ライター
小林邦宏 旅するビジネスマン

月に1回世界一周する“旅するビジネスマン”。1977年東京都出身。大手総合商社を経て、2005年に株式会社グリーンパックス設立。これまでに訪問した国は100カ国以上。現在も、50か国程度と取引をしている。大企業が手掛けないようなニッチなビジネスを得意とし、眠っているビジネスの種を探して日々世界を飛び回る。世界の花屋チーフバイヤーとしてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』・NHK「あさイチ」など、テレビ・ラジオ出演多数。 著書『なぜ僕はケニアのバラを輸入したのか』(幻冬舎)

こんにちは。小林邦宏です。私の自己紹介は「毎月1回世界一周をしながら働く、旅するビジネスマンの生き方とは!?」からご覧ください。

今回は、東南アジア・タイのお話を取り上げてみたいと思います。

祈りの文化があるタイは、お供え花・蘭の生産地

”微笑みの国”として知られるタイ。僕もそうですが、この国にハマる日本人が多いことは周知の通り。美しくもありながら、どこかで昔ながらの”アジアの臭い”を感じさせる場所だと思います。

”時間の交差点”ともいうべき、いろいろな表情を持っているところに沢山の人が惹かれるのだと思います。そんなタイ、実はお花を通じて日本とも深く繋がっていること、ご存知でしたか?

日本の仏花・お供え花の世界で欠かせないお花の一つが蘭。英語でいうとOrchid(オーキッド)です。その蘭を、日本が最も輸入している国が、タイなのです。

例を挙げれば、デンファレ(デンドロビューム)、モカラ、バンダなど… 名前を耳にされたことがある方もいらっしゃると思います。

仏教文化とともに発展したタイの花産業

では、タイは輸出するために蘭を育てているのでしょうか?

首都バンコクにある花市場、パククローン市場(Pak Khlong Talat)へ足を運んでみると、その答えを見つけることができるでしょう。

市場を歩いていると、お祈りに使う蘭を多数見かけます。

敬虔な仏教国であるタイ。今でも、お花とは祈りを捧げるために欠かせないものであり、この”祈りの文化”の中心にいるのが蘭なのです。言い方を変えると、タイにおいて、お花は仏教文化と共に歩んできたわけです。

11月頃のロイ・クラトン祭り(Loy Kratong)は、水の神への感謝の祈りを捧げるお祭りとして有名です。

ここでの主役が、デンファレをはじめとするタイの蘭の花々。蓮やバナナの幹などを土台に、蘭を飾って川へ流すのです。

特に夜、ロウソクの灯りが付いた花で川が包まれる様子は、なんとも幻想的で、タイの歴史・美しさを感じるひと時です。

タイでは珍しく涼しい高原地帯・カオヤイ

さて、そんなタイを代表する蘭がデンファレ(デンドロビウム)。上述の通り、タイから日本へもたくさんのデンファレが輸出されています。

デンファレのほとんどは、バンコク南部のサムサコーン県(Samut Sakhon)など、タイランド湾に面した場所で栽培されているのですが、今回ご紹介する産地は、バンコクから北東に車で3時間ほどの高原地帯・カオヤイ(Khao Yai)です。

世界自然遺産にも指定されたカオヤイ国立公園としても有名な場所ですね。近年、気候変動もあり、タイの平均気温は年々上昇しています。

そんな中で注目されているエリアが高原地帯であるカオヤイ。特に朝晩の涼しさは、バンコクに慣れた方なら新鮮な驚きを得られるかもしれません。本当に快適!

そのため、バンコクの富裕層の中には、カオヤイに別荘を持ち、週末はこちらで過ごす人が年々増えてきています。

まもなく、バンコクの玄関口、スヴァンナブーム国際空港からの高速道路も開通するほどの注目スポット。少し余談になりますが、富裕層の住宅エリアには、ピサの斜塔も…(笑)。

そんなカオヤイは、実はお花の世界でも注目のスポットなのです。

カオヤイで唯一、デンファレを生産するナタポンさんの農園

タイを代表するデンファレの生産者が、パニーダ・サングタイさん・ナタポン・サングタイさん親子。

カオヤイで唯一、デンファレを栽培する生産者さんで、日本の花屋でも”カオヤイのデンファレ”はとても有名です。デンファレを必要とする多くのお花屋さんにとって、ファーストチョイスになっていると言っても過言ではありません。

ナタポンさんのカオヤイ農園は立地的には海抜350mと、海抜がほぼ0mのバンコク地区から比べると、かなりの高原地帯となります。

山からの良質な水、さわやかな風、安定した気候と、ここはタイの中でも、飛び抜けてデンファレの栽培に適した場所なのです。

実際、カオヤイ農園の裏には、透き通るほどきれいな川が流れ、耳をすませば水の音、鳥のせせらぎが聞こえてきますし、もちろん、そんな川で暮らすたくさんの魚たちも見ることができます。少し高原地帯になりますから、気温も少し低めです。

ところで、首都バンコクには、3つの季節があると言われているのですが、ご存知ですか? 暑い時期、超暑い時期、熱い時期、の3つです(笑)。

デンファレなどの蘭は、トロピカルな気候を好むことをご存知な方も多いかと思いますが、上述の気候変動もあり、さすがにバンコク近郊はちょっと暑すぎるのです。

でも、ここカオヤイは、特に11月から2月にかけては、朝晩は10-17度、日中でも25-30度と、まさに蘭が好む温度帯なのです。

この環境が、抜群の品質のデンファレを生み出してくれるのです。みなさんのお手元で比較すれば一目瞭然。茎が太く大輪であるカオヤイ農園のデンファレは驚くほど長持ちです。

生命力が違うと言えます。そんな素晴らしいデンファレを生み出してくれるパニーダさん・ナタポンさん親子。お2人にお目にかかると、カオヤイのデンファレを永く届けていきたいという強い想いを感じます。

愛する人の名前を付けた、特別なデンファレを開発

そんな想いを象徴するお花を最後にご紹介しましょう。ナタポンさんには、8歳と7歳になる二人の可愛い娘さんがいます。上の子がRerin(レイリン)、下の子がNarin(ナリン)。

普段はバンコクで生活していますが、休暇に入ると、お子さんたちもカオヤイ農園で花を愛でていらっしゃるのだとか。数年前、カオヤイ農園では2つの新たな品種のデンファレの開発に成功しました。

その時、パニーダさん・ナタポンさんに迷いはありませんでした。「彼女たちの名前を付けて、想いを受け継いでいこう」と。

そこで、1つの品種を”Lady Rerin”(レディ・レイリン)、もう一つを”Princess Narin”(プリンセス・ナリン)と名付けたのです。Lady Rerinは、薄いピンク色を帯びたデンファレ。

Princess Narinは、ピーチ色のデンファレ。

共に、世界中で唯一、カオヤイ農園でのみ栽培されている品種です。

もし、機会があれば手に取ってみてほしいと思います。みなさんのお手元で、カオヤイ農園、そして3世代にわたるパニーダさん一家の蘭にかける情熱の息吹が伝わるはずです。

タイの”祈りの文化”に寄り添うお花たち。そんなお花1本1本にも、タイの人々の愛があふれています。

みなさんが今度タイを旅された時、そんな気持ちでぜひお花を眺めてみてほしいです。きっと、ますますタイが好きになるはずです。

では、今回はこの辺で。次回もお楽しみに!

All photos by Kunihiro Kobayashi

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月に1回世界一周する“旅するビジネスマン”。1977年東京都出身。大手総合商社を経て、2005年に株式会社グリーンパックス設立。これまでに訪問した国は100カ国以上。現在も、50か国程度と取引をしている。大企業が手掛けないようなニッチなビジネスを得意とし、眠っているビジネスの種を探して日々世界を飛び回る。世界の花屋チーフバイヤーとしてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』・NHK「あさイチ」など、テレビ・ラジオ出演多数。 著書『なぜ僕はケニアのバラを輸入したのか』(幻冬舎)

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