こんにちは、世界遺産ライターのコージーです。
日本に世界遺産がいくつあるかご存知ですか?
2022年7月現在、日本の世界遺産は計25件。これは世界で11番目に多い数です。北は北海道、南は沖縄まで、素敵な遺産がたくさんあるのです。
しかし、世界遺産と聞くと、つい海外に目を向けがちではないでしょうか?
国内の素晴らしい遺産の価値が十分に伝わっていないように感じます。そこで、世界遺産大好き芸人の僕が各地に足を運び、遺産の魅力をレポートする企画を始めます!
題して「世界遺産検定マイスター・コージーの世界遺産探検記」!
第1回は、1993年、日本で最初に登録された世界遺産4件のうちのひとつ、『姫路城』(兵庫県)を巡ってきました。
姫路駅の真正面に、姫路城
週のど真ん中、水曜日の午前8時40分。JR姫路駅は、通勤・通学の姫路市民であふれていた。
姫路城へはどちらの出口が近いのか、などと悩む必要はない。改札を出ると「姫路城口(北口)」の表示があるからだ。「北口(姫路城口)」ではなく、「姫路城口(北口)」という表記に、姫路城の存在の大きさを感じる。
無事に出口を出た1秒後、僕は息をのむ。真正面に、姫路城が見えたのだ。
駅から徒歩20分だからと、侮るなかれ。姫路駅を出てすぐに堂々とそびえる大天守が見えるのが、姫路城の魅力のひとつだ。
前方に姫路城を拝みながら、大手前通りを進む。駅から少し離れると、人通りはまばらになり、一段と静かになる。
一方で、鼓動は高鳴る。一歩、また一歩と踏み出すたび、姫路城の姿が大きくなっていく。
もうひとつ、テンションが高い理由がある。僕が歩いているこの通りは、姫路城のバッファー・ゾーンに指定されているのだ。
バッファー・ゾーンとは
世界遺産を登録する際、遺産そのものの範囲(プロパティ)の周りに、町の開発などが制限されるバッファー・ゾーンが設定される。
バッファー・ゾーンは世界遺産を保護するうえで、重要な役割を果たす。
たとえば、駅から姫路城までの大通りに高層ビルが建設されたら、姫路城の景観は大きく損なわれてしまう。そうしたことが起きないよう、バッファー・ゾーンが決められている。
世界遺産を守ること。それは、姫路城だけを保護すればいいという話ではなく、周囲の環境も含めて守っていくことなのだ。
「今、自分は姫路城のバッファー・ゾーンを歩いている」。そんな緊張感を持ちながら進むと、あるものを見つけた。
「世界遺産 姫路城」のマンホール。これは、アガる!
そして、あっという間に、姫路城の前に到着した。
日本木造城郭建築の最高傑作
日本に現存する最大の城郭建築で、最高傑作とされる姫路城。その起源は1333年に赤松則村が築いた砦であると伝えられている。
16世紀末、羽柴(豊臣)秀吉が毛利氏との戦いに備えて、3層の天守閣を建設。さらに1600年の関ヶ原の戦いの後、城主となった池田輝政が大改修を行い、外観5層の大天守を築くなど現在の姿へと整えられた。
歴史の荒波をくぐりぬけ、400年以上にわたって、その美しさで人々を魅了し続けてきた世界遺産が、目の前にある。いよいよ、入城だ。
時刻は午前9時15分。小学校低学年くらいの息子2人を連れているお母さんの声が聞こえた。
「今日は姫路城のためだけに来たんだからね。ゆっくり見ていこう」
同志だ。こちらも負けるわけにはいかない。姫路城の魅力を味わい尽くしてやろうじゃないか。
入城して、最初に現れたのが菱の門。
城内に21ある門のうち最も大きく、安土桃山時代の優雅な雰囲気が感じられる門だ。
訪れる数日前までは、改装工事中だったらしい。完全にツイている。
そして、この景色だ。
美しい。すでに、入城料金1000円の元をとった気がする。
難攻不落。姫路城の秘密
城内を突き進むと、姫路城の秘密が徐々に明らかになっていく。
外観の美しさに加えて、難攻不落の砦としての高度な実用性を兼ね備えているのが姫路城の魅力。防衛のための工夫が随所に見られる。
まずは、狭間(さま)。
侵入者を見張り、矢や鉄砲で攻撃するための穴のこと。丸や三角、正方形に長方形といろんな形があり、その数は全部で997。城内の壁や塀のいたるところに見られる。
この隙間から敵を狙って、矢を放つ。想像するだけで、息がつまりそうになる。
続いて、見えたのが「扇の勾配」だ。
開いた扇の曲線のように、上にいくほど反り上がるつくりの石垣。敵兵を簡単に登らせないための美しきカーブだ。
天守閣に辿り着かせないように、門にも防衛の仕掛けが施されている。
人ひとりがやっと入れるほどの「るの門」。正規の通路から外れた位置にあり、天守への抜け道として使われていた。
菱の門からは見えないつくりとなっており、るの門に隠れて、侵入してきた敵兵を背後から襲うのだという。万が一、門の存在を敵に気付かれたときには、石垣を崩して門を塞ぐこともできる。
敵からすると恐ろしい。もしも江戸時代に生きていたら、姫路城だけは攻めたくないな。
ふと我に返ると、自分の居場所が分からなくなっていた。ここは、どこだ?
あっちこっちと曲がっている間に、道を見失ったかもしれない。
5層7階建ての大天守
姫路城は敵を惑わすため、複数の門や折れ曲がりが設計されている。迷路のような通路をなんとか突破し、大天守にたどり着いた。
天守閣の中は土足禁止。靴を脱いで、見学する。
天守内部にも、戦いに備えた様々な仕掛けがあった。大天守には多くの武具掛けがあり、天守が武器倉庫としての役割を果たしていたことがよく分かる。
気が付けば、前も後ろも修学旅行生だらけになっていた。彼らは軽やかに階段を上がっていく。
大天守は地下1階から6階までの7階建て。階段は思いの外、急だ。でも中学生に負けてはいられない。涼しい顔を装い、最上階まで上がる。
6階には長壁神社があり、姫路城が築かれている姫山の地主神が祀られている。
窓から顔を出すと、姫路の市街地が見えた。
真ん中から奥に向かって伸びているのが大手前通りで、その先には姫路駅。
あぁ、頬に当たる風が心地よい。この時間がずっと続けばいいのに……
圧倒的な美しさを誇る「白鷺城」
天守内を見学し、歴史に思いをはせると、姫路城へのリスペクトがよりいっそう高まっていく。
白く輝く大天守の美しさは、圧倒的としか言いようがない。
別名「白鷺城(しらさぎじょう、はくろじょう)」と呼ばれる姫路城は、白漆喰総塗籠(しろしっくいそうぬりごめ)という工法で建築されている。石灰を主原料とする漆喰で木地が見えないように何度も塗り重ねることで、火災から城を守ってきた。
1956年からの「昭和の大修理」では天守閣の解体修理を実施。2009〜2015年にかけての「平成の大修理」では、屋根瓦の葺き直しや漆喰壁の塗り替えなどが行われた。
日本の世界文化遺産第1号で、国宝にも指定されている姫路城。その美しい姿を僕たちが見られるのは、奇跡と言ってもいい。
1615年の一国一城令や明治維新の際の廃城令、さらに第二次世界大戦など幾度の危機を乗り越えてきた。世界的にも類のない木造建築は、数えきれないほど多くの人々によって、現代へと受け継がれてきたのだ。
美しき姫路城を守り、未来へと伝えていく。その役割を担うのは、今を生きる僕たちだ。
・名称:姫路城
・住所:兵庫県姫路市本町68番地
・地図:
・アクセス:神姫バス:「大手門前」下車徒歩約5分 /JR姫路駅、山陽姫路駅から徒歩20分
・営業時間:9時〜17時(入城は16時まで。夏季は1時間延長)
・定休日:12月29日、30日
・電話番号:079-285-1146
・料金:大人1,000円、小人300円
・公式サイトURL:https://www.city.himeji.lg.jp/castle/
All photos by Koji Okamura