「初めての海外、楽しみだな〜〜!」頭の中はお花畑で、リスクやトラブルなんて完全に“他人事”。
「まぁなるようになれ!」と私が浮かれていた一方で、両親はまるで娘を戦地に送り出すような気持ちで不安を抱えていたといいます。
空港に行って、目的地に着いたら乗り継ぎ便で移動──。それくらいザックリしか想定していなかった私をカバーするため、両親の計らいで現地に住む日本人ガイドさんとやり取りを進め、私との縁をつないでくれていました。
出会いはメッセージから

見知らぬ土地で誰かが助けてくれる。それだけでも十分すぎるほどありがたかったのですが、さらにこんなことを言われたらつい感動通り越してときめいてしまう程です。
「SIMを用意したらこのアプリだけは入れておくといいよ」「ここのスーパーやコンビニは営業時間も長いから学校が遅くなっても安心だね」「ここは該当が少ないからなるべく別の大通りをメインに使った方がいいよ」
──そこから始まった半年間。語学学校の紹介に始まり、おすすめの観光地や一時帰国の格安チケット情報、趣味の蚤の市巡り、ときには年に一度のイベントまで……家族ぐるみで、日々を共に過ごすようになっていきました。
SIMを装着後おススメのアプリを片っ端から詰め込んだ様子
「明日、子どもたちを公園に連れて行くんだけど一緒にどう?」「旅行に行ってきたからお土産どうぞ!子供たちがrenaちゃんにあげたいって一生懸命選んでたよ~いつもありがとうね!」そんな何気ない誘いのひとつひとつが、私の留学生活をあたたかく包み込んでくれたのです。
お世話になったのは、リヨン在住の新宅一家。
“一家”といっても、フランスでは結婚に代わる法的制度「PACS(パクス)」を活用し、お互いの生活スタイルを尊重しながら暮らすという家族の形を選んでいました。
国が違えばマナーや文化が違うのはもちろん、“家族のあり方”までもがこんなに柔軟なんだと驚かされました。形式や周りの目よりも「どう支え合うのが双方にとって一番か」を大切にしている彼らの姿は、日本で育った私にはとても新鮮で、パートナーの選び方の常識もアップデートされていくように感じられたのを覚えています。
人生山あり谷あり
「こういう素敵な人たちに出会うために、もっと様々な人に話しかけてみよう!」「日本で身に付けてきた常識や考え方をどんどんアップデートして、深めていきたい!」と前向きになった1週間後早速躓いたのもいい思い出。
翌月始まった大学生活では言葉が通じず、授業も理解できず、交流は嬉しいけど伝えたいことがうまく表現できず「サポートがないと私はこんなに無力なんだ……」と自己嫌悪に陥り涙が止まらない日もありました。
予習復習に3〜5時間かけても追いつかない、そもそも問題や説明文を読む時ですら辞書がほしい毎日は受験生活より負担が大きく感じられました。
授業開始1週間目のLyon3大学スケジュール(すべて課題あり)
課題で手一杯になっているときに書類や手続きが山のように重なりパニックが続きました。翻訳しながら頑張ったのに提出物が足りなかったり、不備がないのに差し戻されたりと散々な目もしばしば……。
口座開設通知が届くポストが初期不良で壊れていたのも今では「海外あるある」として笑い話ですが、当時は心が折れかけました。
書類や案内が赤や黄色とカラフルですべて重要に見えてしまうくらいでした
この時も支えてくれたのも新宅一家
「むやみに頑張るより、まずは目標を決めよう!」「この語学学校に行くといいよ。日本人にも親切だし、最初のテストさえ頑張れば大丈夫!」
そう背中を押してくれたのも新宅さんでした。机に向き合うだけが勉強ではないと過去の実体験から伝わる力強くエネルギッシュな言葉に勇気をもらって、私はさっそく入学を決意。
すると今度は、「Lyon3だけじゃなくて、第1や第2の授業も受けてみたら?好きな授業や講師が見つかればそれもモチベーションアップになるよ!」とアドバイスをくれて──翌日にはもう、勢いのままに学校へ乗り込んでいました。
行動するきっかけをくれたのは、いつも新宅さんの“実体験を含む言葉”だったように思います。そのおかげで、私は想像以上に早く街にも馴染み、リヨンでの生活がぐっと豊かになっていきました。
Lyon2大学に潜入し、近くにいた人へ声をかけて、コッソリ授業に入れてもらいました
・名称:lyon第二大学
・所在地: 4bis Rue de l’Université, 69007 Lyon, フランス
・電話番号: +33 4 78 69 70 00
・地図:
・公式サイトURL:https://www.univ-lyon2.fr/
さらに躓いて相談した時も「あの大学は育児ボランティアに力を入れてるからフランス語の勉強におススメ!」「子供たちは平易なフランス語を単語で話してくれるから、大学の授業よりよっぽど話しやすいしおススメだよ!それに可愛いから癒されるよね~」と休日の学び方まで背中を押してくれたのです。

育児ボランティアは本を読んだり日本の暮らしを伝えたり、ご家族の仕事が終わるまでの間一緒に遊ぶものでした。
・名称:Coup De Pouce Université
・住所:CPU 1 rue Bonald 69007 Lyon
・地図:
・電話番号:04 72 70 22 90 / 06 17 51 15 38
・営業時間:Reception and registration Monday to Friday, 10am to 11:30am and 2pm to 6pm. Classes Monday to Friday 10am – 8pm
Accueil et inscriptions du lundi au vendredi de 10h à 11h30 et de14h à 18h . Cours du lundi au vendredi de 10h – 20h
・公式サイトURL:https://www.cpu-lyon.org/wordpress/
「ある程度話せるようになったらおススメなのは蚤の市で好きなものを値切ってみること!物の歴史やその人の人生を聞いてみると『理解してくれるこの人に売りたい』『いかに大切な品か伝わったなら売ってもいい』って思ってもらえたりするし、好きなものが手に入ってフランス語力あがる、日本の友人への特別なお土産もそろう。まさに一石三鳥だよ!」と教えてくれたのです。
こんなにメンタルも日常も支えてくれるのは20年来の親友か家族、学校の恩師くらいだったのでまさか「海外での出会いが人生を変える」が自分事になる日が来るなんて夢にも思っていませんでした。
蚤の市で出会った掘り出し物
そこからの成長
そんなに丁重に支えてもらっても、「うまくいかない、伝わらない」が続くと悔し涙を流しながらホームシックになったこともありました。いじめとかではなく、シンプルに周りが優しいのにお礼を返せないとかせっかく誘ってもらえるのに語学学校の授業やボランティアがあって断ることになったりする行き違いや間の悪さ。
頑張っていることが裏目に出ているように感じて立ち止まりそうになって涙が出る日もしばしば。
が、結局、声を出して泣いてるとリスニングの音声が聞こえず自分に腹が立って泣き止んだのもいい思い出です。数十冊のテキストをたった数週間でぼろぼろになるまで何度も繰り返したころ、耳も口も自然と慣れてきていました。
当時の教科書は数週間で何度も開いたり抱えて眠って実は結構折れたり曲がったりしてます「涙は邪魔、手を動かして前進あるのみ」とひたすら行動していたら、カレンダーの予定も大学の月報や支援企業への週報も空白がなくなるぐらいビッシリ埋まるほど充実していきました。
2019年から2020年にかけて提出していた報告書例(1か月分)
留学後も続くご縁
日本に帰国したあとも、新宅さん一家とは連絡を取り合っています。日本から送った小さな贈り物を喜ぶ姿を動画で見て、「日本以外にも家族がいるんだ」と改めて実感しました。
報告したいことが多すぎて<生活面><学習面>と項目を分けても毎月文字ビッシリ3~5ページほどになっていましたいつかまた会える日が来たら、成長したご家族に会って、今度は別の国で恩を返したい。そんな想いが、私の“旅を続ける理由”になっています。留学での経験は説明会や静岡に来てくれた留学生に返すよう心掛けています。
大学生活を海外にも伝えるために翻訳活動したときの取材
旅で出会った人が頭に思い浮かぶだけでも人生が豊かになる
正直「人生を豊かにする思い出つくるぞ!」と意気込んで得たご縁ではありません。両親が送り出す前に至れり尽くせりで大切に思ってくれているからこ繋がったご縁です。
偶然でも必然でもない出会いは存在する。どんな出会い方をしても、ご縁は繋がっていく。それを教えてくれたのが、旅先で出会った新宅さんという“旅する私の大事なひと”でした。日本に帰っても感謝するならあの人たちだとすぐに脳裏に浮かぶ存在に今でも感謝し尽せません。
Bon Voyage!
All photos by Rena