ライター

福島県出身で1990年生まれ。70カ国以上を旅するほどの旅好き。コロナ禍では国内を巡り、世界遺産検定マイスターに合格しNPO法人世界遺産アカデミー認定講師に就任。IT系広告代理店で広告運用コンサルタントとして働きながら、小笠原諸島のアンバサダーとしての活動も行う。

「世界遺産」

世界を旅するときに、旅先で見たいものの一つになることも多いのではないでしょうか。

いまでは「世界遺産」はテレビや雑誌などのメディアに取り上げられることも多く、日本国内でも京都や富士山など、実際に現地に訪れて「世界遺産」をその目で見たことがある方も多いのではないでしょうか。

私自身も世界遺産を目的に旅をすることが多いのですが、

そもそも世界遺産ってなんなの?
なんで世界遺産って誕生したの?

といった、概念的なところはもちろん、世界遺産誕生のきっかけとなったエジプト、ヌビア地方を先日訪れてみての感想を、「旅人」×「世界遺産アカデミー認定講師」目線でお伝えしていきます。

会議で審議が通ったものだけが選ばれる「世界遺産」

2025年2月現在、世界遺産は全部で1,223件あり、その数は毎年行われる会議で審議された後に増えていっています。

大きく3種類の世界遺産があります。


その中で、日本が保有している世界遺産の内訳は記載のとおりで、北は北海道から南は沖縄まで全国に分布しています。


直近でいうと2024年の7月に、日本で26番目に世界遺産登録された佐渡金山が一番新しく、ニュース等にも取り上げられていたので、ご存知の人も多いのではないでしょうか?

そもそも世界遺産とは?

「世界遺産」と聞くとどのようなものをイメージしますか?

ペルーのマチュピチュはインカ帝国の遺跡
奈良の東大寺の大仏は修学旅行などで訪れた人も多いのでは?
チリのイースター島にあるモアイ像はまだまだ謎が多い
代表的な世界遺産を見て「美しい」「壮大だ」「歴史が古い」などのイメージをお持ちの方も多いはず。

しかし、世の中には「え、これが世界遺産?!」と思われるようなあまり知られていない世界遺産も存在しています。

世界遺産とは「顕著な普遍的価値がある」ものを指します。

つまり「全人類にとって価値のあるもので、未来に残していかなくてはいけない大切な宝物」となります。

そのため、一見すると華やかではないものの、その存在に「価値がある」と認められたものが世界遺産として登録されるのです。

モロッコのアイット・ベン・ハドゥには歴史や文化を守りながら住んでいる人々がいる

エジプトの歴史建造物を残すために始まった国際キャンペーン

ナイル川が流れるエジプト南部では、度々ナイル川が氾濫し、人々の生活を脅かしていました。

そのため1954年に国家プロジェクトとして巨大なダム(アスワン・ハイ・ダム)を建設することが決まったのですが、ナイル川沿岸にある歴史的な建造物群もダムの底に沈んでしまうことが懸念されていました。

現在のアスワン・ハイ・ダムは観光地の一つになっている
そこに目をつけたのが、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)でした。歴史的価値のあるヌビア地方の遺跡群を残すため、1960年、各国に支援金を依頼する国際的な「ヌビアの遺跡群救済キャンペーン」を開催しました。

アスワンにあるヌビア博物館にはユネスコの国際キャンペーンについての展示がある
その結果、50カ国以上の国が援助を行い、ダムの底に沈む危険のあった遺跡はすべて切り出され、安全な場所に避難。移設プロジェクトは成功したため、私達は現在もその遺跡達を見ることができているのです。

この世界中が協力し「人類共通で価値のある遺産を後世に残していく」ということが世界遺産誕生のきっかけとなりました。そして世界遺産が誕生して50年以上がたつ今日までに1,223件が世界遺産登録され増え続けているのです。

古代の人が建て、現在の人が移設し残した「アブ・シンベル神殿」

この世界遺産誕生のきっかけとなった、国際キャンペーンで一番有名な建造物が「アブ・シンベル神殿」です。

4体の像はすべてラムセス2世とのことでナルシストだったとも言われている
紀元前1260年頃、当時のファラオ(王)ラムセス2世が建設した岩窟神殿で、スーダンとの国境近くにあります。

この遺跡の外部~内部すべてを、手作業でブロック上に切り出して、65m上の高台までそっくりそのまま避難させたのです。よく見ると切り込みの跡もよくわかります。

切り口は2mmほどに抑えたようです
プロジェクトは約5年の月日がかかったと言います。プロジェクトの後半には迫りくるナイルの水に浸かりながら作業を行っていたんだとか。

そんなこともよく分かる展示施設もあります。

当時の写真が残っており、私はじっくり見学しました
「アブ・シンベル神殿」は幅約38m、高さ約33m。いざ目の前に大神殿の前に立つと、その大きさや移設にかかった年月を考えると、人々の苦労や、50カ国以上の国々が協力し成功したという事実と世界平和の大切さを感じうることができました。

内部の像や壁画もすべて切り出して移築しました

■詳細情報
・名称:アブ・シンベル神殿
・住所:〒1211501 Aswan Governorate, Abu Simbel
・地図:
・営業時間:5時00分~18時00分
・定休日:-
・電話番号:+20222617304
・公式サイトURL:https://egymonuments.gov.eg/en/archaeological-sites/abu-simbel

「守り、伝えていく」人類共通の宝物

この「ヌビアの遺跡群救済キャンペーン」による移設プロジェクトによって「アブ・シンベル神殿」だけではなく、「フィエラ神殿(イシス神殿)」、「カラブシャ神殿」など、ヌビア地方にある様々な歴史的価値のある遺跡達が移築され、今日まで残っていることで歴史を現代に生きる私たちに伝え続けてくれています。

世界各国が「守り、伝えていく」ということに同意し、支援したことで成し遂げられたことなのです。

アスワンにあるフィエラ神殿(イシス神殿)もすべて切り出して移築されました
世界遺産に認定されることで知名度が上がり、観光収益があがるといったメリットがある一方で、近年問題になっているのは観光客によるごみ問題や、人々が押し寄せすぎてキャパオーバーとなるオーバーツーリズムなどです。

ラムセス2世の功績が分かる壁画もとても美しい
とはいえ、世界遺産は「後世に語り継がないといけない人類共通の宝物」です。

ぜひ現地に訪れて、ルールを守って歴史的価値や事実を学んでみてください。そして、かけがえのない「人類共通の宝物」を身体全体で感じていただき、その感じたことをご自身の生活や生き方、思想にも活かしてください。

All photos by Tamami Mizunoya

ライター

福島県出身で1990年生まれ。70カ国以上を旅するほどの旅好き。コロナ禍では国内を巡り、世界遺産検定マイスターに合格しNPO法人世界遺産アカデミー認定講師に就任。IT系広告代理店で広告運用コンサルタントとして働きながら、小笠原諸島のアンバサダーとしての活動も行う。

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