贅沢が染み付いたクソみたいな味覚で
でも、それでも、残さず全部食べた。贅沢が染みついたボクのこのクソみてーな味覚で、彼の優しさを否定するような真似だけは絶対にしたくないと思ったから。
笑顔つくってでも、全部食って、ウソついてでも「おいしかった」って伝えるんだって。この時ばかりは、もう偽善でも何でもいいから彼の気持ちに応えたい一心だった。
ボクは、ホームレスが羨ましかった
ボクが美味しそうに(本当は死にものぐるいで)チャパティを頬張る姿を彼はキラッキラした笑顔で見ていた。ホームレスが自分より輝いて見えたなんて、初めてだった。
明朝、出発前に昨晩と同じ場所に寄ってみた。変わらず彼はそこにいた。やっぱり彼はホームレスだった。
僕「ねぇ、一緒に写真撮ってくれない?」
彼「もちろんさ!」
そう言って、彼はボクの手を繋いできた。まるで恋人同士のように、一つひとつの指を交差させて。(うわっ、なんだコイツ!ゲイ?それで優しかったの?)などと、少しでも疑った自分が本当に情けない。
彼「気をつけて旅を続けてね!またいつでも遊びにきてね!」
満面の笑みでそう言った。カレは良き友として、僕の手を握ってくれただけだった。その日以来、ボクは自分と他人を比べることを辞めた。
実を言うと、抱腹絶倒の世界一周をしているうちに、この先もどこまでも綺麗に舗装されている自分の人生に違和感を覚え始めていた。
皆が苦労する中、ぼーっとしていても、事がうまく運ぶ。ボクだけ、有名企業の御曹司っていう道が待っている。
「ずるい?」そんな罪悪感に後ろ髪を引っ張られていた。旅をして、貧しい人を分かった気になったって、世界一周なんて高みの見物。所詮、他人事でしかなかった。
彼がキラキラして見えた理由
でも、カレの笑った顔に触れたその瞬間、気づいた。
(キラッキラに輝いている人って、たとえ自分がどんな環境にあっても、不平不満を漏らさずに、今の自分にできることを一生懸命にやっている人なんだ)
物質的に恵まれているかどうかは問題じゃなかったんだ。現に、ボンボンのボッチャンであるボクが、今この瞬間、ホームレスの人の在り方を羨ましいとすら思っている。
何を持っていて、何を持っていないかなんて、関係ない
(もうやめよう。あいつは良いなとか、哀れだなとか、そんなことで人と比べるのは、もうやめよう)そりゃあ、才能あふれるヤツ見たら羨ましいし、物乞いの子どもたちなんかはやっぱり可哀想だけど、そうして周りに捉われている時点で、自分は輝いちゃいない。
(自分には自分にしかできないことがあるはずだ。ボクがボクとして生まれてきたことには、きっと意味がある)
(それを突き詰めていけば、こんなボクでもカレみたいに周りをハッピーにすることもできるはず)そう思った。
カレは、カレにできることの中で最善を尽くしただけ。自分が何を持っていて、何を持っていないかなんて、まったく気にかけていない。やれることに真心を込めただけ。
だからこそ、キラッキラに輝いていた。たった半分のチャパティかもしれないけど、それは、ボクを動かすには十分すぎる材料だった。
(親の仕事を継ぐなんてカッコ悪いし、そもそもちっとも楽しくないでしょ)今まで僕は、そう思っていた。だけど、良くも悪くもボクは特殊な環境にいて、これこそ、今の自分のやるべきことなんじゃないかなって思えるようになった。
跡取りって行為が光って見えた
モチロン、これが正解かは分からない。どこかで自分を合理化したい気持ちもあったと思うから。と言うか、そう自分に言い聞かせなきゃ、やりきれないだけだったのかもしれないね。
でも、「与えられた環境でベストを尽くす」という気づきは、帰国後の自分の進路にも大きな影響を与えてくれた。何より、跡取りって行為が光って見えるようになった。
紆余曲折の末、今、僕はアメリカにいる。一族が精魂込めてつくり上げた日本の伝統を未開の地である海外へと普及させるために。
そうして選んだ跡継ぎという道は、楽しいかと言われたらやっぱりそんなわけないし、大変なことの方がよっぽど多い。けど、文句も言わんと自分のできることを遮二無二やっているつもりです。ひいてはそれが、周りのシアワセにも繋がると信じながら。
なんだかマジメな話になってしまったけど、ボクにとっての世界一周は、つまるところ、ただの遊び。楽しすぎました。毎日、お腹抱えて笑い転げていました。
仲間と一緒なら、楽しかった
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マチュピチュでは、大洪水に遭遇。1週間の難民生活を経て、ヘリに救助される。遺跡を上空から覗けたし、結果オーライ。
地球の裏側のブラジルまで、留学中の彼女に逢いにいったら、知らない男とチューしているのを目撃し、ブロークンハート。
ケニアでは、レンタカーを使って単身サファリへ向かった。動物に囲まれながらガス欠を起こし、あわや大惨事。どんなハプニングも、仲間と一緒なら楽しかった。
ボクの夢は「世界もう一周」すること。ジジイになったら、再び4人でまったく同じルートをなぞる。あわよくば、みんなの奥さんなんかも連れてね。
そんで、
「いやぁ 40 年経っても、大自然は何にも変わらんよなぁ。それに比べて、ワシらの髪の毛をご覧よ。こんなにハゲ散らかしちゃってさ、ハッハッハー」
とか何とか言いながら、抱腹絶倒の旅路をアゲインする。そいつを思えば、いつ、どこで、いかなる状態にあろうと、元気が出るし、どんなことでも頑張ろうって思えるんだ。
決して誇れるようなものじゃないけど、世界一周は、それくらいの生きる喜びやパワーをボクにくれていると思う。
ブサイクな愛情で、ひとつでも笑顔を
「ポレポレ、ポレポレー(ゆっくり、ゆっくり)」
あのキラッキラに輝くカレの笑顔にはとても敵わないけど、ボクのブサイクな愛情を通して、ボクの周りに笑い声がヒトツでも増えればいいなと切に願う。
いつかまた逢いにいきます、ザンジバルのホームレスさん!
世界一周に出たい!でも勇気が出せない。そんなあなたへ
いかがでしたか?
今回の世界一周ストーリーを掲載している書籍では、15名の感動ストーリーだけではなく、一緒に本を作成した世界一周者50名のお土産話やアンケート、世界の瞬間PHOTOなど世界一周経験者の想いが詰めこまれています。
「世界一周して人生が変わる?」
これは、あなたが本当に実感できるかどうか分からないかもしれません。ただ、少なからず私たち50名の人生は、世界一周がきっかけで変わりました。
この想いをあなたにも感じて欲しい。そしてこの本をきっかけに、旅に出てくれたらもっと嬉しいです。
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