「そうだ、沖縄で働こう。」
透き通る水、白い砂浜、そして太陽が降り注ぐ「海のそばの生活」をオーストラリアで経験した私は、その暮らしの魅力に完全に心を奪われていた。
あの時の生活が忘れられず、次の職場を沖縄で探すことにした。そのとき偶然見つけた「リゾートバイト」という働き方。一定期間、契約社員として働きながらお給料を貰い、宿や光熱費が無料で提供されるという夢のような条件に惹かれ、すぐに派遣会社に連絡を取った。
派遣会社は、私の要望に沿っていくつかの職場を提案してくれた。
私は、海や自然と近い環境での生活を希望し、最初に紹介されたのは西表島のリゾートホテルだった。しかし、自分の不手際で最終決定の連絡を締め切りまでに送れず、その仕事は流れてしまった。
落ち込んでいた私に次に紹介されたのは宮古島のリゾートホテル。宮古島を検索すると目に飛び込んできたのは、息を呑むほどの美しい海の写真。失敗のショックは一気に吹き飛び、すぐに宮古島での3ヶ月間の契約に飛びついた。
日が近くなるにつれ、リゾートバイトでよく語られる「島での新しい仲間たちとの楽しい生活」というイメージに期待を膨らませた。
絆を深める「時間の共有」
到着したその日、ホテルの従業員が空港まで迎えに来てくれた。車でホテルへ向かう道中、私の目に映ったのは、延々と続く畑の緑ばかり。期待していた海の姿はどこにも見えない。さらに、ホテル周辺にはコンビニやスーパーも一切なく、買い物に行くための車は週に2、3回しか出ないという。初日の買い出しの最中、私は自分史上一番の「田舎」とも言える景色に戸惑い、不安を覚えた。
当時寮に空きがなく、一時的に職場となるホテルが提供するコンドミニアムに住むことになった。
部屋に入るなりすぐに見えた、キラキラと太陽に反射する穏やかな海と椰子の木の景色に胸打たれ、先ほどまで感じていた私の不安はすぐにかき消された。
最初の数日間、友人もおらず時間を持て余していた私は、シュノーケルとフィンを手に一人で海へ向かった。水中撮影用にiPhoneをジップロックにいれ、操作のしづらさに苦戦しながらも懲りずに水中の様子をカメラに納め続けた。サトウキビ畑に囲まれた小道や、咲き誇るハイビスカスを眺めながら、ただ海に身を委ねる時間はまさに至福だったが、どこか孤独感も感じていた。
そんなある日、コンドミニアムの予約ミスで急遽部屋の移動が必要となった。寮はまだ空いておらず、他のホテルへ移動した先で見知らぬ女性3人でのシェアハウス生活が始まった。年齢も背景も異なる私たちであったが、共通していたのは、「海がすき」という気持ち。時間さえ合えば一緒に海へ向かう。
大自然を前にすると心がオープンになりやすいのか、打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
それぞれの持ち物や食料などの物質的なものから、休日や仕事後のひととき、時に悩みや愚痴を打ち明けたり、感情的な面もシェアしあった。そんな日々のあれこれを共有することで、私たちの絆はどんどん深まっていった。周りにの同僚たちも時に加わり、「島でのひととき」を共有する人が増えていった。
1人で味わう時間も素晴らしいが、誰かと体験を共有することで、1人では得られない喜びや豊かさを実感した。
同僚たちとシュノーケリングをした朝
「好き」の共有がもたらす充実感
ここで働く人々の多くは、太陽、海、そして仲間たちと共に交わすお酒の時間が大好きだった。
朝一で素潜りを楽しみ、午後から出勤。夜遅くに帰宅してからは、寮で飲み会や夜釣りに出かけるなど、仕事と遊びが交錯した忙しい毎日を送っていた。
多くの仲間が私と同じく期間限定の滞在であったため、それぞれが一瞬一瞬を大切にし、できる限りの時間を楽しもうと意識していた。シュノーケリング、釣り、ヨガ、キャンプ、サイクリング、バーベキュー、天体観測。時には街へ出て居酒屋やバー、カラオケを楽しむこともあった。
「やりたい」を一緒に叶える仲間がいつも周りにいてくれたことは、私にとってこの上ない充実感を与えてくれ、時間がゆっくりと流れるような錯覚さえ覚えたほどだった。この島で過ごしたわずか3ヶ月の時間が、今でも心の中に鮮やかに残っているのは、その時間がいかに特別で深いものだったかを証明している。
キャンプをした翌朝
夜釣り後に疲れてビーチで焚き火を始める
「好き」に従って生きること
宮古島での生活を通じて、私は自分の「好き」に確信を持ち、その感覚に従って生きることの大切さを教えてくれた。
都会の華やかな生活や洗練されたカフェ、ブランド品ももちろん魅力的。けれど私にとってほんとうに大切なのは、ノーメイクで海に向かい、日が落ちる頃、仲間と笑顔で乾杯する、そんなシンプルな瞬間なのだということに気付いたのだ。
人それぞれにお気に入りの時間の過ごし方や、たまらなく好きな瞬間がある。
その「好き」に素直になることは、最終的に自分にとっての最大の幸福をもたらす。その「好き」に従う選択は、コーヒーかお茶か、のような日常の小さなものから、大きな人生の決断まで、日々至る所で私たちに問う。
何を選ぶか、それがどんなに小さなことでも、私たちが選んだ「好き」の積み重ねが、のちの人生に深い満足感と幸福感をもたらしてくれる。それを宮古島での生活は私に教えてくれた。そして今もその教訓は、私の生き方の中で確実に息づいている。
All photos by saeno