ライター
川波 恵子 旅する臨床検査技師

旅する臨床検査技師けーちゃん。訪問国数は43ヶ国。臨床検査技師として働く傍ら、出張撮影サービスのカメラマンをしたり、世界一周をしたりアメリカ横断したり、カナダに住んでみたり、フォトコンテストで世界1位になったり(IPA 2023)。「やりたい事は全てやる、行きたい所は全て行く」をモットーに世界中を旅しています。好きなことはカメラと美味しいチョコレート探し。今の目標は宇宙旅行。

「ラマダーン」という言葉を聞いたことはありますか?

実は2022年4月19日現在、イスラーム教は「ラマダーン」の真っ只中。毎年時期が変わり、今年2022年は4月3日から5月1日もしくは2日となっています。(新月の観測状況によって変わります)

本記事では、ラマダーンについて、名古屋モスクの渉外を担当するサラさんから教えていただいたことをご紹介していきます。イスラーム圏と呼ばれる国々を旅し、イスラーム教に触れる機会の多かった私でも知らないことがたくさんあり、とても勉強になりました。

ラマダーンは、ただの断食ではない⁉︎

photo by shutterstock
「ラマダーン=断食」と想像している人も多いかと思いますが、ラマダーンはあくまでイスラーム暦(ヒジュラ暦)における月の名前。日本の暦でも4月のことを「卯月」と言ったりしますよね。それと似た感覚です。

イスラーム暦は1年が354日(30年に11度訪れる閏年は355日)なので、私たちが通常使っている太陽暦からは毎年10日ほどズレていくことになります。

そのため、年によって夏にラマダーンを迎えたり、2022年のように4月に迎えたりと、毎年少しずつ変化するのです。

また、目視で新月を観測することで月の始まりを決めているため、その観測状況により直前まで日時が確定しないのも特徴です。

※参考文献「宗教法人 日本ムスリム協会 Webサイト

「ラマダーン」はイスラーム暦の“第9月”にあたり、イスラーム教においてとても神聖な月です。

イスラーム教には「五行」と呼ばれる5つの義務があり、そのうちの1つが「サウム(断食)」。そこで神聖なラマダーン月の日中に断食をするのです。

photo by shutterstock
サウムは、さまざまな欲望を断ち、身も心も綺麗にしましょうという月。飲食だけでなく、喫煙や性行為、喧嘩、悪口などを断つことも含まれます。

イスラーム教における断食では、太陽が出ている間だけ断食をすることになっています。

photo by PIXTA
厳密には、1日5回行う礼拝のうち、日没後の礼拝(マグリブ)から、夜明け前の礼拝(ファジュル)の前までは食事をとっていいことになっています。

また、サウム(断食)は義務と言いましたが、妊娠中や授乳中、お年寄り、小さな子ども、病気の人はやらなくてもよく、またラマダーン中に旅行をする場合も帰ってきてから断食すればいいなど、その人の状況に応じて辞めたり延期したりできる柔軟さも特徴です。

ラマダーン月は「ポイント10倍デー」

photo by shutterstock
ラマダーン月は、よい行いがいつも以上に推奨される月でもあります。

イスラーム教の教えでは、死後は神様が生前の善行と悪行を見極め、善行が多ければ天国に導かれます。ラマダーン月によい行いをすると、普段の善行の何倍も徳を積んだことになるのだそう。

サラさんは、この1ヶ月のことを「ポイント10倍デー」と例えます。ラマダーン月は神様がいつも以上にご褒美をくれる1カ月なのです。

photo by PIXTA
子どもたちもお母さんのお手伝いをするなど、この月は皆が己の欲望を抑えて、率先してよい行いをするのだそう。

イスラーム教には、「サダカ」という、貧しい人たちへの任意の寄付行為があるのですが、これもラマダーン中はポイント倍増。貧しい人のため、そして自分の徳を積むためにも率先して行うのだとか。

断食を破るイフタール

photo by shutterstock
イスラーム圏の国を訪れたことのある人であれば、必ず耳にしたことのある「アザーン」。

アザーンは礼拝の時間を知らせる合図。合図といっても鐘の音などではなく、歌声にも近いアラビア語での呼びかけと言うのが近いでしょうか。

私はこのアザーンが大好きで、これを聴くのがイスラーム圏を旅するときの楽しみでもありました。

photo by shutterstock
ラマダーン期間においては、日没後の礼拝(マグリブ)を知らせるアザーンが、ごはんを食べてもいいですよという合図にもなります。

この断食明けの食事は「イフタール」と言い、断食を破るという意味があります。イフタールを食べるのもラマダンの楽しみのひとつなのです。


photo by Sarah「2018年イフタールの様子」
私も過去に名古屋モスクで体験させていただいたことがあるのですが、ひとつの建物に100人、多いと300人も集まってワイワイ食べる様子はまるでお祭りのよう。

自宅に友人や親戚を呼んで食事を振る舞うこともあるようで、日本で言えばお正月が1カ月間続くような感じでしょうか。


photo by Sarah「2019年イフタールの様子」
このイフタールと呼ばれる食事、招待された側はタダで食べることができるので「作る側の負担が大きそうだな、大変そうだな」と思っていたのですが、むしろその逆。食事を提供すればその数だけ徳を積んだことになり、さらには提供相手の徳が自分の徳としてもカウントされるそうで、みんな喜んで食事を提供するのだとか。

食事内容は自由なのですが、預言者ムハンマドがブレイクをするときにお水を飲み、デーツをまず口にしたとハディース(預言者ムハンマドの言行録)に書かれていることから、それを真似をする人が多いといいます。

ラマダーン期間の過ごし方

photo by shutterstock
では、ラマダーンの1カ月間はどのように過ごすのでしょうか。

ラマダーン期間と言っても、皆さんお仕事があるので、日中に飲食を断つこと以外はいつも通り。もちろん1日5回の礼拝も欠かしません。

ただ、日の出前の礼拝(ファジュル)までに食事を終わらせないといけないため、朝はかなり早起きになります。たとえば2022年4月16日の東京でのファジュルの時間は午前3:37。ということはそれまでに食事を終わらせる必要があります。

photo by shutterstock
先にも述べましたが、イスラーム暦は毎年少しずつ太陽暦から時期がズレていくので、四季のある日本では大変。

日中の時間が長い夏にラマダーン月を迎える年は、夜中の1時に食事を終わらせることもあるのだそう。日没時間も遅いのでイフタールの時間もかなり遅くなります。逆に冬は日中の時間が短いので少し楽になります。

その反面、イスラーム教徒の多いインドネシアや中東は赤道に近く、夜明けや日没時間の変化が年間を通して少ないため、断食の時間が年ごとに大きく変化しないのも特徴です。

私が今住んでいるバンクーバーは、夏の日没が21時を過ぎるので、その時期にラマダーンを迎えると大変だと想像できます。

photo by PIXTA
日中の過ごし方はいつも通りと言いましたが、善行によるポイントがたくさん貯まる期間だからこそ、みんなそれぞれよい行いをします。この期間だからこそ礼拝をたくさんしたいという人、イスラム教の聖典であるクルアーン(コーラン)を読みたいという人もいるそうです。

また、欲望を断つ期間でもあるため、さまざまな情報が入ってきてしまうテレビやSNSを見ないと宣言する人も。

photo by shutterstock
日没が近づくとイフタールの準備に入ります。

日没後の礼拝(マグリブ)のアザーンが鳴る10〜15分前には食卓にたくさんの料理が並び、そのご馳走を囲んで神様に祈り(ドゥアー)をしながらアザーンが鳴るのを待ちます。

ライター
川波 恵子 旅する臨床検査技師

旅する臨床検査技師けーちゃん。訪問国数は43ヶ国。臨床検査技師として働く傍ら、出張撮影サービスのカメラマンをしたり、世界一周をしたりアメリカ横断したり、カナダに住んでみたり、フォトコンテストで世界1位になったり(IPA 2023)。「やりたい事は全てやる、行きたい所は全て行く」をモットーに世界中を旅しています。好きなことはカメラと美味しいチョコレート探し。今の目標は宇宙旅行。

RELATED

関連記事