今回紹介する一冊は、小心者で地図の苦手な20歳の女性が旅人になるまでを描いた旅エッセイ。「ガンジス河でバタフライ(幻冬舎文庫、著:たかのてるこ)」です。
旅好きの方なら知ってるという方もいるかもしれません。この本がきっかけで旅好きになったという人も多いことでしょう。
旅、アジア、インドが一人の女の子をどう変えていったのか。面白エピソードはもちろん、著者の旅に対する思いも必読の一冊です。
どきどきが伝わるアジア編・度胸がすわってくるインド編
本著は、「1st TRAVEL アジア編」と「2nd TRAVEL インド編」から構成されています。
初めての海外、しかも一人旅を実行するまでのエピソードは若干オーバーなと思いつつも臨場感たっぷりに伝わってきます。
お母さんとのやり取りやお兄さんの存在はさすが大阪人といった具合で、冒頭から一気に引き込まれていきます。
驚かされる著者の適応力!
著者自身も小心者と言っていますが、一方でみせるハチャメチャな行動には驚かされます。
男ばかりのドミトリーに泊まってみたり、駅で野宿しようとしてみたり、エピソードの面白さとは裏腹に、「一つ間違ったら…」と思うとヒヤヒヤしてしまいます。
著者自身「生きる/死ぬ」ということと「旅」をオーバーラップさせて考えている部分があり、無意識のうちに自分をそういう環境に置こうとしていたのかもしれません。それにしても、旅先でみせる驚異的な適応力には脱帽です。
価値観が変わるといわれるインドで見たモノとは
旅を通じて、特にインドは人生観や価値観が変わるという話はよく聞きます。言葉にすると簡単ですが、宗教や貧困、そしてそこから生まれる差別もそうした人生観の転換に大きく関わっていることでしょう。
日本にいては気づきませんが、インドでは「当たり前」のこととして行われているカースト制という名の差別。私たちの生まれた土地が、インドではなく日本であることで生じる意識の違い。
それは、「豊かな日本に生まれてよかった」というような薄っぺらい幸福感とはまったく異なる、まるで頭を金槌で後ろから殴られたような衝撃だったのかもしれません。
ガンジス河でバタフライ!
「2nd TRAVEL インド編」の後半はバラナシに移動して、いよいよガンジス河での沐浴&バタフライに話は移っていきます。
特にインド編では、アジア編ではなかった写真が所々に挿入されていて、またガンジス河やそれを取り巻く風景描写も丁寧にされていて、読んでいて現地で間近で見ているような錯覚(以前観たDVD版がフラッシュバックしている可能性もありますが)を覚えます。
哲学的な旅感に考えさせられる
私が本著を読んで感じたのは、旅行記としての面白ハチャメチャエピソードももちろんですが、著者の持つ「旅感」の面白さでした。
作品中に時々でてくる旅に対する著者のイメージ、ガンジス河のほとりで交わしたお坊さんとの禅問答、最終章「私の帰る場所」で綴られる著者の想い・葛藤は、共感する部分も多く引き込まれていきます。
エッセイ集でありながら、結構自分の内面・心境の深い部分までを晒している点が作品に深みを持たせているのかもしれません。
まとめ
私が旅に目覚めたのは30歳を過ぎてから。友人がくれたガイドブックと一言英会話集を持ってのタイ・バンコク一人旅でした。
初めての海外、しかも一人旅の思い出。旅好きの方なら著者の心境の変化は自分とオーバーラップする部分も多く、とても懐かしく、「あぁ、そうだった。そうだった」と蘇ってくることでしょう。
これから旅をしようと考えている人も、かつて旅した人にも「旅っていいな」と思わせてくれる一冊です。