モンゴルといえば、果てなく広がる大草原をイメージされると思います。しかし今回私が訪れたのは、モンゴルの北西部ロシアとの国境近くにある針葉樹林地帯。そこは“タイガの森”と呼ばれ、トナカイと共に生きる遊牧民たちが住んでいます。
馬、ロバ、ラクダ。人々は古来より様々な動物を家畜化し、移動手段としても用いてきました。しかしトナカイを家畜化して、遊牧しながら暮らす人々に出会ったのは初めてでした。
ツァータン(トナカイを飼う人々)とは
photo by Tomoya Yamauchi
ツァータンは、もともとトヴァ共和国に居住していたトヴァ民族の人々。ツァータンとは決して民族の名前ではなく、モンゴル語でトナカイを飼う人々という意味です。
トヴァ人たちは、モンゴルがソビエト連邦の影響により社会主義化する以前より、トナカイを飼いながら狩猟採集生活を営んできました。しかし1932年にモンゴルと当時のトヴァ人民共和国間で国境が決められ、モンゴル側に残された人々がツァータンと呼ばれる人々なのです。
彼らの住む地域は、現在のモンゴルの北西部ロシアとの国境近くにある針葉樹林地帯「タイガ」と呼ばれるエリアです。今ではごく少数の家族のみとなりましたが、彼らは今でもトナカイと共に季節に合わせて移動しながら暮らしています。
たまたま私がツァガヌール湖の近くで滞在していたとき、ホームステイ先の家族が彼らとのコネクションを持っており、彼らを訪れるチャンスがやってきたのです。
ホーストレッキングでトナカイの民に会いに
photo by Tomoya Yamauchi
私はしばらくの間、ツァガヌールという地域にホームステイしながら滞在していました。そんなある日、家族と夕食を食べていると、ホスト家族のエカが「明日からツァータンの人々に会いに行かないか?」と誘ってきたのです。
ツァータンの人々を訪れるのは、ツァガヌールからでも簡単ではありません。馬に乗って1泊2日かけて、ようやく彼らのもとに辿り着くことができます。
私とエカは数日間の食料を買い込み、乗馬用の馬2頭と荷物用の馬1頭の計3頭を準備しました。ツァガヌールに小さいショップがあり、大抵のものはそこで揃えることができます。
photo by Tomoya Yamauchi
本格的なホーストレッキングは初めてだったので、案内役のエカに荷物用の馬を任せます。こちらは好き勝手に草を食べたり、おしっこしたり、自由奔放な馬のコントロールに必死。
馬のコントロールに必死な私とは反対に、途中で会うモンゴルの人々は馬にサドルをつけることもなく、そのまま馬の背中に乗っています。さすが遊牧民です。
photo by Tomoya Yamauchi
1日目は、きれいな川の流れる場所で1泊。まだ9月なのですが、夜になるとかなり寒いです。準備してきた2つの寝袋を重ねて眠りにつきました。
2日目のホーストレッキングは1日目よりハードでした。地面が湿原のようにぐちょぐちょになっています。これは馬でしか来れないわけです。歩いたら足がずぼっと泥にはまって抜けないでしょう。
馬も歩きにくそうで、突然泥の深みにはまって飛び跳ねたり、川を越えるのを怖がったりして、コントロールするのが大変でした。エカのように「チョー!」と叫び、馬の腹を足で蹴り「進むんだ!」と合図を送ります。
ホーストレッキングはただ乗馬しているだけかと思っていましたが、意外と体力が必要です。後半はもうお尻がパンパンになり、ひざはガクガクになっていました。
photo by Tomoya Yamauchi
しかし秋の森は黄色く赤く染まって美しく、そんな苦労も気になりません。休憩中は自然のベリーを拾って食べながら、少しずつ進んでいきます。
そんな森林地帯の中を歩いていると、前方に馬に乗った人の姿が見えてくる。あれ?よく見たら馬ではなくて、トナカイに乗っています!
photo by Tomoya Yamauchi
しかも小さな子どもがトナカイを巧みに操っている。一方のお母さんは赤ちゃんを抱えながらトナカイに乗っています。
エカが何やら彼らと話し込み、どうやら数日間彼らの家にお邪魔することになるようです。
ツァータンのオルツにホームステイし、一緒に住んでみる
photo by Tomoya Yamauchi
モンゴルと言えば丸い円形の形をしたゲルが有名ですが、彼らはオルツと呼ばれる木を組み合わせて作った骨組みに、厚手の布を張って巻きつけた移動式住居に住んでいます。
彼らはオルツの中に私のために寝床を用意してくれ、数日間一緒に寝食を共にしました。彼らのオルツは小さなソーラーパネルで電力をまかない、中央には薪ストーブがあります。中には小さなテレビもあり、子どもたちはアニメを楽しみに見ていました。
シャワーやトイレなどはありません。全て自然の中で行います。オルツは簡単な作りで、すごく寒いのではないかと思われるかもしれませんが、ストーブに火をくべると、一気に温かくなります。
しかし夜中になって火が消えると、さすがに凍えるほどの寒さです。冬になると-30度にもなるこの地域で、どのように防寒対策をしているのだろう。
photo by Tomoya Yamauchi
ツァータンの暮らし方は、トナカイ飼育と狩猟採集です。トナカイは柵の中で飼育されていますが、毎朝放牧され、夕方になると戻ってきます。
放牧するときに、彼らはトナカイの足を軽く縛り歩かせていました。移動の自由を制限し、コントロールしやすくするためでしょうか?
photo by Tomoya Yamauchi
トナカイの角は、漢方薬としても利用される貴重なものだそう。その肉やミルクはもちろん、毛皮は衣料品や靴などに利用されます。そしてトナカイは移動手段としても欠かせません。