――旅以外の趣味について教えてください。
まずは、工場夜景と廃墟の撮影ですね。
そもそも写真が趣味なんですが、他の人があまり撮らないものを被写体に選びがち。
工場夜景はあの“メカ感”に男心をくすぐられますし、僕のイチオシの廃墟は神戸にある「摩耶観光ホテル」なんですが、バブル期の建築ならではの空間を広く使う造りや、苔の感じ、何度も塗り直された壁紙、独特の窓…たまらないですね。
散歩もよくします。旅に出ているときも歩きますが、日常的にも。家のまわりとか、いつも歩いている道でも、歩くたびに新しい発見があるんですよね。
自転車や車に乗っていたら見過ごすような小さなことに気付きながら、写真を撮ったり、頭の整理をしたりという時間が好きです。
もう一つ日常的なことで言うと、2chまとめを見るのも趣味ですね。
「メディアではAと報道されているけど、Bだと言っている人も少なからずいるんだ」と感じることがままあります。若者のリアルな声が集まっていて、新鮮な意見にハッとしますよね。
――今興味があることや、今後挑戦してみたいことはありますか。
移住と家庭菜園です。
出身は千葉ですし、いま住んでいるのも東京23区内ですが、都内から2時間圏内の“田舎”に住みたいという夢があります。
もともと自然が好きで、自然の中に身を置いていたいというのがひとつ。あと、日本ほどの都会って世界中探してもそうないですよね。都会にアクセスしやすい田舎に住んで、家庭菜園をしたり、ちょっとした不便を楽しんだりしている人って海外にはたくさんいます。そんな人たちと共通の話題ができるという期待もありますね。
最近は、旅行先を選ぶときの軸も“自然”になりつつあります。
2017年末に旅する編集部のアメリカ横断で行った、アメリカのヨセミテ公園もすごく気に入りました。再訪して、1か月くらいかけてゆっくり回りたいです。ニュージーランドやカナダの国立公園にも興味があります。
今年の夏に旅しようと思っているのは、アイスランド。
もちろんその大自然にも惹かれますが、実は、好きな映画やアーティスト、作品がアイスランドに絡んでいることが多くて。なんだかシンパシーを感じるというか、「行かなければ!」という使命感に駆られているんですよね(笑)。
――若者にもっと旅に出てほしいとおっしゃっていましたが、最後に、旅を通じて学んだことや、旅が長沼さんに与えた影響を教えてください。
二つあります。
一つは、“全員ではないけど、やさしい人は一定数いる”ということ。
学生のころ、「人間って、他人のことはどうでもいいんだ」と考えていた時期があったんですね。時期でいうと、カンボジア旅行のあと。人とのかかわりが面倒になっていました。
そんなときに、和歌山を旅したんです。
その旅では、通りすがりのドライバーが「近くの駅まで送るよ」と話しかけてきてくれるとか、そんな人のやさしさに触れることが立て続けにあって。大きなバックパックを背負っていて大変そうに見えたかもしれませんが、とはいえ僕のことを全然知らないし、見返りなんてまったく期待できないのに、ですよ。
その旅での経験があって、誰かのささいな気づかいに気付けるようになりました。
たとえば、電車で隣り合わせた人が、僕が座りやすいように荷物をよけてくれた、とかそういうささいなことです。でも、それも僕にとっては大きな発見でした。小さなやさしさや感謝すべき人は世の中にあふれているんだ、と。それに気付けなかった自分の小ささにも目を向けることができました。
もう一つは、“自分の時間”の使い方について。
これも和歌山の話になるんですが、駅まで車で送ってくれた人に聞いてみたんです。「どうして僕を乗せてくれたんですか?」と。すると返ってきた答えは、「だって、一人で運転するのはさみしいし、暇でしょ。君がいたほうがもっと楽しい時間になるよね」。
これには驚きました。誰かと過ごすことで自分の時間をより楽しいものにしようとする――そういう考え方もあるんだ、と。
考えてみると、旅のときにホテルではなくゲストハウスを選ぶ人も、似た考え方をしていると思うんです。ただ宿泊費が安いから選んでいるのではなくて、自分の旅をゲストハウスに共有するというか、一人の時間をより有効活用するために他人を巻き込んでいるんですよね。
こんな発見があった和歌山の旅は、印象的な旅のひとつでしたね。
落ち込んだり悩んだりしたとき、ネガティブな気持ちになったとき、それを和らげたり、発散したりする方法は人それぞれでしょう。
その選択肢のひとつとして、”旅”がもっと広まればいいなと思います。