シャンシャン、シャンシャラーン。
夜の街に鳴り響くのは、涼しげな鈴の音。
「ラッセーラ!ラッセーラ!」
気合いと魂が混じり合う、熱のこもった掛け声。
これは、日本三大灯籠祭りのひとつ、青森ねぶた祭の一幕である。歌舞伎役者のように睨みをきかせた巨大な人形灯籠。
その力強さと美しさには、長年受け継がれてきた日本の職人技が宿っている。
誰もが一度は現地でその迫力を体感したいと憧れるこの祭り――じつは「見るだけ」ではなく、「誰でも参加できる」ということを知っている人は、意外と少ない。
私がこの事実を知ったのは、旅好きの友人の何気ない一言がきっかけだった。
「跳人、出てみない?」
その誘いに乗ったことで、全国から集まった旅人たちと一緒に、ねぶた祭という熱狂の中心に飛び込むことになった。
申し込み不要。衣装さえあれば参加できる
ねぶた祭は、「ねぶた(山車)」「お囃子(音楽隊)」「跳人(踊り手)」の三要素で構成されており、それぞれのクオリティーの総合計で順位が決まる。
このうち唯一、誰でも自由に飛び入り参加できるのが「跳人(はねと)」というポジションだ。「ラッセーラ!ラッセーラ!」の掛け声に合わせて、片足ずつ跳ねながら進む。文字通り、祭りを跳ねながら盛り上げる存在である。
参加に必要なのは、所定の衣装を着ること。それだけでいい。事前申し込みも不要。当日の夕方、指定された集合場所(新町柳町交差点 海手)へ向かえば、すぐに跳人として祭りに加われる。なんとも自由度の高い、懐の深いお祭りである。
衣装は、青森市内のショッピングモールやスーパーで購入できる。価格はおおよそ7,000円前後。柄や色のバリエーションも多く、現地の店員さんに選び方を教わりながら、お気に入りの一着を見つける過程も楽しい時間だ。
少し複雑な作りをしているため、初めての場合はYouTubeなどで着方を予習しておくと安心だろう。
節約派には、メルカリでの購入や現地レンタルという選択肢もある。
宿と交通手段は早めに確保を!
ねぶた祭は毎年8月2日から7日までの6日間にわたって開催される。全国から人が集まる一大イベントゆえ、青森駅周辺の宿は数ヶ月前から満室になる。参加を決めたなら、まずは宿と交通の確保から動き出したい。
私たちは、知人の紹介と人数の多さ、そして車移動を前提にしていたことから、青森駅から車で15分ほどの海沿いの無料キャンプ場を拠点にすることにした。ここは、毎年地元のチームが旅人の跳人のために開放している特別な場所である。
キャンプ用品のレンタルはなく、初心者にはややハードルが高いが、旅慣れた人にとっては面白い人々と出会える格好のフィールドだ。
新幹線でのアクセスが一般的だが、車やバイクで訪れる場合は、周辺の駐車場が限られているため、早めの到着を心がけたい。
いざ、祭り本番へ。100人で走る高揚感
青森に到着した私たちは、衣装の調達とテントの設営を済ませ、15時頃には跳人としての準備が完了していた。
テント内は灼熱。汗だくになりながら仲間と助け合って衣装を身に着けたあの時間には、すでに小さな達成感があった。
このキャンプ場では、100人近い旅人がひとつのチームとして祭りに参加する。
日本一周中の若者、常連のベテラン、知人づてに誘われて来た初参加者など、集まった人々の背景は様々だが、不思議とすぐに打ち解ける。衣装を着て跳ねる――それだけで仲間になれる空気が、そこにはあった。
そして、このチームにはひとつの名物がある。それは、衣装を身にまとった跳人100人が、バイクや自転車で数キロの道のりを連なって走り、ねぶた会場へ向かう大行列だ。
私は運よく、先導するバイクの後ろに乗せてもらうことになった。列のうしろにはずらりと並ぶ仲間たち、沿道では地元の人たちが「いってらっしゃい!」と手を振ってくれる。歓声に応え、エンジンをふかす仲間たち。
前を走るバイクの背中からは、「俺たちがこの祭りを動かしてるんだ」という意志が伝わってきた。
ねぶた祭の中心へ向かうあの時間は、間違いなく、旅の中でしか得られない高揚感だった。
旅のスタイルは、自分でつくるもの
跳人としてねぶた祭に参加することになったのは、ほんのひと言の誘いからだった。
「参加できるんだよ。やってみない?」
旅の中で何をするか、どう過ごすか。その選択肢は、思っているよりずっと自由だ。私たちは車を走らせ、テントを張り、跳人として夜の街を跳ねた。出会いも、感動も、すべては“飛び込んだからこそ”得られた体験だった。
もちろん、ホテルを予約してゆったりと楽しむ旅も悪くない。だが、「どんな手段で関わるか」によって、旅の中身はまるで変わってくるはずだ。
【後編】では、会場に到着し跳人として中側から祭りに関わった体験について紹介するので、ぜひチェックしてみてくださいね!
All photos by Mari Takeda