自然とともに育まれた文化と歴史が息づく――東京の離島・新島へ
東京・竹芝から出発した船の窓から見える海がだんだんとコバルトブルーになっていくのと同時に、都心から離れて旅に出ているのだとワクワクしてきます。でも、実は目的地も私が住む街と同じ東京都。
今回の旅は東京の離島・新島(にいじま)。火山活動で生まれたこの島は、島民が自然を活かして暮らしてきたからこそ残る 、新島ならではの文化や歴史があります。
新島の人々が自然とともに生きてきた足跡を辿りながら、新島でしか味わえない唯一無二の魅力溢れるスポットを訪れていきます。
見出し
- 1自然とともに育まれた文化と歴史が息づく――東京の離島・新島へ
- 2青い海と白い砂浜。そして、旅のキーワード「コーガ石」
- 3新島村博物館で学ぶ、島の成り立ちと文化、生活
- 4「モヤイ」の意味は「助け合い」 。今も受け継ぐ島民の精神を表したモヤイ像
- 5水と石、風を感じながら新島親水公園でランチ
- 6オリーブグリーンが映える新島ガラスのコップでガラスアート体験
- 7昼は青い海と空、夜は星空が広がる24時間営業の湯の浜露天温泉
- 8旅の思い出を振り返りながらコーガ石に触れる工芸体験
- 9夕日の色は毎日違って見える。前浜海岸の夕焼けは特別な時間
- 10コーガ石で造られたアートモニュメント「光と風と波の塔」
- 11新島でしか味わえない、自然と人との共存で生まれた唯一無二の体験
青い海と白い砂浜。そして、旅のキーワード「コーガ石」
新島は東京から南へおよそ160kmの場所に位置し、船に揺られて2時間20分ほど(高速ジェット船の場合)で辿り着きます。
新島を体験するのに欠かせないものと言えば「コーガ石」。火山活動によって生まれた土地から採掘される石で、新島とイタリアのリパリ島でしか産出されないとても珍しい石です。新島を巡ると、コーガ石で作られた建物やオブジェを目にすることができます。
新島は海や山の自然だけでなく、コーガ石と島の人々が共存して、独自の文化と歴史を残してきました。
新島村博物館で学ぶ、島の成り立ちと文化、生活
旅のはじまりに、新島の歴史と文化を学びに「新島村博物館」へ。博物館の建物はコーガ石で建てられていて、外国の遺跡のような厳かな雰囲気が漂います。
新島村博物館は新島の自然と歴史、島の人々の暮らしの資料を集めた博物館です。館内には、島の方々から託された古文書や暮らしの道具など貴重な資料も展示されています。
新島に人が住み始めたのはなんと縄文時代から。展示では出土した石器や土器、遺跡を見ることができます。
コーガ石で建物が作られるようになったのは明治時代のころ。当時、大きな火事で家が燃えてしまうことがあり、火に強いコーガ石を使った家が建てられるようになったそうです。
島民の暮らしを知ることができる展示物も並んでいます。海に囲まれた新島は古くから漁業が盛んでした。網を使った漁法の一種である棒受網漁を、等身大でリアルに再現した模型は圧巻。
そのほかにも、島に伝わる郷土芸能や子どもあそびの展示や、サーフィンの世界大会が開催されるほど根付いているサーフィン文化を象徴する 、日本やハワイのサーファーが作ったサーフボードが展示されています。
「新島村博物館」のスタッフさんは「見どころは、島民が協力しながら生きてきた歴史を知ることができるところ。今も変わらず島全体が家族なんです。博物館では、新島の歴史や島民の暮らしの展示物を見て、島民が助け合って生きてきたことを感じてほしいです」と話してくれました。
離島だからこそ、生活物資や資源、人の手が限られているなかで、島の人たちが知恵を出し合い協力して暮らしていた歴史を知ることができました。
新島の成り立ちやこれまでの人々の暮らしが今の新島にどのように繋がっているのでしょうか。これから始まる旅でその答えを見つけていこうと思いました。
・名称:新島村博物館
・住所:東京都新島村本村2丁目36番3号
・地図:
・営業時間:9:00〜17:00(入館は16:30)
・定休日:月曜日(月曜日が国民の祝日にあたる場合は翌日)
・電話番号:04992-5-7070
・料金:大人300円、子ども150円
・公式サイトURL:https://niijima-info.jp/spot/2292/
「モヤイ」の意味は「助け合い」 。今も受け継ぐ島民の精神を表したモヤイ像
新島では海沿いを車で走っていると、人の顔をした石像「モヤイ像」をたくさん見かけます。怖い顔をしたものから、可愛い顔をしたものまで、その表情はさまざま。このモヤイ像たちは1964年の東京五輪後に観光誘致のためにコーガ石で作られたのだそう。
よく見ると、渋谷に行ったことがある人なら見たことがある「モヤイ像」にそっくり。新島村博物館で知りましたが、じつは渋谷のモヤイ像は新島から贈られたものなのです。「モヤイ像前に集合で」とよく友人と渋谷に集合していたけれど、まさかこんなところで新島と渋谷の縁を感じることができるとは、びっくりしました。
「モヤイ像」という名前は、イースター島の「モアイ像」をもじって名付けられたのではなく、島ことばの「モヤイ」=「助け合い」が由来なのだとか。厳しい自然環境のなかで、昔から島民が力を合わせて生活してきた島民の精神を「モヤイ」と呼んでいるのだそうです。
新島には100を超えるモヤイ像があります。ぜひ、お気に入りの表情のモヤイ像を探してみてください。
水と石、風を感じながら新島親水公園でランチ
今回の新島の旅は「コーガ石」がキーワード。新島の豊かな自然を感じ、コーガ石の建築物を楽しめる「新島親水公園」へ向かいました。
「水」と「石」をテーマにした新島親水公園には、コーガ石で作られた巨大なアーチ状のオブジェがそびえ立ち、コーガ石で積み上げられた石段から水が流れています。緑が覆い茂っていて、まるで古代遺跡が私たちを迎え入れてくれているようです。
水辺の前に立ち目を閉じ、水の流れる音を聞きながら、気持ちの良い風が通り抜けるのを肌で感じるひととき。
「離島」といえば、きれいな青い海を想像しますが、海とは別の心穏やかになるスポットが見つかるのも新島の楽しみ方の一つかもしれません。
ランチは新島親水公園内にある「れすとハウス」へ。コーガ石のオブジェを眺めながらご飯を楽しむことができます。
伊豆諸島が主な産地の「明日葉」や「島のり」を使ったメニューがたくさん。明日葉は「今日摘んでも、明日には新しい葉が生えてくる」ことから名付けられた葉っぱなのだとか。栄養価が高く、島の人々は日々の暮らしで昔から料理に使っているそうで、島民に愛される食材です。私は「明日葉と島のりの炒めライス」を注文しました。
ニンニクベースの炒めライスに、明日葉のほのかな苦味と島のりの磯の旨味が加わることで、さっぱりとして美味しかったです。
「新島クリームソーダ」は島の南側にある羽伏浦海岸の真っ青な海の色がモチーフに。甘くさわやかな味で、一気に飲み干してしまいました。
新島ならではの食と自然を味わえる、心穏やかになれる場所でした。
・名称:新島親水公園
・住所:東京都新島村瀬戸山120
・地図:
・れすとはうす 営業時間:11:00〜15:30(お盆期間中:10:00〜16:00/冬期11:00〜15:00)
・れすとはうす 電話番号:04992-5-1772
・公式サイトURL:https://www.instagram.com/niijima_rest8/
オリーブグリーンが映える新島ガラスのコップでガラスアート体験
コーガ石を原料として作られた「新島ガラス」は透き通ったオリーブグリーンが特徴。新島の特産品として親しまれています。
ガラスコップの絵付け体験教室に参加するため、新島ガラスを活用した作品制作や販売を行う「新島ガラスアートセンター」を訪れました。室内には新島ガラスの作品がズラリと並んでいました。ガラスの厚さや曲線によってオリーブグリーンの色にそれぞれ特徴があり、見ているだけでも心踊る空間でした。
絵付け体験教室では、新島ガラスで作られたコップにリューターという電動の削り機を使って、表面に模様を彫刻していきます。
爽やかなガラスの色味に合わせて、オリーブとレモンの絵を描くことに。コップに下書きをして、表面をリューターで削っていきます。はじめての経験で、力加減や動かし方に不安があり緊張しましたが、すぐに慣れてきて、集中して作業をすることができました。
完成品を光のあるところで、透かしてみると、オリーブグリーンのコップに模様がキレイに浮かび上がります。都心の雑貨屋さんを訪れてもなかなか出会うことのないオリーブグリーンのガラスコップ。旅の思い出が刻まれた特別なお土産になりました。
・名称:新島ガラスアートセンター
・住所:東京都新島村間々下海岸通り
・地図:
・営業時間:10:00〜12:00 / 13:00〜16:30
・ガラス教室開催時間:13:30 / 14:30 / 15:30(要電話予約)
・定休日:火曜日
・電話番号:04992-5-1540
・ガラスコップの絵付け体験 料金: 3,300円(税込)
・ガラスコップの絵付け体験 所要時間:40分
・公式サイトURL:https://www.niijimaglassartcenter.org/
昼は青い海と空、夜は星空が広がる24時間営業の湯の浜露天温泉
新島港に船がついて海の西側を見ると、高台に神殿のような建物が見えます。
コーガ石で作られた建物で、なんと24時間入れる温泉施設なんです。
「湯の浜露天温泉」は温泉に入りながら、波音に耳を澄まして、青い空と海を眺めることができる、地元の人にも愛される絶景スポットです。
日中はコバルトブルーの海を楽しみ、夕方は太陽が沈む水平線を眺めながら日没の時間を過ごす。夜は満天の星空の下で心ゆくまでお湯に浸れる。贅沢な温泉のひとときを心ゆくまで満喫できるスポットです。
・名称:湯の浜露天温泉
・住所:東京都新島村
・地図:
・営業時間:24時間営業(年中無休)
※メンテナンスなどでご利用いただけないこともあります(不定期)
・電話番号:04992-5-0284
・料金:温水シャワー100円/5分
・公式サイトURL:http://niijima-info.jp/spot/2390/
・注意事項:混浴の温泉ですので、水着着用でご入浴ください。
旅の思い出を振り返りながらコーガ石に触れる工芸体験
都心では目にすることのない「コーガ石」と共に歩んできた新島ならではの文化を体験した今回の旅。最後は、コーガ石に触れ、手で削る体験ができるということで、彫刻体験教室「石のこ」で石だんご作りをしました。
特別な道具は使わずに、石と石を合わせて削っていきます。
ガリガリガリ、ゴリゴリゴリ、ザラザラザラーー
石の質感や、石が削られていく音を体で感じながら、今回の旅を振り返り、コーガ石と新島の人たちの繋がりに思いを馳せます。
石だんごの丸みを調整していくと、あっという間にまん丸な形になっていきます。完成した石だんごを太陽にかざすとコーガ石の粒子がキラキラと輝いています。
石だんご作りを教えてくれた「石のこ」の店長・桐島甲宇さんは彫刻作家で、新島に観光で訪れたときにコーガ石に魅せられて、3年前に移住してきました。
今は体験教室の他に、コーガ石で作品を制作したり、コーガ石を未来に残していく活動をしています。
「この体験教室は島のイベントで出店したことがはじまり。手作りで小さいお子さんも楽しめて、島の人たちにとても好評だったんです。そこから、いろんなご縁が繋がり、観光客の方たちにも体験できるような教室を始めました。」と語る桐島さん。
「新島の人たちはみんな優しい。工房を始めるときも、コーガ石の加工に使う道具や、コーガ石の建物を壊したときの廃材を譲ってくれて、私の活動を応援してくれています。」
まさに島民の「モヤイ(助け合い)」の精神で、今もコーガ石の文化が残り続けていると感じるエピソードでした。
・名称:石彫体験教室 石のこ
・住所:新島村本村1-4-5 スタジオなかにわ地下
・地図:
・営業時間:ご都合に合わせて開始時間の調整可能
・定休日:平日(土、日、祝日のみの営業)
・定員:3名まで、11歳以上
・料金:コーガ石だんご作り(台座付き)/5,500円(税込)
・所要時間:60分
・公式サイトURL:https://r.goope.jp/ishinoko14/
・備考:予約や問い合わせは公式サイトをご確認ください
夕日の色は毎日違って見える。前浜海岸の夕焼けは特別な時間
桐島さんに新島の魅力を聞くと、「夕日がとにかくきれい。色が毎日違って見えて、とても魅力的です。仕事に疲れても夕日を見るだけで、疲れが吹き飛びます。」と答えてくれました。
私も日が沈む頃に島の北側にある前浜海岸へ、夕日を眺めに向かいました。
空が夕焼け色にどんどん変わっていき、海に反射する光もオレンジ色に染まっていきます。
ここが東京ということ、そして水平線の先に日本の本州があるということが信じられません。
夕日が見られるのは、たった30分ほどの短い時間。都心で働いてると、あっという間に過ぎてしまいます。でも、スマホをしまって、ただ夕日を見つめていると、時間がゆっくり流れているような、不思議な感覚になります。
この日の夕焼けの景色を見られるのは人生で一度きり。心の中にしっかりと残せるように、夕日を眺めながら大切な時間を過ごしました。
・名称:前浜海岸
・住所:東京都新島村本村2-4-8
・地図:
コーガ石で造られたアートモニュメント「光と風と波の塔」
帰りの船便を待つ間に港のすぐ西側にある「光と風と波の塔」へ向かいました。海風にも負けない力強い佇まいが特徴的なこの建物も、もちろんコーガ石でできています。
塔のテッペンまで登ると、左手の湯の浜露天温泉から、右手の前浜海岸まで海を辿って180度見渡すことができます。
新島の人たちがコーガ石を活かして建てたこの塔で、海や空、風、太陽の光を感じることができます。この日は初夏の晴天で、空と海が絵の具で塗ったような鮮やかな色をしていました。
・名称:光と風と波の塔
・住所:東京都新島村三郎浜
・地図:
新島でしか味わえない、自然と人との共存で生まれた唯一無二の体験
海と大地の恵みを活かし、助け合いの精神を大切に暮らしてきた新島の人たち。自然とともにある暮らしの中で育まれてきた文化や歴史は、都会で生きる私にとってどれも新鮮で、心に深く残る体験でした。
コーガ石を削ったときのザラリとした感触、コバルトブルーの海辺に立ったときの風の匂いと波の音、そして夕日が静かに沈んでいく光景——。新島でしか味わえない体験をするために、あなたも訪れてみてはいかがでしょうか。
All photos by 三浦えり