東京都心部から南へ約300km、大型客船で約10時間20分、飛行機なら約55分。空と海に囲まれた八丈島は、亜熱帯の気候が育む豊かな自然と、受け継がれる伝統文化が共存する島です。
伊豆諸島最高峰の「八丈富士」がそびえたつ力強い風景のなかで、人々は自然と寄り添い、伸びやかな日々を紡いでいます。その暮らしに宿る、島とともに生きる誇りと喜びに触れながら、日常にひそむ豊かさを見つめ直す旅が、ここから始まります。
見出し
自然に身を浸しながら、大きく深呼吸。体と心の声を聴く大切さを伝えるヨガインストラクター・遠藤朋代さん

まず訪れたのは、八丈島の自然と調和するヨガ教室『Inti Yoga(インティヨガ)』。主宰の遠藤朋代さんは、島の豊かな自然の中で、体と心を整えるヨガを伝えています。
今回は、小さな森の中に佇む、木の温もりを感じるスタジオで約60分間のヨガレッスンに参加しました。レッスンの冒頭では、体調や悩みを丁寧にヒアリングしてくれるので、自分に合った指導を受けられ、ヨガ初心者でも安心。

「自分の体をよく観察して、今いる環境に心を傾けてみましょう」–– 日常の中で凝り固まった体と頭が、解きほぐされていくのが分かります。
晴れた日には海辺や見晴らしの良い広場などの屋外でもヨガを体験できます。

ーー もともと埼玉県に住んでいた遠藤さん。八丈島を訪れたきっかけは何でしたか?
きっかけは、趣味のサーフィンです。埼玉にいた頃は、気軽に海に行くことができなくて、なかなか初心者を脱せずに悔しさを抱えていたんです。海の近くで暮らせばもっと波に乗る時間を増やせる、と八丈島を訪れました。
島に来てまず感じたのは、人との距離の近さです。海で遊んだ後に「また明日ね!」と別れられるなんて、まるで子どもの頃に戻ったようで、毎日楽しくて。海の綺麗さに魅力を感じたことも相まって、移住を決めました。

ーー そこから、どのような経緯でヨガ教室開講に至ったのでしょうか?
もともと、ヨガ自体は自身の腰痛緩和のために定期的に行っていたんです。八丈島に移住してしばらく経った頃、生活スタイルを見直すタイミングで、ヨガに本格的に取り組んでみたいと思うようになりました。
それまでは動画を見ながら、自己流でやっていたのですが、資格取得のために正しい体の使い方を学び始めました。毎日ポーズの練習を続けていると、気づいたら腰が痛くなくなっていて。これまで想像もできなかったほど、軽やかな日々を送れるようになったんです。
「自分の体と日々真剣に向き合うことは、こんなにも意味がある」ということを、体に不調を抱えている人々にも届けたい。そう思って、ヨガ教室を開きました。

ーー 『Inti Yoga』には観光客から地元の方まで、さまざまなお客さまがいらっしゃいますが、日々どのようにヨガの魅力を伝えていますか?
観光の方は、単発レッスンとなることが多いので、まずは自然の中で体を動かすことを存分に楽しんでもらえるよう意識しています。
地元の方は定期的にスタジオに通われるので、時間をかけて体を扱う手助けをしています。中には60歳のお客さまもいるんですよ。「あと20年はヨガを続けたい」と言ってくれていて、ヨガが人生の一部になるほど魅力を感じてくださっているのだと嬉しい気持ちになりますね。
ーー 素敵です。今後、八丈島で挑戦したいことはありますか?
ぼんやりと考えているのは、シェアハウスを開くこと。私、人と暮らすのが好きなんです。つい先日まで、ヨガのインストラクター資格を取るためにスタジオに1ヵ月ほど滞在していた方がいて。毎日「おはよう」と挨拶したり、一緒にごはんを食べたり……。“暮らし”でしか体感できない豊かさを味わえる場所をつくって、その中で年を重ねていきたいです。

・名称:Inti Yoga(インティヨガ)
・住所:東京都八丈島八丈町三根4404-2
・地図:
・電話番号:070-2619-5945
・公式サイトURL:https://inti-yoga.com/
“植物と暮らす豊かさ”に気づく場所。「八丈島ボタニカル&カフェ DRACO」

続いては、八丈島のメイン通り沿いにある『八丈島ボタニカル&カフェ DRACO(ドラコ)』へ。倉庫を改装した観葉植物ショップと、シアトルスタイルのカフェが融合した空間です。オーナーはもともとデザイナーで、観葉植物の趣味が高じて、この地に園芸ショップを開店するまでに至ったそう。

島産の観葉植物が並ぶ店内に入ると、鳥のさえずりや小川のせせらぎが聴こえてきます。これは、VRマイクで収録した「八丈島の森の音」。屋根から差し込む光とともに、空間いっぱいに広がるその音は、“植物のある暮らし”へのイメージを鮮やかに呼び覚まします。

併設カフェでは丁寧に淹れたエスプレッソや、八丈島で採れたフルーツを使ったドリンクをいただけます。今回は、「モカチップコーヒー」と八丈島のパッションフルーツが入った「マンゴーパッションティー」を注文。

「マンゴーパッションティー」はマンゴーの濃厚な味わいと、パッションティーのすっきりとした後味が絶妙にマッチしていて、とても飲みやすいです。爽やかな甘酸っぱさで、日頃の疲れも吹き飛びそう。

・名称:八丈島ボタニカル&カフェ DRACO
・住所:東京都八丈島八丈町大賀郷2265-1
・地図:
・営業時間:12:00~18:00
・定休日:月曜日、木曜日 ※月曜日が祝日の場合は営業
・電話番号:04996-9-5586
・公式サイトURL:https://www.dracohachijo.com/
八丈島の草木と“手仕事”が織りなす伝統工芸品「黄八丈」
八丈島伝統の絹織物「黄八丈」の手織り
続いて訪れるのは、東京都指定の伝統工芸品にも認定されている「黄八丈」の染織元『黄八丈めゆ工房』。ここは創業から145年以上、染めと織りを一貫して手作業で行う希少な工房で、八丈島の伝統を守り続けています。

現在、工房で働く職人は7人。島外から移住してきた方もいれば、八丈島で生まれ育ち、小さい頃から機織りに触れてきた方もいます。

ショーケースには、黄八丈の小物が並びます。島の方からは「島外の方との会話のきっかけになる」と、名刺入れやネクタイなどのビジネス小物が人気だそう。
八丈島の草木を使って染めあげた黄・樺・黒の3色は、黄八丈を代表する3色
工房を見学し、代々受け継がれる染織の技に触れる貴重な時間を過ごすことができます。
・名称:黄八丈めゆ工房
・住所:東京都八丈島八丈町中之郷2542
・地図:
・営業時間:9:00~12:00、13:00~17:00
・定休日:なし
・電話番号:04996-7-0411
・公式サイトURL:https://kihachijo.jp/meyukobo/

三根に位置する『八丈民芸やました』では、黄八丈の手織り体験ができます。まずはデザインを決めて、糸を選んで、いよいよ機織りに。横糸を通すごとに足の踏む位置を変えることで模様が定まっていきます。

糸の色や模様の違いだけでなく、打つ強さや横糸のテンションのかけ方によっても、まったく異なる仕上がりになるのが手仕事の味。まさに世界に一つ、自分だけの作品ができあがります。
・名称:八丈民芸やました
・住所:東京都八丈島八丈町三根1029-7
・地図:
・営業時間:9:00~17:00
・定休日:なし
・電話番号:04996-2-3476
・公式サイトURL:https://www.ki8jo.com/
海と緑を守る、サステナブルの輪をつなぐ。青空の下で島の恵みを届けるキッチンカー「Bulblue cafe stand」

続いては、キッチンカー『Bulblue cafe stand(ブルブルーカフェスタンド)』を営む大金恭平さん・あやさん夫妻の元へ。八丈島の海や山が織りなす自然のBGMを聴きながら、広い青空の下で、島の素材を活かしたオリジナルドリンクや軽食を楽しむことができます。
左:「海辺のクリームソーダ」、右:「フルーツレモネード」
八丈フルーツレモンの果汁を絞った「フルーツレモネード」は、爽やかですっきりとした味わい。バタフライピーティーを組み合わせてつくった鮮やかなグラデーションは、八丈島の美しい海によく映えます。

キッチンカーの周りでふと目に入るのは、ボディボードの合間にひと息つきながら、ドリンクを片手に仲間とのんびり語らう人々の姿。その光景に、まさに「島全体がカフェスポット」という言葉がぴったり重なります。

ーー 移住のきっかけは「子育て」だったと伺いました。その背景をあらためて教えていただけますか?
もともと自然豊かな場所で子どもを育てたいと思っていて。主人が子どもの頃、八丈島で楽しい時間を過ごした思い出があったこと、私も1度来たことがあって素敵な島だと知っていたこともあり、子どもが1歳を過ぎたタイミングで八丈島に移住しました。
ーー カフェを開くことは決めていたのでしょうか?
キッチンカーで飲食店をやりたいとは思っていて、このキャンピングカーも移住前に買っていたんです。ただ、その時点では「何のお店にするか」は決めていませんでした。
島に来て、あらためて八丈島の魅力に触れるうちに、「このパワフルな海や癒しの緑を活かせるお店にしたい」と思うようになって。自分のお気に入りの場所で、コーヒーを片手に八丈島の自然に浸れる移動式カフェを開くことにしました。

ーー 地域に根ざしたお店をつくるには、その土地に長く暮らしていないと難しい部分もあると思います。そうした中で、どのようにお店を広げていったのでしょうか?
最初は自宅の前でこじんまりと営業していたんです。でも、島の方々が「ここだと分かりづらいから、もっと人目につく場所に出店したら?」と声をかけてくれて、徐々に出店範囲が広がってきました。島の皆さんが私たちを受け入れてくれたからこそですね。
ーー 島でお店を営むうえで、食材の選び方やメニューにおいてこだわっていることはありますか?
最初は島の方たちの日常に溶け込む場所を目指していたので、当初は島の名産品よりも、あえてデイリーに使える食材を中心にメニューをつくっていたんです。でも、暮らす中で気がついたのは、島の皆さんも明日葉や八丈フルーツレモンが好きだということ。だから、今では島の名産品を使ったさまざまなメニューを展開しています。
ーー 「サステナブルな店舗経営」に取り組まれていることも印象深いです。
飲食店を開くにあたって、一番気にしていたのが実はゴミ問題だったんです。豊かな自然があるから私たちがいる。だから、少しでも自然に優しいお店を作りたいなと。ドリンクカップはすべて植物由来のバイオマスのものを使っていて、プラスチックゴミをできるだけ出さないように心がけています。

また、八丈島の美しい海を守る取り組みとして、「ワンハンドクリーン活動」にも力を入れていて。店舗でお声がけいただくと、ゴミ袋と一緒にドリンクの割引チケットをお渡しし、お客さまのお好きなタイミングでビーチのゴミ拾いをしていただいています。

私たちが環境に配慮した取り組みをするのはもちろん、サステナブルの輪をつないでいく存在になれたらいいですよね。
ーー 今後、八丈島で挑戦していきたいことを教えてください。
今は金沢の『ウフフドーナチュ』さんと一緒にオリジナルドーナツをつくっているのですが、いずれはそれを八丈島の外でも楽しんでもらいたいと思っています。三宅島や大島など島しょ地域のカフェに卸したり、コーヒーとドーナツのポップアップ店舗を開いたり。カフェを通じて、島と島、人と人のあいだに新しいつながりを生んでいけたら嬉しいです。

・名称:Bulblue cafe stand
・営業時間:10:00~17:00
・定休日:月曜日、火曜日、悪天候時
・公式サイトURL:https://www.bulblue.site/
※出店場所や最新の営業情報は公式Instagramをご確認ください
太平洋を望む「ゆーゆー牧場」と、島産素材の爽やかスイーツが味わえる「八丈島ジャージーカフェ」

旅の締めくくりには、太平洋を望む広大な高台に広がる『ゆーゆー牧場』へ。自然豊かな環境で放牧されているジャージー牛は、飼料や乾草のほか八丈島の伝統的な飼料であるマグサ(八丈ススキ)・明日葉・カヤなどの島の草を食べて、のびのびと育ちます。

ここで飼っている牛は全部で約40頭。年間15頭前後の牛が誕生し、その一頭一頭にスタッフが考えた名前を付けています。

朝夕2回の搾乳の時間には、牛舎に牛たちを集めます。搾乳所にいるスタッフが名前を呼ぶと、1頭ずつみずから歩いて来てくれるのだとか。

・名称:ゆーゆー牧場
・住所:東京都八丈島八丈町三根5903-1
・地図:
・電話番号:04996-2-0024
・公式サイトURL:https://www.hachijo-milk.co.jp/stories

牧場から車で約10分、直営の『八丈島ジャージーカフェ』では、自家製ジャージー牛乳を使ったソフトクリームや島産素材のスイーツが味わえます。

「ジャージーミルクソフト」は、新鮮なミルクの風味を堪能しながらも、後味はさっぱり。暑い日にも寒い日にも、季節を問わず食べたくなるおいしさです。「島レモン&ブルーベリーチーズケーキ」は、爽やかなレモンマーマレードがアクセントに。チーズの酸味は控えめかつ癖のない味わいなので、子どもから大人まで楽しめるスイーツです。

・名称:八丈島ジャージーカフェ
・住所:東京都八丈島八丈町大賀郷2370-1
・地図:
・営業時間:10:00~17:00
・定休日:なし
・電話番号:04996-2-5922
・公式サイトURL:https://www.hachijo-milk.co.jp/jerseycafe
語られる想いに耳を傾け、日常の豊かさを見つめ直す旅

この旅で印象的だったのは、自然と調和しながら、今目の前にある豊かさを大切に生きる人々の姿でした。八丈島への想いを語るそのまなざしに心惹かれ、「またこの人たちに会いに、島に戻ってきたい」と思わせてくれます。自然と文化、暮らしがゆったりと重なり合う八丈島には、心に残る風景と時間がきっと待っています。
All photos by もろんのん
