こんにちは、世界遺産ライターのコージーです。
ようやくコロナ禍が明け、海外旅行ができる雰囲気になってきたと感じます。「そろそろ海外旅行に行きたい!」と考えている方も多いのではないでしょうか?
今回の世界遺産探検記は、ベトナムからお届けします。
ベトナム中部にある2つの古都、ホイアンとフエを巡ってきました。
最盛期には1000人の日本人
ベトナム中部最大の都市で、リゾート地としても人気が高いダナンからバイクタクシーで約40分。世界遺産の街ホイアンへやってきた。
ホイアンは15〜19世紀にかけて、アジアとヨーロッパを結ぶ交易の中継地点として栄えた港町。
江戸時代初期には朱印船貿易によって日本の商人たちが移り住み、日本人町が造られた。最盛期には1000人以上の日本人が暮らしていたようだ。
当時の面影を残すのが、この「日本橋」。正式名称は来遠橋だが、日本の商人たちが建てたことから「日本橋」と呼ばれている。
木造の屋根付きの橋の中には、小さな寺もある。ホイアンを象徴する存在でもある日本橋の周辺は、多くの観光客で賑わっていた。
ああ、この街が好きだ。そう思ったのは、川を見た瞬間だった。
ホイアンの街にはトゥボン川が流れている。穏やかな川にボートが浮かぶ、この光景はずっと見ていたい。
世界遺産登録名に注目
ホイアンは1999年に「古都ホイアン」として世界文化遺産に登録された。とはいえ、ここにはパリのエッフェル塔やカンボジアのアンコール・ワットのような分かりやすい観光スポットはない。
むしろ、それこそがホイアンの魅力だといえる。
「ここは絶対に行かなきゃ」「あそこも見学しないと」などと身構える必要はない。
ホイアンの観光は、ただ街を歩くだけでいい。どこか懐かしい雰囲気が漂う街を歩き、気になった場所があれば、のぞいてみる。それが面白い。
なぜ街歩きが楽しいのか。そのヒントは、世界遺産の登録名に隠されている。
登録名は「古都ホイアン」。この登録名から、ホイアンの街全体が遺産として評価されていることが分かる。
たとえば、同じく古都で前回の探検記でレポートした奈良は「古都奈良の文化財」という名前で世界遺産登録されている。
奈良で世界遺産に登録されているのは、東大寺や薬師寺などの8資産。街自体は世界遺産にはなっていない。
一方、特定の建物だけではなく街全体が世界遺産となっているのが、ホイアン。街に高層ビルなど景観を損ねる建築物がなく、中世の街並みが現存している。
現在残っている建造物の多くは17世紀頃、海洋貿易で富を築いた商人たちによって建てられたものだ。
ホイアンの街の建物はほとんどが黄色で統一されている。街全体が17世紀のようで、一体感があるため、歩くだけで楽しいのだ。
建築様式は、中国とベトナムの様式が融合したもの。日本の鎖国政策で日本人が去った後、多くの華僑が移り住んだことから、中国の影響を多く受けているのだという。
街歩きに疲れたので、少々休憩。
カフェ「The Espresso Station」に入ってみる。カフェの建物ももちろん黄色だ。
ベトナム名物エッグコーヒーをいただく。暑さにやられた体に、ほどよい甘さがしみる。
ホイアンにはオシャレなカフェが多い。街歩きに疲れたらすぐにカフェに入れるのも、この街の魅力だ。
一段と輝きを増すホイアンの夜
この街は夜になると、一段と輝きを増す。名物のランタンの光が街を照らすからだ。
ホイアンへはダナンから日帰りで訪れる観光客が多いようだが、ホイアンの夜を満喫するために、ぜひとも1泊はしたいところだ。
日本橋も、昼とは違った趣がある。
日が暮れ始める頃から、ホイアンはいっそう賑やかさを増す。川には多くのボートが浮かび、歩道には多くの観光客が行き交う。
それほどたくさんの人を魅了する理由が、よく分かる。この街は、思わずシャッターを切りたくなるような景色であふれているのだ。
ボートに乗って川に流されるのもよし、川岸からこの光景を眺めるのもよし。
こうして一人、川を眺めていると、色んなことが思い起こされる。
2015年、タイ留学がきっかけで海外旅にハマった。バックパックを背負い、東南アジアやヨーロッパを巡るようになった。
2018年、大学の卒業旅行でモロッコと南欧を旅した。社会人になったらもう旅できないだろうと思った。
2019年、旅をあきらめきれず、会社をやめて世界一周することを決意した。しかし2020年、新型コロナウイルスで世界との距離は一気に遠くなった。もう海外には行けないかもしれない、と絶望した日もあった。
それでも、その日はきた。2023年、ついに世界一周へ出発。再び旅できる日がやってきた。
世界一周が終わったら、また必ず戻ってきたい。ホイアンは自分にとって、そんな街になった。
紫禁城を模した阮朝王宮
ホイアンから北へ約120キロ。2つ目の古都、フエへ。
フエはベトナム最後の王朝・阮朝(グエン朝)の都が置かれた街。点在する皇帝の陵墓などが「フエの歴史的建造物群」として1993年、ベトナム初の世界遺産に登録された。
その中でも最大の見どころは、なんといっても阮朝王宮。中国の紫禁城の4分の3の縮尺でつくられたと言われる。
入り口にあたる王宮門は石造りでできている。
ベトナムらしい喧騒はなく、厳かな雰囲気が漂う。
背筋を伸ばし、門をくぐる。
阮朝は1802年〜1945年の143年間、13代にわたって政権の座に就いていた。
王宮内の建物の多くはベトナム戦争が行われていた1968年に破壊されたが、その後、修復された。
フエはホイアンのように、街全体が世界遺産に登録されているわけではない。そのため、王宮をはじめとする阮朝ゆかりの建造物を堪能するのがおすすめだ。
王朝時代にタイムスリップ!?
阮朝王宮は東西620m、南北640m、高さ7mの城壁に囲まれている。敷地面積は約3.6㎢。紫禁城より小さいとはいえ、かなりの広さだ。
広大な敷地をもつ王宮は、フエの街とは全く違う雰囲気を放つ。
あたりを見回せば、観光客はいる。しかし、まるで自分しかいないような静けさ。気品ある王宮に1人、迷い込んだかのようだ。
今回はベトナム中部にある2つの古都を巡った。
賑やかなホイアンと厳かなフエ。どちらにも良さがあった。2つの遺産を続けて訪れたからこそ、それぞれの特徴が鮮明に見えてきた。
これからもたくさんの遺産を訪れ、世界各地の街や文化の魅力を感じていきたい。
All photos by Koji Okamura