ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。トラベルライターとして寄稿した記事は2,000記事以上。 山岳雑誌『山と渓谷』掲載多数、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリ。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

こんにちは!トラベルライターの土庄です。厳しい冬も後半に入りましたね。今シーズンは雪もたっぷりで、冬という季節を大いに満喫できた気がします。

特に筆者の大好きな山のフィールドでは、恋焦がれるほど美しい数々の山岳絶景に出会うことができました。

今回はそのなかから、岐阜県高山市「西穂丸山」をご紹介しましょう。入門者でも手軽に雪山登山に挑戦でき、下山後には極楽の雪見風呂が待っています。

本格的な残雪期に入ったので、雪崩のリスクを考慮した安全な登山や、綿密な山行計画が必要になりますが、滑り込みで冬の絶景を求めて出かけてみてはいかがでしょうか?

北アルプス雪山入門の名山「西穂丸山」


岐阜県高山市と長野県松本市の間にそびえる北アルプス・穂高連峰。険しい岩稜帯で形成される、登山中級者向けの山域ですが、そのなかにはいくつか初心者でも挑戦できる山が存在します。

その代表的な山のひとつが「西穂丸山(にしほまるやま、標高2,452m)」。新穂高ロープウェイでアクセスできるので標高差が少なく、コースにも危険な箇所がほとんどありません。


また登山者が多く、いつ訪れてもトレース(人の踏み跡)があるので、本格雪山の入門の山として紹介されることも多くあります。しかし、難易度とは裏腹に、感動間違いなしの絶景が待っているのが魅力のひとつ。

厳冬期の穂高や槍ヶ岳。荒々しい岩峰が雪に閉ざされて、よりいっそう神々しい佇まいに。まさに聖域と言える場所に立ち入れる、他にない世界観の雪山登山を楽しめます。

白山まで遠望。圧巻のロープウェイと展望台から登山スタート


西穂丸山の登山口があるのは、新穂高ロープウェイの西穂高口駅の先。厳冬期の北アルプス稜線まで山岳ロープウェイで一気にワープできるのは、大きなメリットですね。

中腹の鍋平高原駅からしらかば駅に乗り換えると、少しずつ圧倒的な北アルプスが顔を覗かせます。


ピラミダルな西穂高岳(にしほだかだけ、標高2,909m)、雪壁のように立ちはだかる笠ヶ岳(かさがたけ、標高2,897m)、そして天を衝くように鋭い槍ヶ岳(やりがたけ、標高3,180m)など、北アルプスの主峰たち。

荒々しい山肌となめらかな雪面が織りなす、この時期限定の山々の迫力に思わず息を呑んでしまいました。


西穂高口駅の展望台に到着すると、冬季限定キャラの「にしほくん」もお出迎え。その周囲には輝かしい雪山のパノラマ絶景が360度広がっています。

先ほどの峰々に加えて、霞をまとって荘厳な日本三大霊山のひとつ「白山(はくさん、標高2,702m)」の山容も。山のお天気の神様に感謝しながら、いざ登山スタートです!

新たにオープンした「槍の回廊」に立ち寄り


西穂高口駅から登山口に至る途中、ブーメラン状に張り出した展望デッキ「槍の回廊」を通過します。2022年10月に完成した新スポットです。

大迫力の山塊の頂上には、槍ヶ岳の”穂先”が。登山口の前から、隔絶した冬の北アルプスに足を踏み入れているような心持ちを味わいました。


この日は気候条件が良かったため、霧氷(空気中の水分が過冷却で木々に付着する現象)も観測できました。冬の山だからこそ出会える、自然の芸術作品です。

登山口は槍の回廊から徒歩約5分の場所に位置しており、山小屋が目印です。積雪量の多さを心配していましたが、トレースもばっちり。安心して雪山世界に入りました。

野趣に富む西穂山荘までのシラビソ稜線歩きを楽しむ


途中にある西穂山荘まで、基本的にずっとシラビソの森を歩く稜線です。普段は単調なのですが、雪が積もると一味も二味も違います。

雪面に光が当たって紋様を作ったり、木々の葉っぱから氷柱が下がって光っていたり、明暗のコントラストで引き立つ樹氷に出会えたりと、シャッターチャンスの連続です。

進めば進むほど冒険心を高めてくれる非日常の風景が待っています。一歩一歩、もふもふの雪を踏みしめながら山頂を目指していく時間も極上のものに思えます。

この日は快晴。かなり冷え込む北アルプスの稜線でしたが、樹林帯が適度に風を防いでくれて、むしろ涼しいくらいの気候条件でした。この雪山の爽やかさも、たまらなく気持ちがいいです。

趣が変わる北アルプス主稜線。西穂山荘を越えてハイライトへ


登山口から約1時間半で西穂山荘に到着です。夏であれば上高地・焼岳方面との合流点になる場所。到着すると、そこは確かに天上の世界だと実感できます。

向こう側にはいくつもの峰を育む北アルプス・乗鞍岳(のりくらだけ、標高3,027m)。いくつもの町を挟んで白山連峰と雲海が広がっていました。


西穂山荘を通過して、ひとつ違うと思ったのは風でした。シラビソの森を歩いているときとは段違いの風圧を感じます。

美しいけれど厳しい「厳冬期の北アルプスまでようやく来たんだ!」という臨場感を噛み締めました。


風でかき消されたトレースの道を、ズボズボと踏み込みながら進んでいきます。

局部的に冷やされて、アイスバーンのようになっている場所は要注意。穂高連峰が見える高さまで束の間の登りです。

天上の西穂丸山。荘厳な穂高の山々を眺めるクライマックス


高台までくれば、雪に閉ざされた圧倒的な山塊群はすぐそこです。目の前には前穂高岳(まえほだかだけ、標高3,090m)と吊尾根。

圧倒的な山岳風景を前に、風に靡いているテープが、どこか日本離れした雰囲気を見せてくれます。


稜線の至るところに見られる独創的な風紋、氷結した木々が真っ白な佇まいで、周囲のアルプスの山と共演します。

雲が出てくると陰影も加わり、より神々しい世界に。真っ白な稜線に一本続いていく道を、ただ一心不乱に歩いていきました。


そうしてスタートから約1時間40分で「西穂丸山(にしほまるやま、標高2,452m)」に登頂です。

山頂標識の前には、大迫力の西穂高岳。冬は上級者しか立ち入ることのできない聖域です。逆に夏期には登頂したこともある筆者。それゆえにどこか懐かしい、そして憧れの山でもあります。


他の登山者とその素晴らしい景色について共感し合いながら、山頂を後にしました。西穂丸山までのパノラマ稜線は往路と復路で違った趣。下りは乗鞍岳の山容が雄大でした。

達成感とともに、何だか爽快な気持ちになれるのも、天気に恵まれた雪山登山ならではの醍醐味ですね。

■詳細情報
・名称:西穂丸山
・住所:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂/長野県松本市安曇
・地図:
・アクセス:高山市街から新穂高温泉駅まで車約1時間30分、ロープウェイで西穂高口駅までアクセス
・ロープウェイの営業時間:8:30~16:00(上り最終、時期により異なる)
・定休日:荒天時、点検期間休
・電話番号:0578-89-2252
・料金:大人往復3,000円(第1・2ロープウェイ連絡)
・所要時間:新穂高ロープウェイ・西穂高口駅から山頂まで往復徒歩3〜4時間
・オススメの時期:冬
・備考:積雪量が多く、登山道は一部凍結している恐れがあるため、アイゼンまたはスノーシュー(ワカン)が必須です。
・Yamap公式サイトURL:https://yamap.com/mountains/3626

日帰り満足度◎たきざわさんで雪見貸切温泉


登山後に雪見風呂を楽しめることも、西穂丸山登山の魅力です。麓には奥飛騨温泉郷があり、日帰り入浴ができる旅館やホテルがたくさんあります。

源泉掛け流しかつ圧倒的なコストパフォーマンスの日帰り入浴も多いのでおすすめです。


筆者のイチオシは「麓庵 民宿たきざわ」さん。2つの貸切露天風呂と、3つの貸切内湯を自由に利用できます。それでいて500円という料金なのだから驚きです。

露天風呂は錫杖岳(しゃくじょうだけ、標高2,168m)を見渡す絶好のロケーション。肌に染み渡る化粧水のような単純温泉を堪能できますよ。

冷えた身体を雪見温泉で温める時間は、雪山登山の最高のご褒美です。

■詳細情報
・名称:麓庵 民宿たきざわ
・住所:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷新穂高温泉中尾261
・地図:
・アクセス:新穂高ロープウェイ・新穂高温泉駅から車ですぐ
・日帰り営業時間:8:00〜21:00
・電話番号:0578-89-2705
・料金:500円
・利用可能時間:40分
・オススメの時期:冬
・公式サイトURL:http://www.okuhida.com/dayplan.html

All photos by Yuhei Tonosho

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。トラベルライターとして寄稿した記事は2,000記事以上。 山岳雑誌『山と渓谷』掲載多数、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリ。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

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