ライター

自然豊かな島々をはじめ、さまざまな旅先で出会った感動を写真におさめることが好き。各地の景色や物語、人々のあたたかさに触れながら、その地域ならではの魅力をひとりでも多くの方に届けるために活動中。趣味はカメラ、アート巡り、ダイビング。

美しい景色も、詳しい情報も、画面越しにいくらでも見られる時代。それでもわたしが旅に出るのは、その場に行ってみないと出会えないものがあるから。

スペインでの旅が教えてくれたのは、実際に足を運び、自分の身体で感じることの豊かさでした。それが今も、わたしの旅の相棒であり、軸になっています。この記事では、そんな“体感する旅”の魅力についてご紹介します。

光の中に立つ━━建築を”体感”したひととき

スペイン・バルセロナにあるサグラダ・ファミリア。着工から140年たった今も建築が進められていて、長らく「未完の聖堂」ともいわれています。

「建築は光を操ることで、彫刻は光と遊ぶことだ」
これはサグラダ・ファミリアの生みの親であるアントニ・ガウディが残した言葉で、彼の作品は自然の光を最大限活かすために計算しつくされた構造が特徴的です。

sagradafamilia
サグラダ・ファミリアも、その言葉を体現したような場所。中に足を踏み入れた瞬間、まず一般的な「教会」からは想像できない明るさに驚きます。差し込む光がやわらかく包み込んでくれるような、まさに「神秘の森」という表現がぴったりな空間です。

東西でステンドグラスの色が変えられていて、朝陽が差し込む東側には青や緑、西側は赤やオレンジが配置されています。時間帯や立つ場所によって、包まれる光の色が変わっていく。建物の中にいながらも、自然の光を全身に感じることができます。


自然と一体になれるような感覚を覚え、「ずっとここにいたい」と思ったこと、そして「またあの景色を見たい」という想いが、今も残っています。

今はテレビやSNSなど、あらゆる画面越しに素敵な写真を見る機会も多いですが、「光の中に立つ」感覚は、その場にいなければ味わえません。目で“見る”というよりも、光に“包まれる”。

写真で切り取られた一瞬を眺める時間と、そこに流れる時間を含めた体験は、まったく別のものでした。

一枚の絵が教えてくれた、“体感する学び”

美術館で一枚の絵に出会ったことも、わたしの旅を変えるきっかけになりました。

プラド美術館で出会った、ディエゴ・ベラスケスの『ブレダの開城』。 教科書で見るだけの絵画にはあまり興味がありませんでしたが、実際に絵の前に立ち、現地のガイドの方の解説を聞くことで、アートっておもしろい!という感覚が芽生えました。


ベラスケス作『ブレダの開城』(大塚国際美術館にて撮影)
とくに印象的だったのは、絵の中の馬。 絵をどの位置や角度から見ても、馬の後ろ姿が正面に見えたのです。実際に絵を目の前にして、 あらゆる場所から見ることで、新たな発見がある。見る角度を変えながら作品と向き合うことで、絵を“見る”から“体感する”時間に変わっていきました。

教科書や画面越しに見る絵画も、情報としては十分かもしれません。 でもその場に立ち、時間をかけて作品と向き合う。 絵に対する捉え方が変わり、鑑賞することのおもしろさを実感しました。

Las Meninas
ベラスケス作『ラス・メニーナス』(大塚国際美術館にて撮影)
さらに、ベラスケスは絵の中に自分自身を描き込むということも知り、ほかの作品にも関心を持つように。 「ベラスケスを探せ」を楽しみながらも、なぜここに描かれたのか、この絵の背景にはどんなストーリーがあるのか、と興味が広がっていきました。作者の想いや、その時代の歴史を知ると、絵の奥にある物語がより鮮明に感じられるような気がします。

その土地で、その文化とともに作品を見ること。 それは、知識ではなく”体感”によって深まる学びでした。

平面だった景色が、立体になる瞬間

スペインにあるトレドは古い街並みを一望できるアングルでの写真を見ることが多く、「美しい街」という印象が強くありました。でも実際にその街の中に入って歩いてみると、また別の世界も体感することに。

toledo
そこには人が暮らす空気があり、路地を曲がるたびに新しい景色が現れます。石畳の感触、狭い路地から差し込む光、すれ違う人の話し声。

写真では切り取られていなかった、街の“厚み”を感じました。平面だった景色が立体になり、少し遠い場所だったものが身近に感じられる感覚でした。

cafe_toledo
トレドのカフェでの一枚
有名な観光地を訪れるのは、多くの人と共通する体験かもしれません。でも、そこで何を感じ、どう過ごすかは、一人ひとり違う。

同じ場所でも、朝に歩くのか、夕暮れに歩くのか。カメラを持ってファインダー越しに見るのか、手ぶらでゆっくり散策するのか。その選択で、感じることも受け取る情報も変わってきます。

“体感する旅”は、その場所に立ち、自分のペースで向き合う時間を持つことです。情報があふれる時代だからこそ、自分の身体で感じることに価値があると思っています。

はじめて「自分の旅」になる“そのとき”

SNSやスマホの画面から、美しい景色や旅先の情報にすぐアクセスできるこの時代。でもそれは“入り口”に過ぎず、旅はそこから始まるのだと感じています。

実際にその地に足を運び、その場の空気に身を置いたとき、はじめて「自分の旅」になっていく気がしています。

スペインで出会った光、美術館で向き合った絵、実際に街を歩いて感じた空気感。そこで得た体験が今のわたしの旅の軸であり、相棒のような存在になっています。

あなたにとって旅で大切にしている事は何ですか?次の旅では、画面越しでは出会えない景色を、ぜひ体感しに行ってみてください。

All photos by yuri

ライター

自然豊かな島々をはじめ、さまざまな旅先で出会った感動を写真におさめることが好き。各地の景色や物語、人々のあたたかさに触れながら、その地域ならではの魅力をひとりでも多くの方に届けるために活動中。趣味はカメラ、アート巡り、ダイビング。

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