チャークー渓谷(ゲシュム島、イラン)
ライター
かわい まゆみ 絶景ハンター&トラベルライター

秘境絶景ひとり旅好きな絶景ハンター。国内47都道府県、世界89カ国、訪れたスポットは2000以上。フットワークの軽さと胃腸の丈夫さが自慢。マニアックな絶景スポットを発掘するのが好き。"ちょっと出かけたくなる"、そんなきっかけを作れるような情報発信を心がけています。

精緻を極めた壮麗なモスク、遥かなる古代文明の遺跡、そしてペルシア絨毯など、文化遺産の都といったイメージが強い中東イラン。

しかし、イランにはそのイメージを覆す、イラン本土とはまったく異質な異世界感あふれる離島があるのをご存じですか?

今回は、ユネスコ世界ジオパークにも認定された自然美あふれるイランの離島「ゲシュム島」をご紹介します。

ノービザで行けるイランの離島!自由特区の「ゲシュム島」とは

ピンクモスク(シーラーズ、イラン)Photo by Mayumi
エキゾチックで文化遺産を多く保有する中東の国イラン。とはいえ、いざ観光!となると世界情勢的にやや怖い印象があるのはもとより、世界最強クラスの日本のパスポートをもってしてもビザ取得のハードルが面倒……そんなイメージがありますよね。(※)

そんなイランですが、じつはかなり前から、ノービザで誰もが訪れることができる、国際的に開かれた場所があったのをご存じですか?それが今回ご紹介するイラン最大の離島「ゲシュム島(Qeshm Island)」です。

※2024年2月4日から、日本のパスポートを持った国民は、観光目的であれば6カ月に1回まで、ビザ免除で15日間イランに滞在できるようになりました。

ゲシュム島の繁華街(イラン)Photo by Mayumi
イラン南岸のペルシア湾に位置し、地政学上、ホルムズ海峡における軍事上の重要地点とみなされていたゲシュム島。現代に入り、今度は欧州とアジアをつなぐ貿易・経済の重要な交易拠点「自由特区(フリーゾーン)」として位置づけられ、その経済発展を促すべく中央政府とは切り離されるかたちで1991年、ビザ免除と無関税化がなされました。

国際空港も置かれ、今やイラン本土も含めた近隣諸国から多くの人が訪れるようになり、とくに市内のショッピングセンターやバザ-ルなどは離島とは思えない活気に満ちています。

ゲシュム島(イラン)Photo by flickr
しかし、そんな賑わいは、じつはゲシュム島のほんの一部。その多くは、のどかな農村や漁村の集落、荒涼とした大地に砂漠が占め、険しい岩山、そして美しい海に囲まれた素朴で穏やかなエコアイランドです。イラン本土とは異なる環境で育まれた絶景や文化体験がこの島で味わえます。

イラン初のユネスコ世界ジオパークに認定されたゲシュム島

旧ジオパークだったゲシュム島(イラン)Photo by Mayumi
荒涼とした大地からは想像もつかない、自然資源が豊富なゲシュム島。ウミガメが産卵に訪れるほど美しい海とカラフルなサンゴ礁、そして島周辺にはペルシア湾最大級ともいわれるマングローブ林が広がり、渡り鳥の飛来地でもあります。

何より、ゲシュム島の大地は地質学的に大変価値があり、世界最長の塩の巨大洞窟の発見をきっかけにして、イランで最初のユネスコ世界ジオパークに認定されました。その影響で、近年では新たな観光産業としてエコツーリズムが導入されています。

ゲシュム島が誇る異世界感あふれる絶景と自然

それでは、ゲシュム島ならではの異世界感あふれる絶景の数々をご紹介します。

命の水の谷「チャークー渓谷」

チャークー渓谷(ゲシュム島、イラン)Photo by Mayumi
気の遠くなるような年月をかけて鉄砲水や風雨の浸食が生み出した大地の彫刻「チャークー渓谷(Chahkooh Canyon)」。上から見ると十字に切り裂かれたような渓谷で、奥へ行くほど狭くなり、まるで別の惑星に迷い込んだような奇景が楽しめます。

大変興味深いのは、一見乾いたこの地に4つの古井戸が存在し、今なお島民たちにとっては乾季の水不足を補う命の水として大切に扱われていることです。

世界最長の塩洞窟「ナマクダン」

世界最長の塩の洞窟ナマクダン(ゲシュム島、イラン)Photo by Mayumi
ユネスコ世界ジオパークの登録のきっかけとなった、全長約6.6kmを誇る世界最長の塩の洞窟「ナマクダン(Namakdan Salt Cave)」。天然ドームは一面真っ白の塩の結晶で覆われ、実に神秘的です。

ちなみに、最高気温50度を超えることもあるゲシュム島の夏季は塩が溶けだし思ったほど結晶化が見られなかったり、洞窟内外に塩水があふれ出して危険なことも。そのため、夏以外の訪問を強くおすすめします。

なお、一般公開されているのは入口からほんの数百mで、まだまだ照明などの観光地化が行き届かず、入場許可とガイドの同行が必要です。

星の衝突で生まれた谷!?「スターバレー」

スターバレー(ゲシュム島、イラン)Photo by Mayumi
およそ200万年という長い時を経て誕生したとされる「スターバレー(Stars Valley)」。太古の昔、星が地球に衝突した際に砕け散った欠片から生まれたというロマンチックな伝承が残り、現地では「流れ落ちる星」を意味する “Estalah-kaftah”の名でも親しまれています。

そんなスターバレーですが、規模的には30~40分もあれば見て回れるコンパクトさで、カッパドキアのミニチュア版といった感じです。

ペルシア湾最大級のマングローブ林

マングローブ林(ゲシュム島、イラン)Photo by flickr
ゲシュム島とイラン本土にまたがる海峡に広がる、ペルシア湾最大級のマングローブ林。その広さはおよそ200平方kmに及び、乾燥した大地に緑の亜熱帯の森が広がります。

干潟にはカニやエビの甲殻類、季節によってはペリカンやサギなども飛来し、バードウォッチングの聖地でもあります。

イルカウォッチングやダイビング

野生のイルカたち(ゲシュム島、イラン)Photo by flickr
ゲシュム島周辺の海域には多くの野生のイルカが生息し、イルカやウミガメウォッチングが楽しめます。さらに、飛び切り透明感が高く、カラフルサンゴが生息する周辺海域ではダイビングやシュノーケリングも人気です。

自然だけじゃない!ゲシュム独自のイスラム文化

ゲシュムの女性たち(イラン)Photo by flickr
イラン本土とは切り離され、古くから交易の要衝としてアラブ諸国やインドなどから多様な影響を受けているゲシュム島。

その環境ゆえか、同じイランでも本土はシーア派、ゲシュムはスンニ派と2つの宗派に分かれ、とくにゲシュムの女性は敬虔なムスリムながら、色鮮やかでおしゃれな衣裳を身にまとい、かつネガーブと呼ばれる赤や黒の仮面で顔を隠した独特な姿を多く見かけます。そんなエキゾチックな文化が観察できるのもゲシュムならではです。

ある漁村(ゲシュム島、イラン)Photo by flickr
また、イランでもっとも古い村のひとつと言われるラフト(Laft)港の集落には、バドギール(badgir)と呼ばれる風の塔(WindcatcherあるいはWind Towerともいう)を持つ家屋が多く見られます。

それはいわゆる自然の力で潮風を取り込むエコ装置の役割を担い、高温多湿の島だからこその生活の知恵ともとれる、ゲシュムならではの伝統家屋の姿を楽しめます。

ポルトガル要塞跡(ゲシュム島、イラン)Photo by Mayumi
さらに島内には16世紀初頭、ポルトガルに占領されていた時代の名残である「ポルトガル城(Portuguese Castle)」跡も残されています。岩山を活かした天然の要塞で、歴史好きには興味深いかもしれません。

訪れるなら秋・冬!異世界体験をしたかったらぜひゲシュム島へ

夏場のピークは最高気温50度超えもある殺人的な炎暑のゲシュム島。そのため、秋から冬の11月から2月にかけてが観光のベストシーズンと言われています。

近隣諸国から飛行機も就航していますが、イラン南部の港町バンダル・アッバースからフェリーが毎日就航しており、地方都市シーラーズからも長距離バスが運行しています(バスに乗ったまま船で海を渡ります)。

イラン本土とはまったく異なる異世界体験が楽しめるゲシュム島。旅の刺激に飢えていたら、ぜひゲシュム島を訪れてみませんか。

■詳細情報
・名称:ゲシュム島 Qeshm Island
・住所:Qeshm island, Hormozgān, Iran
・地図:
・ユネスコ世界ジオパークHP(英語):https://www.unesco.org/en/iggp/qeshm-island-unesco-global-geopark
ライター
かわい まゆみ 絶景ハンター&トラベルライター

秘境絶景ひとり旅好きな絶景ハンター。国内47都道府県、世界89カ国、訪れたスポットは2000以上。フットワークの軽さと胃腸の丈夫さが自慢。マニアックな絶景スポットを発掘するのが好き。"ちょっと出かけたくなる"、そんなきっかけを作れるような情報発信を心がけています。

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