登山ツーリングの3つの魅力
以上の経緯から、すっかり「登山ツーリング」に魅せられてしまった私。今では、このセットが揃っていない人生など考えられません。それほどに自分の旅の核となっています。
そこで次に、「登山ツーリング」の魅力を掘り下げてみたいと思います。キーワードは、線としての旅と、報われる瞬間、そしてもったいない精神の3つ。自転車と登山を組み合わせることで、片方だけではカバーし得ない旅のカタチが完成します。
線としての旅
「登山ツーリング」のいちばんの魅力とは、旅がひとつながりになること、ではないかと思います。交通機関を使えば、登山口までの移動は単なる“作業”でしかないのですが、自転車に乗れば移動も旅のメインイベントに!
駅や空港といった山への玄関口に着いた瞬間から、その先すべてが自分の旅。いわばサラリーマンに許される数日間の休日を、余すことなく自分の旅へと変換できるのです。
また日本の国土面積の3分の2は山地。日本を深く理解しようと思えば、ここに足を踏み入れない手はありません。オンロードとオフロードを自由に切り替えられる旅は、旅の可能性を飛躍的に広げてくれます。
報われる瞬間
旅の全行程を自力で移動するのが、前提にある「登山ツーリング」。時には数日間かけて何百キロメートルも走り、その過程で登山も行います。これはなかなか過酷です。体力も必要ですし、最後は気力がものを言うこともしばしば。
しかし、その挑戦や苦労が報われる瞬間が必ず訪れます。脳裏に焼きついて離れない景色に出会うのです。その言葉にできない感動を求めて、旅をしていると言っても過言ではありません。
またここには、マゾヒスティックな側面も。登りでは自転車と徒歩で少しずつ標高を稼ぎますが、下山をする際、自転車に乗り換えた瞬間、蓄積された位置エネルギーが一気に解放されます。
何時間もかけて稼いだ標高差が、流れる景色とともに、ものの数十分でゼロになる。積み上げたものを自分で無にする、積み木崩しのような快感があります。
もったいない精神
実は会社員となって、登山ツーリングに傾倒した理由の一つに「もったいない」という精神があります。学生の頃とは異なり、趣味を楽しめる時間にも制約があり、長期連休くらいしか自由に遠出できるチャンスはありません。
だからこそ、せっかく遠出するなら、より濃い旅にしたいし、欲張りに巡りたい!山や海、道や空気、臨場感など、その土地のすべての自然をダイレクトに五感で味わいたい。
その願望に、登山ツーリングというスタイルが適していたことも理由として大きいでしょう。
一見無茶ではないか!?という旅程になることも多いですが、後悔したことはほとんどありません。自分の好奇心の赴くまま、常にギリギリの旅となります。
旅の最初から最後まで、常にハングリーな状態であり続けます。しかし逆に言えば、だからこそ旅先でのさまざまな出来事を、貪欲に吸収できるのかもしれません。
趣味のクロスオーバーがもたらした私の旅スタイル
現在、サラリーマンの傍ら、トラベルライターとして活動している私。そのアイデンティティは間違いなく「登山ツーリング」にあると思います。このスタイルが、旅の可能性を広げてくれ、常に自分の原動力になってきました。
例えば旅の道中、地方の里山や離島の山にも目がいったり、山麓で鄙びた宿や秘湯を探してみたり、走ってみたい道が次の旅先を決める基準になったりする、など。
少し変わった目線から、いろんな土地を見つめられるようになったのも大きい収穫です。
海外に行くのが難しい昨今。学生の中に物足りなさを感じている人もいるかもしれません。それならば、自転車&登山というスタイルに挑戦してみてはどうでしょうか?きっと海外にも負けない、冒険心の受け皿になってくれると思います。
All photos by Yuhei Tonosho