにご近所さんはじめ、島の方々にはとても良くしていただいて、お世話になりっぱなしです。
photo by Ayano Tanaka
私たちにとっては、アパートのお隣さんの顔すらわからない都会の生活よりも、島の人に見守ってもらえているような今の生活の方が楽しいと感じています。特に台風被害が深刻だったときには、島に住むみんなが声を掛け合い助け合って作業に励む姿をとても頼もしく感じましたし、驚くほど早いスピードで復旧できたことにはこの島の底力をひしひしと感じました。
地元特有のお祭りや行事のときにどうしたらいいのか、ちょっとしたことでも困ったら教えてくれたり、助けてくれたりするのはやはり島の人。それならば、良いお付き合いをしていくことは絶対必要でしょう。ですので、積極的にご近所さんと挨拶したり、行事に参加したりと、近い距離で交流するよう心がけています。
photo by 東京都神津島村写真素材集
親戚じゃなくても子どもたちが遊びに来てくれたり、しばらく見ないうちにすごく背が伸びていたりと成長していく様子がわかるのも、なんだか温かい気持ちになるものです。
都会のように便利なことばかりではありませんが、不便だからこそ周りに頼ったり、助け合ったりしながらの生活を楽しめる気持ちがあれば、ゆかりのない土地であっても十分暮らしていけるのではないでしょうか。
“初めまして”で住み始めるよりも
とはいえ、移住する前に何度か現地に通って、街の人と顔見知りになっておくことは、移住を成功させるための最大のコツではないかと考えます。
例えば、旅行で訪れた際に、「あぁーもう住んでしまいたい!」と思った場所があれば、何度か旅行者として訪れてみることをお勧めします。そしてできれば、閑散期となるシーズンにあえて訪れることをお勧めしたいです。
理由は、その土地の良いところばかりでなく、少し不便な点も含めて見てほしいから。そして、閑散期であれば宿や飲食店の方々もお話しする余裕が出てくると思うので、地元の情報を少しずつ集められるからです。
「買い物や病院はどうしているのか」など、小さくても生活するにあたって大切なことを聞いておくチャンスです。
photo by Ayano Tanaka
例えば、神津島の観光は7~9月の夏に偏っています。冬になると強い偏西風が吹き、海も荒れ気味なので、船や飛行機の便数も夏に比べて減少し、欠航する場合もあります。
そのため、夏の神津島しか知らずに住み始めてしまうと、冬は不便だし寂しいと感じてしまう方もいるかもしれません。冬はその強い風を利用して魚や海苔を干したり、冬にしかない味覚を楽しんだりと、島らしさが活きてくる時期でもありますから、そうした暮らし全てが好きになれれば、神津島はあなたの都となるでしょう。
photo by Ayano Tanaka
また、住む家を探すのが困難な地域もあると思います。その場合、力を貸してくださる住民から情報を集め、紹介してもらうことが始めの一歩となるのですが、住民との関係が深ければそれだけ良い情報も集まるはず。
せっかく紹介してもらったのに理想と違った、という事態は避けたいものです。初めましてで住み始めるのは、移住希望者にとっても住民にとってもリスクとなる可能性があるといえます。
もう一つの拠点と考える
それでも移住までは……という方は、拠点を作って通うのもいいと思います。もともとアドレスホッパー向けプランがあるゲストハウスはもちろんですが、今ではワーケーションプランが合ったり長期滞在を受け入れていたりする宿も増えているので、気になっている地域の拠点を利用してみるのはいかがでしょうか?
photo by Ayano Tanaka
そうして通ってくれるだけでも、地方にとって刺激となり、後の財産となりうると私は考えています。
旅を通しても同じことが言えますが、美しい日本の原風景が残る村も人口の流出により過疎化し、忘れ去られてしまうのはとても悲しいこと。交流があれば、地域を訪ねるきっかけや、ふと思い出して何か力になれる機会が訪れるかもしれません。
パラレルワークで弟子入りも
もし、漁師さんの弟子や伝統工芸の後継などに興味があれば、絶好のチャンス。リモートワークが可能であれば、これまでのお仕事を続けながら、新たな道に進むことも可能です。
もちろん、その道のプロとして技術を身につけるまでの修業は必要ですが、これまで都心で働いた経験やITなどに関する知識や技術は、昔から引き継がれてきたものに対して新しい伊吹となるのではないかと思うのです。
photo by Full Earth
例えば、自分が漁に出るだけでなく、その魚をECサイトで販売したり、そのWebサイトをデザインしたり。そんなIT漁師が生まれても不思議でない時代になったのではないでしょうか。
持続可能な社会の大切さが叫ばれる中、こうした受け継いでいくべきものを守り、取り残されないよう時代に合わせて発展させていくことも、この時代だからこそ可能であり、求められていることの一つかもしれません。
まずは、興味を持って想像してみよう
一口に郊外、田舎といってもさまざまです。食べ物や風景の違いはもちろんなのですが、そこに暮らすことを考えると、車で走ればコンビニや大型スーパーなどがあるのと、離島のように全くないのとでは便利さが違います。都会に出る頻度によっても異なるでしょう。
photo by Ayano Tanaka
神津島にコンビニはありませんが、家の玄関から新宿まで飛行機を使えば100分ほどです。沖縄は島によってコンビニはありますが、東京へ行くのはちょっと遠いと感じるかもしれません。長野なら、山奥に住んでいても、車さえあればどこにでも辿り着けそうです。
このように、自分の好みや今の生活と比べたり、どんな暮らしに溶け込みたいか、日本や世界のさまざまな地域に興味を持って想像したり。旅行とはまた違った滞在をしながら“都会以外の新しい場所”を探して、移住という選択肢を考えてみるのも楽しそうですね。